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「えっ?」
「えっ?」
誰だ、っていうか絶対これも兄の友達でしょ。うわぁ、スタイルいいなぁ。女の私から見てもイケメンだし美人。お兄ちゃんはこんな人と普段から一緒におるん? わー。嫌だな。
「人違い、いや、え?」
嫌味のない疑問顔で頭を捻っとる。いいひとなんだろうな。お兄ちゃんはこういう人が好きなんかな。やっぱりこういう妹は異常よね。お兄ちゃんは絶対に私の味方だけど、いつまでもこのままってわけにはいかんよね。
……はあ。だめだ、なんか思考が嫌な方向に向かっとる。早く会いに行かんと。 一先ず、この人にはバラしても問題はないか。隠すほうが後々お兄ちゃんに迷惑かけそう。
「妹です。……どちらさまですか」
「あっなるほど! 僕は柳内 綾茉、よろしくね!」
「そうですか。よろしくお願いします」
「……ふぅん?」
見定めるような面白がるような、それでいて厭らしさのない、器用な視線。
なんか、なんだろ、なんだよ、なんとかいえよ。
「僕は彼氏いるから、そういう心配はしなくていいよ」
「はぁ?」
「おや、そういう感じかと思ったのだけど違ったかな? 不快にさせてしまったのなら申し訳ない」
「はぁ」
……びっくりしたァ。スローカーブを待っとったら内角高めのストレートが来た。猫被りが上手で助かったわ。辛うじてファールチップといったとこか。カウントはツーツー。
まあ、何はともあれ脅威じゃないならどうでもいい。玩具の到着まで時間を潰させていただこう。
「兄がお世話になっているようですね。柳内さんはどういった関係なんですか」
「んー。そうだなぁ。微妙にややこしいと思うんだけど、僕の彼氏の親友でありサークルの同期であり、かつ今は仕事仲間、といった感じかな」
「……なるほど?」
「まあ詳しくは本人に訊くといいよ。僕は説明が上手じゃないからね」
「いえ。なんとなくわかりました」
「そう? それはよかった! いつも祥くんには怒られるんだ。太陽くんが呆れ顔で注釈を入れてくれることもしばしばさ! 彼にはお世話になっているからね、妹さんと知己を得られて光栄だ」
「それは、どうも」
なんとまあ芝居がかった話し方をする人だな。疲れんのかな。祥くんとやらは彼氏か? 情報がないからなんともだけど。
なんて考えながらふと脇に目をやると、完全に背景と同化しつつ、気持ち悪い顔の歪め方をした八木沼さんが目に入った。
おい。
なんか想像がつくぞ。
「ちょっと、八木沼さん」
「わっ! あっすみません! お取り込み中だったようなので!」
「その割にはだらしのない顔してたけど」
「えへへへ」
えへへじゃないが。
「お。お友達? じゃあ僕はこれで失礼するよ」
「あ、はい。どうも」
「ではまたな! 太陽くんによろしく!」
「伝えておきます」
すごい人だったな。なんというか、大胆かつ尊大ではない。少し話しただけなのに、伝わってくる人格者の風格。私はあんなふうになれるだろうか。一か月兄に会えないだけで日常生活が送れなくなるような異常者が?
やめやめ。早く兄に会いに行こう。んで驚いた顔を見るんだ。
「じゃあ行きましょうか」
「はい」
とりあえずアパートに戻って着替えよう。
連絡通路を西側に向かって歩きながら、恐ろしい可能性に今更思い当たる。
「ねえ、もしかしてだけど。お兄ちゃんのアパートの住所とか知ってたりする?」
「エッ……!? どこですかね……」
「もうしらばっくれなくていいから、本当のこと教えて」
「……知ってます」
「はぁ……。お兄ちゃんはこんなのを野放しにする判断をしたわけか」
「イエッ、その。そうですね」
「……」
今更ながらにとんでもないことに巻き込まれたと気づく。こいつがやってることは、シンプルに犯罪だ。
※ストーカー規制法 第2条第1項第1号
本当に来てよかったかもしれない。純度百パーセント私の我儘のつもりだったけど、もし来てなかったらこんな化け物がお兄ちゃんの周りに延々と蔓延っていたと考えると普通に恐ろしい。
「あっ、あのっ」
「……なに?」
「えーと。お邪魔ならいつでも帰りますよ?」
「んー。そうねー。うーん」
なんか今こいつを苛めても面白くなさそうだし、第一なんの解決にもならない。そうか。付き合っていくしかないんだな。だからお兄ちゃんは。
「しょうがないから行きましょう。アパートわかるなら案内して。実はまだ覚えてない」
「えっ! いいんですか! え、あとからやっぱり◯ねとか言いませんか!? あ、別に◯んでも後悔はないですが! いやまあなくはないですk
「うるせえ、とっとと歩け」
「はいぃ!」
なんか忘れているような気がしながら、本当にちゃんとナビをした八木沼氏を横目にアパートの鍵を開ける。
「はいどうぞ。お待ちかねの家ですよ」
「……っっ!!!!」
「入って突き当たりがリビングだから。ん?」
左手側の寝室のドアがあいたままだ。
あ。
これは。
本当にやらかしたかもしれない。
色々と片付けられていないベッドに釘付けとなった彼女を見て、悪送球により走者一掃となった甲子園球児が如く天を仰いだ。
明日は晴れるといいな。




