追放されたので旅にでた剣士が国家転覆の兆しを感じたので根回ししてなんとかした話
なんか、キーワードとかよくわかんねって感じっす。
拙僧がこのサイトで書いてたの、もう4年くらい前のことだもの。
紫炎は団長に呼び出された。
お前は追放だ。
そう言って退職金代わりに渡された銀貨5枚。うまい棒1本も買えはしない。
仕方がないので紫炎は旅行することにした。
「行くのなら、砂時計国っしょ」
かつて帝国があったとされる土地。その道中はそこそこキビシイ。なんなら現在紫炎は絶賛盗賊に襲われ中である。
「剣は団長に返しちゃったから、マジピンチ」
剣のない紫炎は盗賊から逃げるしかない。
「しっかし、盗賊、めっちゃ来る。砂時計国ヤバい。あ、ここ、まだ帝国の領内だっけ」
死者の亡骸があった。紫炎は亡骸に刺さっている剣を引き抜く。
「うわ。マジ吐くわ、これ」
周りには死屍累々。
「なあ、おっさんらか。これやったの」
「いや」
盗賊の一人が言う。
「ここにあるのはかつて俺たちの仲間だったもの。俺たちは商人だった。ここで盗賊に襲われて、盗賊を殺して、仲間もたくさん死んで、国には帰れなくなって。だから盗賊をやっている」
それがずっと続いているのだろう。
「そっか。大変だね。でも、俺ピ死にたくないピだから、やられてくんね?」
手にした剣は紫炎の手によく馴染んだ。
砂時計国に入ってすぐに火炎村という村があった。紫炎は村で剣を買おうと思った。そしてお金が余ったら、せめて一泊を、と。
安そうな店に入るが、紫炎の好みに合った剣はなかなか無い。
「武器屋がいっぱいあるよね、ここ」
「盗賊や魔物が多いですから」
「騎士団とかはなにしてんの?実は俺ピ、帝国からの旅行者で」
「帰ってくれ」
紫炎は締め出される。
「あちゃ~。どれがNGワード?」
「ここは帝国に恨みを持つヤツばっかなの」
「どーして?」
「強い人はみんな帝国で騎士団に入るから、この国は治安が悪くなって、盗賊や魔物が増えて、ソイツらの被害者になったヤツらがこの村に多いから」
「なるほど。大変だね。で、キミは一体」
「運命って言うの。変な名前でしょ」
少女は言った。
「なるへそ。武器が買えないのは困ったな」
「私のお兄ちゃんの店に来なよ。安くはしてあげないけど」
小さな庵。そこが運命とその兄との住まいらしい。
「海王お兄ちゃーん。お客さんです」
「どーもー。俺ちゃん紫炎デス。ヨロピクネー」
海王は剣を研いでいた。二人には無反応。
「紫炎おじさん、そこらの剣見てって。あ、一番安いのはそこね」
運命が指差した先の剣を紫炎は物色する。
「んー。どれもめちゃイイネ。この出来でこのお値段はスゴイ!どこにこの商品流してるの?作ってるのは海王ちゃんなんでしょー?」
海王、無反応。
「なんだかヤバめの人とか買ってってなぁい?これー。例えば、そう───盗賊とか」
海王の剣は、紫炎が盗賊に襲われた時に手にした剣にそっくりだった。触り心地、重量、切れ味。その全てにおいて一流の品。帝国では間違いなく名剣と呼ばれる。
「バカ言わないで!父ちゃんと母ちゃんは盗賊に───」
「運命」
海王が思い口を開く。
「その剣、気に入ったのならくれてやるよ。無料でな」
「そんな!俺ピそんな悪人じゃないし!これ、全財産、あげる!うまい棒1本も買えないケド」
紫炎は海王に袋ごと銀貨を渡した。
「この恩、忘れないよ、チャラ男だけど、俺ピ」
「最後までうるさいヤツ」
紫炎は庵を去っていった。
