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EINS

 ある街に、人形職人の夫婦がいた。夫が作った人形の素体に、妻が作った服を着せて、家の一階にある人形店に並べて売るのだ。夫婦は至高の一品と言えるような人形を作ることを目標にしていた。しかし、どれだけ努力しても、作る人形の肌には温もりがなく、細かな装飾を施しきれない小さな服が出来上がる。

 夫婦は考えた。人間の子供を人形のように育てれば、それらの悩みはすべてなくなる、と。髪の手入れも食事の制限も洋服を作る技術だって、全て不可能なことではないのだ。それからしばらくして二人の元に生まれた男児は、幸か不幸か非常に見目麗しい人物であった。

 ファーレンと名付けられた少年の一日は、母親の言葉で始まる。どれだけ早く目覚めていても、母親が「さあ、目を開けて」と言うまでは動かない。着替えは一人ではできない。人形用の服をそのまま大きくして、さらに細部にこだわったつくりをしているので、ファーレンが自ら着脱することは考えられていないのだ。手を引かれたり、肩を押されたりして彼は動く。それ以外で勝手に動くと、父も母もひどく機嫌を損ねる。どんな些細なことでさえ、彼は自ら行うことが許されなかった。

 ある時期から、父は彼の外出を禁じた。肌が日に焼けることや傷つくこと、他者と関わることで余計な感情が生まれることを恐れたのだ。その代わり、彼の部屋から景色がよく見えるように、と夫婦は窓を大きくして、窓際に椅子を置いた。ファーレンは夫婦が仕事をしている間、ずっとそこから外を眺めていた。三回の大きな窓から見える景色は絵画のような美しい街並みをしていて、遠くを見れば雄大な山々が見える。特に人形店のすぐ前にある広場では、人々が交差したり子供が遊んでいる様をじっくり見ることができた。

 ファーレンは子供たちを羨ましいと思ったことはなかった。親の目から離されて可哀想だとも思わなかった。そもそも感情がないのだから、自分が幸せかどうかということですらわからいのだから。

 同じ街に生まれ、同じくらいの年齢で、もしかしたら誕生日も一緒かもしれない。けれどそんなことに何の感慨も興味も抱けず、自分が本当に陶器の人形であるかのようにファーレンは日々を過ごしていた。

 陶器の人形には中身がない。けれど一流の人形職人は隙間など作らないから、きっと中は真っ暗で、何も見えず、何も分からないのだ。それを悲しいともむなしいとも思えず。

 ファーレンは何も考えないまま、ただ窓の外を眺める。


 ある日、ファーレンは窓の外の女の子がこちらを見上げていることに気がついた。いつも一緒に遊んでいるであろう友達に呼ばれでもしたのか、少女はその目線を逸らし、自由に行動し始めた。少しその少女のことを視界の中で追っていると、少女は石畳の角に足を取られでもしたのか、盛大に転んだ。そして少女は泣きだし、一緒に遊んでいた子に笑われた。少女はそれが許せなかったのか、涙目のまま怒るように笑った子供を追いかけ始めた。

 なんて、なんて自由な子なんだろうか。ファーレンは自身の中の何かが動いたような気がした。

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