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私は悪役令嬢の、ただの侍女でございます  作者: 遠堂 沙弥
第一部 悪役令嬢断罪計画
1/56

1 公開処刑

まだ完結まで書ききれていませんが、第13回ネトコンの締切りに間に合わせるため投稿することに決めました。

まだまだ未熟ですが、どうぞよろしくお願いします。

 それはよく晴れた青空の下で行われようとしている、公開処刑の場。

 稀代の悪役令嬢アリエッタ・クリサンセマムは両手を後ろ手に縛られ、壇上に設置された断頭台を前にしてもなお不敵な笑みを崩さなかった。


「最後に申し開きはあるか」


 アリエッタによる全ての罪が露呈し、裁判すら行われることもなかったスピード断罪。

 申し開きも何もない。

 あったとしても聞く耳を貸すはずがないので、とんだ愚問である。


「私はアリエッタ・クリサンセマム、申し開きなどという無様な真似は決していたしません。私の首が刎ね飛ぶ光景を、誰一人顔を背けずその目に焼き付けるがいいわ」


 抽選により公開処刑を見物しに来た国民からは野次が飛び、王族と教会関係者の全員が侮蔑の眼差しでアリエッタを見つめる。

 不幸にもアリエッタの婚約者である王太子ランドルフは、心から愛する聖女セスティリアの側で処刑を見守っていた。


 そんな中、主賓席に招かれた分不相応な女が大罪人を冷たい眼差しで見つめている。

 彼女はアリエッタ専属として雇われた侍女だ。

 ただの侍女が、隣国であるグランディス国王やその王弟と肩を並べて処刑を見物するという異様さは、しかし悪女アリエッタの処刑の前では霞んでしまう。


(可哀想なアリエッタお嬢様……)


 心を痛めるような表情を作り、懸命に笑いを堪える。


(唯一心の拠り所だったはずの私に裏切られて……、さぞ苦しいでしょうに)


 アリエッタが幼い頃に世話係として雇われた侍女、レオナはいつもどんな時でもアリエッタの側にいた。

 貴族令嬢たらんとした礼儀作法はもちろん、誰よりも完璧であるように育て上げたのはこのレオナだった。

 そんなレオナが今まさに断頭台で処されようとしている主人を前に、これまでの苦労がようやく実を結ぼうとしていることを実感して、恍惚状態に陥っている様子だ。


(お嬢様が本当は何の罪も汚れもない、心の優しい女の子だって知っているのは、この世で私ただ一人……)


 心の中で今か今かと待ち続けるレオナ。

 断頭台へと続く階段を一段、また一段と、アリエッタはゆっくり上っていく。

 拍手を送るアンデシュダリア国王や枢機卿、婚約者のランドルフまでが満足そうな笑みを浮かべて手を叩いている。

 やがて拍手が止み、静寂が訪れた。聞こえてくるのは遠くで鳴いている鳥のさえずりのみ。

 結局この場にアリエッタを弁護する者は誰一人として現れない、かと思われた。


「申し開きならこちらにございます」

「……っ!?」


 沈黙の中で、低いがよく通る声で申し出たのは隣国グランディスを治めるフィクス国王であった。黒く長い髪は男性にしておくにはもったいないくらいに美しく、凛々しい顔立ちは品性そのものを表しているようだ。

 国賓として座していた彼が立ち上がり、アンデシュダリア国王に向かって進言する。


「今回の断罪劇の一部始終を見てきた身として、不可解な点がいくつかあることを問いたい」

「不可解だと? はっはっはっ、何を言うか。全て明白、事実だ」


 フィクスの疑問を一笑に付すアンデシュダリア国王。

 同時に王族、教会関係者、国民の一部もまた笑い飛ばしている。


「彼女は何者かの手によって陥れられようとしている」

「罪状は明らかだ! そこにいる女は大きな罪を犯したのだ」


 国王がフィクスの言葉を遮ると、宰相にあごで指示しアリエッタの罪状を読み上げさせた。実はこの罪状、国民の誰も聞かされていない。初めて聞く内容である。

 アリエッタ・クリサンセマムが一体どのような罪で裁かれようとしているのか、驚くことに誰もその実情を知らされていなかった。


 知っているのは彼女の罪が明かされた、プロムナードが開催された夜のこと。

 断罪劇を目撃したのはその場に出席していた生徒や教師陣、そしてゲストのみである。


「こほん、え~……アリエッタ・クリサンセマムの罪状を読み上げます。まずはこちらにおられます聖女セスティリア・ルドベック嬢への名誉棄損罪、脅迫罪、侮辱罪、暴行罪」


 そこまで言い連ね、これまでで最大の野次や罵声が轟いた。

 聖女とは信仰心の強いこの国において、信仰対象と言ってもいいほどの存在。

 神託を受け、神の御業を行使可能とする選ばれし少女。

 つまり国民にとって神にも等しい価値を持っているのだ。

 当の聖女セスティリアは黙って項垂れるばかりである。これまでの非道な扱いを受けて、未だふさがらない心の傷が疼いているものとばかりに、王太子ランドルフが優しく肩を抱き寄せた。


