38 最後の下準備
普段通り過ごすように。
そうアリエッタに伝えた後、いつものようにプラチナ学園まで送り届けるレオナ。
期限がはっきりと定められた今、予定していた作業を急ピッチで進めていくしかない。
プラチナ学園の送迎馬車専用の出入り口から入り、所定の場所へ停車させる。
他にも数台の馬車が行き来していた。
どれも上流階級の貴族令嬢や貴族令息を乗せた馬車である。
徒歩で登校、あるいは寄宿舎で生活している生徒は成り上がりの貴族か、一部の特別優秀な生徒だけ。
貴族が主となるこの学園では、大半がこうして馬車での登校となっている。
「それではアリエッタお嬢様、いってらっしゃいませ」
アリエッタの態度に不安は見られない。
払拭できたのか、そう演じているだけなのか。
残念ながらアリエッタの体調を気遣って学園を休ませるわけにはいかなかった。
タイムリミットが迫っているのはレオナもアリエッタも同じなのだから。
少しでも人々の目に留まるように過ごさなくてはいけない。
家に閉じこもるわけにはいかないのだ。
(さて、私は私の役目を果たさなければ)
レオナは御者に急用があるから先に屋敷に戻るよう伝え、自らは学園に残ることとした。
堂々と歩き出し、人目の付かない場所へと向かう。
そこで迷彩のクリアスライムを全身に纏って姿をくらました。
あとはそのまま学園関係者や生徒たちが滅多に足を踏み入れない西校舎の屋上へと向かい、そこを今日の拠点として準備を進める。
窃盗の魔性ファンシーラット、模倣の魔性ミラーミラー、収納の魔性ガルガンシエル、幻影の魔性ドッペル、迷彩の魔性クリアスライムを魔力に余裕がある程度で切り替えた。
「聖女への嫌がらせ、それから無能殿下への印象操作。プロムナードは参加する新一年生も加え、男女のペアを作ることができるからアリエッタお嬢様が密かに焦っていると、そう思わせないといけないわね」
プロムナードは卒業生を送り出す名目と、華やかなダンスパーティーが行なわれる。
新一年生を加えたこのパーティーには必ず聖女セスティリアも参加するはずだ。
例え本人にその気がなくても、ランドルフが誘うことだろう。
そしてパートナーに婚約者のアリエッタではなく、きっとセスティリアを選ぶに違いない。
それはこれまでのランドルフの態度から、周囲の者も認識していることだ。
つまり婚約者として恥をかきたくない悪役令嬢は、セスティリアがパートナーに選ばれないように色々と画策していてもおかしくない。
周囲が洗脳によっておかしな行動を取ることはあっても、こちらがおかしな行動を取ることは憚られてしまう。
あくまで可能性としてなくはない、という状態を作っておかなければいけなかった。
それに関してはレオナの性分もある。
不自然な行動を取ることで自分が気持ちの悪い思いをすることになるからだ。
あくまで自然な流れを取れば、何かの拍子にそれを言及されても反論できる。
「さぁ、断罪のプロムナードまでの数日が勝負よ。悪役令嬢アリエッタ・クリサンセマムがどれだけ酷い人間なのか、お望み通りの役を提供してあげましょう」
アリエッタは何も知らず、日常を過ごす。
悪役令嬢として演じることを徹底し、極力セスティリアとの接点は控えめに。
何よりランドルフに対して執拗に迫ることを入念に。
プラチナ学園で、クリサンセマム家で、外出先で、アリエッタはこれまでの締めくくりと言わんばかりの悪役令嬢を演じ切る。
フィクスはプロムナードの紹介を受け、すでにアンデシュダリア国に滞在していた。
王族、教会上層部と会談を重ね、交流を深めていく。
あくまでアンデシュダリア国を尊重する言い回しをし、あちらの手のひらの上でわざと踊ってみせた。
マリクも同様に、アリエッタと魔道具関連で動きを見せるがフィクスほど目立った行動はしていない。
見目麗しい外見と物腰柔らかな対応、何より王弟殿下という地位を使ってマリクは貴族の中でも爵位を持つ令嬢たちに声をかけ、親睦を深めようと試みた。
その目的は、彼の魔力が込められた愛らしいマスコット人形をプレゼントするところにある。これはフィクスが長年信頼している人物による手製の物で、特殊な技術が施された魔道具人形だ。
恋愛成就のお守り、美容効果を高める作用、名目はいくらでも思いつく。
それを無償で提供し、少しでも多く拡散してくれることを願いながら幅広く活動していた。
そしてレオナは最後の準備に取り掛かる。
悪役令嬢断罪計画に関しては、ジオーク教皇に完全服従した状態で赴き計画完遂のために必要な流れを打ち合わせしていた。
レオナの日課として、当然アリエッタの悪行の追加も忘れずに行動を続けていた。
計画のためならば、どのような工作も援助を惜しまない教会側は王国側で管理している事柄、さらに貴族院で管理している予算などの着服、横領なども簡単に操作できた。
全て悪役令嬢による悪行、犯罪行為となるよう仕向けるためならば教会側は援助を惜しむことなどなかった。
同時に悪役令嬢救済計画の際には、フィクスと共同で下調べや罠を仕掛けていく。
これに関してはアンデシュダリア国内にもはや味方など一人もいない状態なので、完全に二人だけで作業を進めていくことになった。
断罪のプロムナードまでのカウントダウンが迫る。
***
「今日は存分に楽しんでいただけたら何よりですぞ、フィクス王」
「卒業生を見送るパーティーとは聞いていたが、社交界並の絢爛さで行なわれるのだな。実に楽しみだ」
プロムナードはプラチナ学園で最も広い大ホールで行なわれる。
煌びやかな装飾などは数日前から業者が準備を進めていたので、下手な社交界より華々しいものとなっていた。
この場に参加できるのは学園関係者、学園の生徒、そしてゲストとして呼ばれたフィクスとマリク、運営に必要な人材のみである。
ホールにはすでに多くの生徒たちが華々しいドレスで着飾り、歓談していた。
やがて断罪のプロムナードが幕を上げる。