「ごめんね、お兄ちゃん。アイツ、帝国から来てて、邪険にされてたから、うちの商品買ってくれるかもって。でも最低なヤツだった。ねえ、お兄ちゃん。盗賊に武器なんか売ってないよね」
「ああ」
海王は笑顔を見せる。その笑顔は運命を不安にさせる。でも運命も笑顔で返す。
「どんだけ置いてったのかしら」
運命は海王から袋を取り上げて、台の上に銀貨をぶちまける。5枚の銀貨が出てきた。
「ゲッ。本当にうまい棒1本も買えないじゃないの」
海王は銀貨を摘まんで見る。そして、大爆笑。
「あっはっは。あの男、一体何者なんだ」
「えっ。何があったの?」
海王は運命に大爆笑の理由を告げなかった。
「うぇ~い。舌魚のダンナ、元気ィ」
「ん?お前はまさか、紫炎か。え。どうしたよ」
「ん~。時の砂時計見に来たー」
「猛獣団はどうした」
「いや、それがさ~。追放されちゃって。それより、舌魚ちゃん、団子屋やってんの~?軍はどうしたんよ」
「誰のせいで引退したと思ってる、この」
「いや、うちの団長が悪いんじゃん。ちょっと、それガチじゃない?ヤバい、ヤバいって」
「ま、冗談はさておき。本当に観光か」
「実はお金を借りにきた」
「メチャクチャだな、お前」
大男である舌魚はため息をつく。
「団子だけでいいから無料で食べさせて。三日前から一文無しで」
舌魚は仕方なく団子をあげる。
「いい城下町じゃん。最近変わったことない?」
「団子どころか情報まで無料でかっさらうのか?」
「仕方ないな~。まだ軍と繋がりある?」
「後輩が数名残ってる」
「んじゃ、時の砂時計の守備を固めといて。一悶着あるから」
「相手は?」
「帝国じゃないことは確か」
「変な噂が立っている」
「ほ~う?」
「魔物が国を乗っ取ろうとしているとか」
「穏やかじゃないねぇ~。この国にはタオの弟子がたくさんいるっしょ」
「その魔術師連中が動いてるから、そんな噂が立ってる」
「ん~。なるなる」
紫炎は携帯電話を取り出す。
「しもしも~。タオっち?今度は何を企んでんのさ」
「えっとどれのことかな」
「うっわ。悪い子だ~。今、砂時計国にいるんだけど」
「まだ3つ絞り込めない」
「弟子が動いてるらしいけど」
「まだ絞り込めないなぁ」
「んー。盗賊は?」
「5つに増えちゃった」
「じゃあ、盗賊の持ってた名剣」
「ビンゴ。砂時計国には犠牲になってもらおうかなって」
「悪い子だね。タオっちみたいな天才魔術師がお手上げなんて珍しい」
「相手は妖狐なんだよ。悲しいことに、僕の叔母にあたる」
「なるほどー。帝国は見捨てないでよ、タオっち」
「え、やだ」
電話は切られる。紫炎が次に電話をかけたのは追放された騎士団、猛獣団の団長。
「しもしも~?」
「何だ」
「鬼王団の一眼ちゃんに声かけといて」
「鬼王団はライバルだぞ」
「猛獣団の皆様には別の役目。今から揺さぶりをかけるから、三日間くらいは帝国の境界の守備を固めといて」
ブチン。紫炎は電話を切る。
「舌魚ちゃん。やっぱ砂時計狙われてる」
「わかった。お前はどうするんだ」
「エサになってみようかな」
紫炎は夜に山にいた。山の名前は落とし山。
「彼ピたち、一緒に遊ばない?」
紫炎の前には数多の盗賊。
「この前の借り、返させてもらう」
「ああ、この前の」
砂時計国までの道中に紫炎に倒された盗賊が集まっているらしい。
「今日の俺らは一味違うぜ」
盗賊たちは懐から巾着を取り出し、中身を頭に振りかける。
「これまた、厄介な粉」
ちゃらけてない紫炎の声。
「人間が誰も見てない以上はパリピってる必要はない、か」
盗賊たちは5メートルはあろう牛鬼に化けていた。そこにはもう、人間の面影も、理性もない。
