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ZWEI

 少女の名前はアンネ、町医者の娘だ。栗色の髪に緑の目、そばかすがチャームポイント。まだまだ元気な11歳である。

 アンネは友達とよく遊ぶ広場のことならたいがい知っていた。広場の前に人形屋があることも知っていたし、ガラス越しに見える、可愛くて美しい人形がずらりと並んでいる店内のことも知っていた。どれも大きくても大人のひざ丈の、子供が抱えるとちょうどいいくらいの大きさばかりである。

 けれど、ある春の暖かな日、その人形屋の三階に大きな人形があることに気がついた。薄い金髪の、男の子の人形だろうか。その人形に気がついた日から、少女はその人形を時々見上げるようになった。その人形はある日は遠くを眺めるように、ある日は広場にいる自分たちを見下ろすように首の角度を変えた。そして、全くと言っていいほど動かなかった。

 しかし、三階は普通、店を開いている家の人の居住スペースになるか、下宿スペースになる。二階には夜も明かりが灯り、夫婦が人形を作っているか夜を過ごしているのだろうと思われた。

 では、三階にあるあの人形は一体なんだろうか。店頭に並ばないと言うことは売り物ではないのだろう。倉庫に押し込むわけでもなく居住スペースに置いているのなら、夫婦が相当大事にしているのだろうか。

 アンネはその人形に興味を持った。

 それからというもの、雨の日以外はその広場まで行って、窓の外を眺める人形を一目見上げるようになった。少し見たら、すぐに目を逸らした。ああ今日もあそこにある、と思うだけだった。そのまま、しばらくの時が経った。

 ある日、いつも遊んでいた友達が色々な理由で遊べないと知り、それでも外はここちよい秋晴れだったため、アンネはあの人形を見に行こうと家を出て広場に向かった。

 町医者の娘であるアンネにはあまり関係がなかったが、秋の収穫祭のために人々は町から出払っていて、広場には人がいなかった。ここぞとばかりにあの人形をじっくり見ようと首を上に向けた。

 人形は広場を見下ろすように置かれていた。三階分の距離があるためあまりわからないが、まるで目が合っているかのようだった。

 見れば見るほどその人形は人間のようで、けれどその美しさは人間ではないようであった。窓は閉じられており、わずかに歪んだガラス越しのその人形にアンネは見惚れていた。

 ふと、その人形が瞬きをした。

 一瞬のものではなく、ゆっくり閉じてゆっくり開く、酷く静かで美しいものだった。

 (でも、お人形は瞬きなんてしないわ)

 アンネはもしや、と思った。

 (もしかして、今まで私がお人形だと思っていたあの子は…人間なの?)

 アンネは、その子が今この瞬間に動き出し、広場まで降りて来てくれないかな、とわずかに期待しながらまた三階の窓を見上げた。けれど、ガラス越しの子はそれから何度か緩慢な瞬きをしただけで、気がつけば夕暮れが街をカエデ色に染めていた。

 窓のお人形が人間だと知った日から、アンネはその子に恋をしているのだと少しずつ気がつき始めた。友達になりたい、一緒に遊びたい、もっと近くでお話をしてみたいのだ。けれど自分以外の街の子供はあの子が人間だということを知らないし、そもそも三階の窓を見上げることもなかった。

 (あの子のことは、私しか知らないんだわ)

 アンネはそう思い、その優越感に密かに浸っていた。

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