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 ***


 このあと立て続けに4人グループが来たおかげで気付いたら二人は帰っており、さして気にもせず働いていると、気付けば閉めの時間になっていた。まあ、あと7分あるけどまあ、来ないでしょう。

 今日はよりにもよって、井藤(いとう)さんと一緒かあ。

 この人は悪いひとではないというか寧ろいい人なのだが、キャピキャピのメンタル陽キャなので勝手に苦手意識を持っているだけである。あと普通に彼氏いる筈なのに、たまにサシ呑みに誘ってくるから本当に怖い。なんで?

 とりあえずまかないの確認だ。


「井藤さん水餃子何個食べますか?」

「んー、今日は麺にしようかな」

「あ、珍しい。量はどうします?」

「流石に並で。今日の廃棄の玉ねぎどれくらい?」


 二玉と一玉の麺を両手に取り、茹で機にぶち込みながら、冷蔵庫を確認する。


「そうっすね、一つ分くらいです」

「まあまだこんな季節だしそんなにないか」

「もうひとつくらいならいいんじゃないですかね」

「流石にやめとくよ〜。あ、0時だ。じゃあ立て看入れるから」

「了解です」

 どんぶりを温めながら使わないトッピングやら皿やらを片付ける。もう流石に慣れたものだ。

 温め用のお湯を戻し油とタレを入れる。トッピングはAでいいかな。使い終わったレードルやらをポッドに入れて流しに持っていく。


「井藤さん、できましたよ」

「あ、了解(りょうか〜い)。そこ置いといて〜」

「はい」


 カウンターの上に冷蔵庫から出した刻み玉ねぎのポッドと出来上がった彼女のまかないを置く。自分の分は、お行儀がわるいのだが水回りと保温機とかの片付けをしながら、立って食べる。


「よいしょっと。ありがとね〜。いただきます」


 東京FMを背景に、暫く黙々と麺を啜る音と片付ける音が響く。

 こういう沈黙は嫌いじゃないんだけど、井藤さんは普段黙らないイメージがあるからなんか違和感あるな。なんかあったのかな。

 数分くらい黙々と時間が過ぎ、二人とも食べ終わった。ついでに自分の方は調理台の清掃まで終わった。


「じゃあ私いつも通りあとの清掃やるから会計とか日報とかがんばってね~」

「毎回思うんですけど肉体労働の方を自分がやるべきじゃないっすか?」

「入って暫くした頃に西村さんにやってみる? って言われてやってみたんだけど、何回やっても計算合わなかったり、要領悪いの自分でもわかったから触らないことにしたんだよね~」

「そっすか。なんか年下でしかも男なのに、ってちょっとおもっちゃうんですよね」

「あはは! 考えすぎ~。こっちも無理いって深夜のシフトに入れてもらってるんだから、これくらいはやらないとね。適材適所ってやつよ」

「まあ、終わったらすぐ手伝うんで仕事残しといて下さい」

「えー。じゃあ意地でも終わらせよー」

「……」


 バンダナのうしろから伸びているポニーテールを弾ませながらそそくさと店内の清掃に逃げていった内藤さんを横目に、可能な限り早く日報を終わらせようと少ない脳みそをフル回転させる。


 結局殆ど仕事は残っておらず、備長炭をピッチャーに戻すくらいしかやることがなかった。

「お疲れ様でした。じゃあ、閉めますね」

「おっけー」

 電気を切り、セキュリティをオンにして、全ての鍵を閉める。


「じゃあお疲れ様した。夜道なのでお気をつけて」

「アハハ、お母さんかよ笑! まあでもありがとう! 暇ならちょっとカラ館でも行く?」

「えっ、今からっすか?」

「だってシフト被ったの久しぶりじゃない?」

「っ……そうでしたっけ」

「うわーひど〜い。無愛想な後輩を持つと苦労するな〜」

「なんかすんません」

「で、どう? カラオケじゃなくてもいいけど」

「明日も早いんで帰ります」

「あれ? 明日は火曜日だから2限からって言ってなかったっけ?」


「……よく覚えてますね」

「そりゃあかわいい後輩のことだからね! いや、別に嫌なら大丈夫だよ!」

「そうですね。シンプルにちょっと最近色々疲れてるので、また今度でお願いします」

「…おっけー。なんか相談できそうなことあったらいつでも言ってねー。じゃねー」

「おやすみなさい」


 やっぱなんか変だな。

 まあいいか。疲れててそれどこじゃない。

 なんというか、今日は長かった。

 帰って寝よう。

 明日は2限からだから、のんびりできる。

 そういえばこの間買ってみたクラフトビールのアソート、ひとつ試してみよう。

 そんなことを考えながら、軽い足どりで帰途に就いた。



 君は知るだろう。

 (わざわ)いは、逃れることのできない運命だからこそ災いと呼ばれるのだということを。

 安らかな日常(ひととき)を求めて進んだその先に、望んだものが手に入る保証などないことを知らずに。

 僕はただ、暗闇の中を歩み続けた。

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