「頼んだよ、怒りの海王」
紫炎は剣にそう名付けていた。
紫炎は無詠唱で術を施す。そして牛鬼を切る。牛鬼たちは倒れた仲間ごと紫炎を焼こうと火を吹く。紫炎は無詠唱で氷の術を出し、これを防ぐ。火が止むとすかさず一体、また一体と斬っていく。望月の夜に白刃煌めくその姿。夜叉と呼ばずなんと呼ぶ。全てを斬り伏せたころには夜が明け始めていた。
「ぬしが海王が言っておったパリピか」
紫炎の前に運命が現れた。
「なるへそ。妹を人質ってわけね。OK」
運命の身体に妖狐が憑依している。
「我名は響女。お主は、まあいい。ここで死ぬのだから」
紫炎は横に跳ぶ。今しがた紫炎の居た場所に白刃。
「やっや。海王ちゃん」
紫炎に白刃を振り下ろしたのは海王だった。海王は獣のような呼吸をしている。
「火の粉に耐えられたのはこの男のみじゃった。通常の3倍は振り撒いたのじゃが」
「それって、ただでさえ強い海王ちゃんが、さらに強くなってるってコト!?」
砂時計国の騎士たちは鬼神と呼ばれていた。その剣の荒々しさは山をも削る、と。海王の剣はまさにその鬼神が如く。
「でも、隙がある」
紫炎の剣は海王の剣撃をすり抜け、腹を裂く。否。海王の肌は剣を弾いた。
「うわっ」
海王の一撃を寸でのところで躱す。一体の木々が倒されていく。
「体力は無尽蔵、肌は鋼のよう。いささか分が悪い!」
紫炎は剣で海王の一撃を受け止める。
「手が痺れる。足の腱が切れそう」
自我を失った海王に問いかける。
「目を覚ませ、海王。妹は魔物に操られてる」
海王は言った。
「俺は帝国に、砂時計国に復讐できればそれでいい。運命もそれを望んでいる」
紫炎の頭に血が上る。
「困ってた困ってた俺を助けた心優しい子が、復讐など望んでいるか!ボケ兄貴」
ハッ!
海王が気を込めると、紫炎は簡単に宙へ投げ出された。宙を舞う紫炎へ海王は無数の飛ぶ剣撃をお見舞いする。剣を離れ、空を裂く必殺の一撃。どんな化け物であれ生きてはいまい。
「恐ろしや。妾がいつ巻き込まれるかヒヤヒヤしたぞ。あれではもう、肉片しか残っていまい」
「死体はしっかり探しておけ」
正気に戻った海王は剣を収める。紫炎の攻撃が当たった腹を少し気にする。自分に刃が触れたことへの驚きと、軽い火傷の痕。ひょっとすると、あの剣士は───
「計画を早めるぞよ。明日の早朝に決行」
わかった、と海王は静かに言った。
夜明け。城下町の門の前に立っている男を見つける。海王が昨日肉片にした男。
「海王ピにやられてから大変だったんだよー。急いで帝国に帰って、団長から剣を盗んできて。久々にウマなんて使った」
「いい健康だな。そのような剣を作れる者はもうこの世にはいまい」
「そんなことまで分かんだねー」
海王は頭から粉を被る。
「この国の軍はどうした。お前一人で俺を倒せるとでも?」
「海王ちゃんが暴れると、周りにいる人は死んじゃうでしょ。無駄な血が流れるの、俺ピ、嫌なんだ」
海王は雄叫びを上げる。
「もう聞こえてないっか」
海王の一撃より早く、紫炎の一閃が海王を裂く。
「テメッ、手加減してやがったな」
連続で叩き込まれる閃撃に海王はとうとう倒れる。
「いやー。まぐれだって。でもさ、海王ちゃん。キミ、粉無い方が強いでしょ」
粉を纏った海王は一撃が強くなるが、隙が多くなる。
「ただの人間が国が滅ぼせるものかよ」
海王は立ち上がる。粉による強化のお陰で傷一つない。しかし、粉による強化は今は既にきれているようだった。
