いまだに彼は婚約者に会えない
わたくしはいつ婚約者に会えるのだろうかのヒーロー視点
生まれる前から辺境伯令息である自分と王の4番目の姫と婚約が決まっていた。だけど、手紙のやり取りはしていたが、一度も会っていない。
会おうとはしていたのだ。
何度も何度も予定は立てていた。なんなら幼少の頃にでも会えていたはずだった。
「若!! ドラゴンが出現したとっ!!」
「分かったすぐに出る!! あと若呼びはやめてくれ」
「では、シュタインさま!!」
辺境伯領は常に危機と隣り合わせだ。何か異常事態が起きたらすぐにでも前線で的確に動かないと危機は国を襲う。
それゆえに常に全勢力が動かせるように指揮する人材が必要で、優秀な戦力も当然必須で。
そのどちらにも当てはまっているのが自分だった。
なので、緊急事態の時にすぐに動けるようにしていないといけないので、婚約者に会いに行くための準備をしていても緊急事態になったらそれを中止にして戦場に向かう。
それが国を守るための覚悟だと。
だけどな。だけど……。
「なんで出掛ける時に限って緊急事態が起きるんだっ!!」
毎回毎回毎回………もう危機が去ったと思ったら次の危機……。出かける用意をしていると何かが起きるから中断して、次に行く予定を立てて行動するが、また何か起きる。
ドラゴンが出たと思ったら。ダンジョンが発生して魔獣が大量発生とか。やっと片付いたと思って王都に向かう準備を再開しようとするが持っていくために用意した非常食などは今回の騒動で使ってしまっていたとか。復興支援のために辺境伯家総動員で仕事をしないといけないとか。
父も母もいるから内政関係は不安はないが、両親の年齢が年齢。そうそう戦場に出続けるわけにはいかないし、弟妹はまだまだ実力不足で領地を任せるのに不安がある。
自分が心配性なのだろう。
「会いに行きたい……」
「行かせてさしあげたい気持ちはありますが……、さすがにドラゴンを討伐するのに人員が欠けているのは……」
側近が申し訳なさそうに頭を下げる。ちなみに彼はお見合いしようとするがお見合い会場がドラゴンによって破壊されてその話は流れたとか。
お見合相手が壊れた会場で怪我をして、助けてくれた騎士に恋をしたとか。
「出会いって、どうやって作ればいいんでしょうね…………」
遠い目をして告げている側近に声を掛けることが出来なかった。
ドラゴンは数か月掛けて無事討伐が出来た。その際の被害状況の報告を聞き、復興支援の計画を立てていく。
「ようやく討伐出来ましたが、まだ忙しくて会いに行けそうにありません……。と」
婚約者に送る手紙にそんな内容しか書けない自分に呆れる。一度も会っていないのだ、婚約者だと思っているのは自分だけで見限られているかもしれない。
「せめて何か贈り物でも出来ればいいのだが……」
好きな物は手紙に書かれていた。だけど、本人を知らない。
どんな大きさの物を送ればいい。髪飾り? 指輪? 首飾り? サイズが合わなくて不格好になったらどうすればいいのだろうか。
相手にそんな恥をかかせてはいけない。
「……こんなの貰っても嬉しくないかもしれないが」
ふと思い立って、今回討伐した竜の鱗を封筒にたくさん入れておく。
お気に召したら装飾品として加工してお使いください。
と一文を添えて。
「兄上。今なら会いに行けるのではないですかっ!!」
今日も復興の手続きをしていると見かねた弟妹が声を掛けてくる。
「だが、復興を疎かに……」
「任せられるところは任せておけばいいのですっ!!」
確かにそうだが。
「早めに用意して、旅に出れば、緊急事態など早々に起きません!! 兄上は慎重にし過ぎで機会を逃しているだけです!!」
任せてくださいと必死に説得される。
そうか、そうだな……。
供を最小限にして、荷物も少なくして、必要になったらその都度仕入れていけば……。
「大変ですっ!! 魔獣がっ!!」
ささやかな希望をまた打ち砕かれる。
「すぐに動ける者を集結させろ!!」
まだ、会いに行けませんと一文を書かないといけないのかと気鬱になってしまう。
そんなある日のこと。
「若っ!! 大変ですっ!! 今、王都から魔道通信が来てっ……」
どんな距離があっても通信できる貴重な魔道具の名前を部下の一人が叫ぶのと同時に、
「兄上っ!! 王都方面から騎獣の軍団がっ!!」
弟の叫び声。
「親父に連絡はっ⁉」
「妹が行ってる!!」
弟の報告を耳にしながら騎獣が一番見えると思われる城郭に向かうと先頭を進んでいる騎獣から合図が送られる。
(着陸できる場所に誘導してくれ……?)
