【第2話:再会と始まり】
あの日、あの笑顔に心を奪われた。
僕を支えてくれた――まだ僕を「人間」として見てくれる人が、目の前に立っていた。
「ディナ? 君はディナだよね?」
「うん、私がディナだよ。」
その優しい微笑みはまるで天使のように、そっと僕の心に触れた。
「君もこのアカデミーに?」
「もちろん! 魔法も武術も学びたいし、私も強くなりたいんだ。」
僕は思わず微笑んだ。ディナの存在は、僕の不安を和らげてくれた。
僕たちは並んで歩き出す。未来へ続く、新たな道を。
けれど、周囲の視線が徐々に鋭くなるのを感じた。
彼らの目には、疑いと恐れが宿っていた。
――僕は、“モンスター”だから。
「視線が痛いな……。ディナ、君は僕と歩かない方がいいよ。」
「何言ってるの? 私が君を危険だって言ったことある?」
ディナは突然僕の前に立ち、真剣な目で僕を見つめた。
「自分を悪だなんて、二度と言わないで。」
僕は言葉を失った。でも、心は少しだけ温かくなった。
ディナは、まだ僕のそばにいてくれる。
やがて僕たちは大講堂に着いた。入学式が行われる場所だ。
百人の新入生たちが、壇上に向かって立ち並ぶ。空気は希望と緊張に包まれていた。
壇上に現れたのは、金髪ショートの小柄な女性。
その顔立ちは大人びていて、堂々とした雰囲気があった。
「黄金の真珠アカデミーへようこそ!
五百人の応募者の中から選ばれたのは、君たち百人だけ。
君たちはこの国の宝だ。努力を怠らず、絶対に諦めるな。真の戦士は、決して後ろを向かない!」
拍手が会場に響く。
僕は彼女の表情を見つめた。
(あの真剣な顔……きっと頭も良いんだろうな)
式が終わり、僕とディナは自分たちの教室を探す。
廊下で、一人の男子生徒とすれ違った。
イケメンで真剣な表情、鋭い眼差し。
言葉は交わさなかったが、彼からは何か特別な“気”を感じた。
「どうしたの、ワン? 何かあった?」
「いや……ちょっと気になっただけ。」
やがて、教室の前にたどり着いた。
僕は名簿を確認する。
「やった! 同じクラスだよ!」
ディナは嬉しそうに微笑む。
「そうだね……。」
教室に入ると、生徒たちは既に仲良く話していた。
僕は居心地の悪さを感じた。
(仲間外れにされるかも……)
そんな僕の肩を、ディナがポンと叩いた。
「大丈夫。私たちはここで一緒に頑張ろう。」
僕は小さく微笑む。
(こんなに優しくて綺麗な子が、“モンスター”の僕を支えてくれるなんて……)
僕たちは別々の席に座った。
僕の隣は、長い黒髪の女の子。周囲に無関心で、本に夢中になっているようだった。
(これが教室の空気か……教室で座るのは5年ぶりかも。ここが僕の再出発だ)
そこへ一人の男子生徒がやってきて、手を差し出してきた。
「やあ、よろしくな。俺はロイ・ヘンダーソン。仲良くしようぜ。」
少し戸惑ったが、僕も手を差し出した。
「ワワンだ。よろしく。」
ディナがこっちを見て、微笑んでいた。
でも、隣の子は相変わらず本に夢中。……タイトルはミステリーノベル?
(女の子がこういうの読むなんて珍しいな。すごいな……)
その時、彼女が本をバタンと閉じて、こちらを睨んだ。
「ジロジロ見ないでよ。」
「え、え? いや、ちょっと見ただけで……」
「嘘つかないでよ。はっきり見てたでしょ。」
彼女は立ち上がり、顔を近づけてきた。
ロイが慌てて止めに入る。
「おいおい、ケンカはやめようぜ。もうすぐ授業始まるんだし。」
「男なんて、みんな同じ。」
彼女はまた座って、今度は本をこちらから見えないように持ち直した。
名前は――サラ・アキーラ。
無愛想で気の強い子。でも……なんか気になる。
そこへ女の先生が入ってきた。
美人でカリスマ性がある。
その後ろから、さっきすれ違った男子生徒が入ってきて、僕の前の席に座った。
「おはよう。私はリナ・カルリナ、今日から君たちの担任だ。
この学期、皆をしっかり導いていくから、よろしく。」
彼女はこのアカデミーで5年以上教えているベテランだ。
38歳らしいけど、まるで戦場の指揮官のようなオーラを放っている。
「このアカデミーでは、単なる学びだけじゃない。
ここでは“力”と“継続”……そして“ランク”が求められる。」
「ランク……?」
「ここは厳しい場所だ。多くの伝説がここから生まれた。
だが、すべては“才能”ではなく“努力”から始まる。」
僕はその言葉に引き込まれた。
前の席の彼は無表情のまま。
サラも興味なさそうだった。
授業が始まり、1時間目が終わった。
僕は帰る準備をしていた時、前の席の彼の腕時計が床に落ちたのを見つけた。
彼は既に教室を出ていた。
僕はそれを拾い、返そうと探す。
彼は中庭にいた。空を見上げて立っていた。
「おい、腕時計落ちてたぞ。」
彼は僕を見る。目つきが鋭い。
「お前が取ったんだろ? 売る気か? これ高いんだぞ。」
「は? 落ちてたのを拾っただけだ。人の物を盗るなんて、そんなことしねぇよ。」
彼が一歩近づく。
「とぼけるなよ。白々しいんだよ。」
僕も一歩踏み出した。
「ケンカ売る気はねぇけどな。勝手な決めつけはやめろ。
俺のプライドは、そんなに安くねぇ。」
空気が張り詰める。お互い目を逸らさず、睨み合う――
その時、誰かが僕たちの襟をガシッと掴んだ。
「やめなさい! このアカデミーでは、戦うならアリーナか公式戦だけだ!」
そこにいたのは、落ち着いた雰囲気の大人の男性。
優しさと厳しさが混ざった表情。
彼の名は――テオドア・スミス。
この学園の指導教官の一人だ。
「ここは、プライドをぶつけ合う場所じゃない。
ここは、互いに学び合う場所だ。」
アルファクリ――あの生徒は、顔をそらしてその場を去った。
僕も立ち去ろうとしたが、テオ先生に呼び止められた。
「君がワワンだな? 少し話せるか。」
僕たちは学食で話をすることになった。食事をしながら。
「アルファクリと、何かあったのか?」
「いえ、先生。ただ腕時計を返そうとしただけで……」
テオ先生は静かにうなずいた。
「彼はな……感情的で、自己中心的だ。でも、悪い子じゃない。
僕が五年間ずっと見てきた。だけど……彼は迷っているんだ。」
「先生、彼とそんなに親しいんですか?」
「親しいなんてもんじゃない。彼がここで生き延びられたのは、僕が導いたからだ。
でも最近、彼の心はどこか“闇”に傾いている気がする。」
「……」
「君にお願いしたい。彼を助けてやってくれ。」
僕は黙り込んだ。心が揺れ動いていた。
(僕だって……助けてほしい。なのに、誰かを助けるなんて……
でも――この学園……面白いかも。
ここで僕は……戦ってみたい。乗り越えてみせる。)
……つづく
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。