「続いて、聖女が行なうはずであった試練の奪取」


 聖女の試練はいくつかあり、一部においては聖女以外でも受けられるものがある。

 今回の罪状に該当するものは、この世界の元素をそれぞれ司る四大精霊との契約に関するものだ。

 本来なら聖女が各精霊の試練を受け、契約を交わし、その力で国の平和に役立てるというものなのだが。

 アリエッタが聖女を出し抜き、四大精霊との契約を勝手に交わしたという。

 そのため今のアリエッタは世界でも類を見ないほどの魔力量を要することとなった。

 生まれつき魔法に関する素養があったものの、四大精霊との契約によって無尽蔵な魔力量や精錬された技術を、アリエッタ一人が手に入れたことになる。

 聖女を崇めるこの国において、これは重罪に等しかった。


「加えて国家予算の横領、脱税、悪質な売買、密猟斡旋、数え上げればキリがありません」


 そうため息交じりに、半ば投げやりに読み上げた後だ。

 宰相の眼光が鋭さを帯び、最後の罪状を口にした。


「そしてこれは国家転覆を目論むほどの、第一級犯罪……。神聖黙示録セイクリッドバイブルの写本が安置されている宝物庫への不法侵入。それのみならず、写本を贋作とすり替えるという大罪。これは王国への反逆、極刑に値するほどのものです!」


 神聖黙示録セイクリッドバイブルとは、伝承にある聖魔戦争が勃発する以前に神々の言葉を書き記したもので、世界創造から全ての魔法術式に関する内容が記された書物のことである。

 これを読んだ者は世界を手に入れるとも、滅ぼすとも言われていた。

 そんな神々の遺産とされる書物は、人々や悪魔たちによって次々と書き写されていくが、唯一のオリジナルは聖魔戦争の際に虚空の彼方へ姿を消したという。

 神聖黙示録セイクリッドバイブルの内容を書き写したとされる写本は世界中に存在し、その内容はオリジナルにほぼ近いといわれるものから、全くのデタラメな内容が書かれたものまで有象無象に存在している。

 アンデシュダリア国で保管していた神聖黙示録セイクリッドバイブルは、オリジナルに最も近い写本とされ厳重に管理されていたのだが。

 これをアリエッタが保管庫に侵入し、贋作とすり替えたことで彼女の極刑は免れなかった。


「他の罪がどうであれ、神聖黙示録セイクリッドバイブルの写本を持ち出した罪だけはどのように贖罪しようと赦されるものではない! さぁ、グランディス国王陛下殿、これをどう申し開きすると言うのかな」


 勝ち誇ったように豪語するアンデシュダリア国王。

 しかしフィクスは鼻で笑うように、余裕の笑みを崩さなかった。


「確かにこのまま俺が何をどう証言しようと、ここにいるアリエッタ嬢をただ擁護したいだけの偽証と捉えられかねないだろうな」


 それがわかっていたからこそ、フィクスは腰に付けた布袋から美しくも妖しい光を放つ水晶玉を取り出し、全員に見えるよう掲げてみせた。


「この水晶玉は俺の魔力に呼応し、目の前で起きた光景をありのままに記録する魔法道具である」


 そう説明した後、フィクスが水晶玉に呪文のような言葉を呟き起動させる。

 水晶玉は一瞬目が眩むほどの強い光を放った後、断頭台と見物客との間に不思議な映像が現れた。

 そこに映し出された映像は、アンデシュダリアにある地下牢。牢屋の内側には憔悴したアリエッタの姿が。そしてもう一人、そのアリエッタの目の前――牢屋の外に立っている人物が映し出されている。


『お嬢様に心当たりがない聖女への嫌がらせの数々は、全てこの私がしてきました』


 音声も映像と同時に流れる。

 この人物に心当たりのある人間のなんと多いことか。


「こ、これは……っ!?」

「あの女の人、主賓席にいる人じゃない?」

「あいつ知ってるぞ! いつもアリエッタの側にいた、あのメイドだ!」


 全員の視線が一斉にレオナを捉えた。

 レオナは眉一つ動かさず、余裕の表情でその映像を見つめる。

 ここからが本番だとでも言うように、フィクスはレオナを指さし叫んだ。


「全てはアリエッタ嬢に仕える侍女レオナによる策謀である」


 周囲が一斉にざわつく中、侍女レオナだけがフィクスの言葉に密かにほくそ笑んでいた。

第5回HJ小説大賞にて最終選考に落ちてしまった作品ではございますが、自信をもって書き上げているのでよろしければいいねやブクマ登録などしていただけると完結まで定期的に更新できると思います。

今後もよろしくお願いします。

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はじめまして! こんにちは! 拝読させていただきます_(_^_)_
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