何者なのだろうかと思っていたらどんどん姿が見えて、それが王都軍の鎧に身を包んだ軍団だと気付いた。
そして、先頭の騎獣が清らかな女性しか乗せないことで有名な一角獣であるのに気づいたと思ったら――。
「魔獣暴走の被害の支援に軍を送ると今魔道通信にありました……そして、その指揮をしているのが……」
情報が交錯している中辛うじてそんな話が聞こえたが、連絡よりも早く軍が来るのはいかがなものだろうか。
「――本当に魔獣が良く発生するのですね」
てっきり、辺境で女性を囲っているのかと思っていました。
最初に降り立ったのは鈴のような綺麗な声を持つ、花の様な可憐な女性。彼女だけは鎧ではなく動き易そうな軽装に身を包んでいるが、質の良いモノだと一目で分かる生地。
彼女の髪、耳、首元には竜の鱗を使った飾りがこれでもかと使われていて……。
「会いに来てくれないから会いに来ました♪」
どこか楽しげに笑い、彼女は多くの兵士を連れていた。
まさか……。
「竜の鱗なんて貴重な物を封筒に入れて贈るのはいくら何でも不用心ですよ。まあ、おかげで貴重な竜の素材が手に入ると判明したので父を説得して辺境に援軍を送れる用意が出来ましたけど」
鱗は貴重なんですからもっと慎重に送ってください。まあ、貴重だと思わないほどたくさん手に入るって証明でしょうけど。
どこか困ったように笑う。
「ホーリア姫……」
初めて会うが、身を包んだ竜の鱗が自分の婚約者だと教えてくれている。
「後、魔物暴走とか竜の出現の時は救援要請をした方がよろしいかと」
「……………………以前出したら信じてもらえず、救援は来なかったんだ。その時の怪我が原因で父が前線に出れなくなったんだ……」
「まあ、それは……。こちらの判断ミスですね。後で責任者を処罰させます」
あっさりとそんな決断を下せるホーリア姫に驚かされる。
自分との婚約の話は、辺境との関係を強化したいが、大事な娘を出したくないから側室のどうでもいい姫と結ばせたと聞いていたから。
「竜の鱗」
いきなり告げられる。
「あっ、ああ。身に着けてくれてますね。お似合いです」
褒めてほしいのかと思って実際似合っていたのですんなり告げると、
「竜の鱗一つで、城一軒買えるほどの価値があります。確かに、装飾品でも綺麗ですけど、これを見せれば一発で信じてもらえたし、援軍も送ってもらえたんですよっ!!」
「えっ!!」
鱗一つで!?
竜が落としていく鱗など装飾品にしかならないでただ同然だったのに。
「商人などは……」
「こんな田舎に来る商人も少なくて……」
「………………」
ホーリア姫は呆れている。
「まあ、真実を言わないでカモにするような悪徳業者が来なくてよかったですね」
溜息とともにそんなフォローをされる。
「まあ、これからは希少価値のある素材があると言うことでそれを手に入れたい方々が次々と支援してくれますよ」
ホーリア姫の言葉を裏付けるように、騎士団に交じって魔術師とかが興奮したように魔獣の素材を見ている。
「それは……」
まさか、今まで何度も断られていたのにこんなあっさりと。
「貴族間の情報は命綱になるのですからこまめに仕入れた方がいいですよ」
「面目ない」
「まあ、これからはわたくしがそちらの方面で支援します」
ホーリア姫がそう告げると同時に何か迷うような素振り。やがて、勇気を振り絞ったように隣に立ちくっついてくる。
「ほっ、ホーリア姫っ!!」
「…………やっと」
小さな声が聞こえる。
「やっと、会えたのだから。思いっきり甘えさせてください」
初めて会う婚約者。だけど、その婚約者のいじらしさが可愛らしくて、
「俺も甘えてほしかったです」
と思わず本音が漏れてしまい、二人して顔を赤らめてしまった。
ちなみに手紙だけでも好印象だったが、一目見て心奪われたのは当分秘密にしておく。
十〇国記が来年発売という情報を知って、ふと麒麟に会いに行く方法が年に一回(ただし4か所)にしか開かないの門からその場所に向かわないといけないけど、それに行こうとした機会が何らかの理由で行けなかったらと思ったので