「人間だからできないこともあれば、できることもあるっしょ。海王ちゃんは人間だったから母国を滅ぼす、大事な人を傷つけることができなかった。でも、人間だったからこそ、退魔の聖剣を作ることができた」
「テメッ。俺ん家の───」
「盗んじゃった。お家にあった最高傑作っぽいやつ。今頃クソ強い人が使ってるよ~」
「はー。殺す」
「ぽつんと家に置いてあったから、盗んでほしいのかなーって」
「んなわけあるか!」
夜の帳が下りるまで、二人は戦った。
倒れた二人は夜空を仰ぐ。星が輝いていた。
「運命の親は盗賊に殺されたんじゃない。俺が殺した。赤子である運命も殺そうとした。殺せなかった。殺すのが急に嫌になっちまった。俺は本当は盗賊も帝国も砂時計国も憎んじゃいねえんだ。強いて言えば、俺は俺自身の罪を憎んでただけなんだ」
「兄貴なら妹のこともうちょっと考えてあげないと」
「テメーに正論言われると気に食わねえ。運命を助けねえと。もう身体が動かねえ」
「俺ピよりもクソ強えーヤツに任せてるから大丈夫。それより、俺ピを匿ってくれね?うちの団長に捕まったら殺される」
火炎村の庵を一人の剣士が訪れた。
「運命という娘はいるか」
「お客さん!いらっしゃい!」
娘が慌てて出てくる。
「店主の兄さんが今、出払っておりまして。今ある商品ならお売りできます。お望みのものはありますか?」
剣士一閃。娘は人並み外れた跳躍で躱す。
「なかなか良い剣だ。今の世にこれほどの聖剣職人は二人と居まい」
「貴様。知っておるぞ」
娘の影から獣の如き鋭い眼光。
「帝国一の剣士。鬼王団長の一眼。何故貴様が。あの男か。あの皇帝銀貨の男!皇帝に認められた者しか賜れぬそれをあの男が」
「先の大戦。砂時計国の侵攻を残された一つの騎士団が食い止めた。生き残った二人で三日間も。その場に居合わせた砂時計国の将軍、舌魚はその二人に敬意を表し、三日目に退散した。舌魚は失脚、生き残りの一人は新たに立ち上げた騎士団の団長となり、もう一人はその騎士団を追放された。バカな話だ」
「それがあのチャラ男だと?砂時計国の舌魚将軍は三千近くの兵を引き連れていたはず」
「さあな」
運命は隙を見て逃げ出そうとする。一眼は運命を背後から斬り伏せる。妖狐響女は絶叫し息絶える。
「怒りの海王IIの力、しかと見届けた」
一眼は剣を大事に仕舞う。宝物として今後大事に飾られることだろう。
「で、戻ってきたら処刑されるのが分かっていて、何故戻ってきた」
団長は呆れる。
「追放もののラストって、元のパーティが没落してハッピーエンドじゃん?没落してほしいなーって」
「牛鬼の対処のせいで無駄な血が流れた」
「お金が無くなったから、チョーダイ。幼なじみのよしみでさ~」
「私の親の形見を勝手に持ち出しておいて?」
「もう、メンゴメンゴってー。ほら、綺麗に洗って返したじゃん?」
「お前は追放だ!」
紫炎は銀貨が入った袋を投げつけられた。
「お兄ちゃん、行っちゃうの?」
運命は寂しそうに言った。
「聖剣で斬られたお陰でいい感じに無傷だった妹を置いて貴族の家に行くなんて、この鬼魔物妖狐!」
「何故お前までいる」
海王は紫炎に訊く。
「また追放されちゃった」
「ちゃった、じゃねえよ」
「行くんだね」
海王の罪は不問となった。その代わり、帝国のとある貴族のお抱えの武器職人となることになった。
「じゃあな」
素っ気ない別れ。
「必ず、私も帝国へ行ってお兄ちゃんと暮らす。それが私の幸せ」
ブラコンだなあ、と紫炎は思った。
「さて。いい剣探して旅を始めますか」
キャラ名は遊戯王のカード名から取ってたりします