ボロンの惑い
(4/4)
(コンラッドがよっぱらってしまった夜から2・3日後の夜のこと)
「それで 子育てが一段落したら、ホッとしてこれからは自分の時間を取り戻そうと考えることなく、
『俺はこれ以上役に立たない』なんて悩みだしたのか?」
コンラッドは、先日のことをわびた後、ボロンに問いかけた。
「えーと ゴンとの能力差に、己の力不足を感じることは最初からずっとありましたし、
そのう 親としてかくありたいって思いの強さが、己の力不足感になるのは
俗にいう「理想の高さゆえの欠点」なのかもしれません。
ただ なんか 子育ての切迫感が急になくなると調子が狂うというか・・・
ほら ドラゴンクランの生活って これまでの生活とあまりに違いすぎて。
俺って 今までドワーフギルドでの仕事に全力投球してましたから
俺自身の人間関係って ドワーフギルドに就職してから得たものと言っても過言ではありません。
だってほら、俺の実家が特殊家業(福祉職)だったから、
俺の家族も学校での付き合いも、すべて 施設長である俺の父の役職と関係づけて人から見られてばかりで、
純粋な俺視点での感情とか感覚が全否定されている中で 何とかやりくりしていたから、
俺の感情や俺の感覚がそのまま「そうなんだね」って受け止められる人間関係って就職して初めて得たものだったんですよ。
おまけに、新生児の子育てって すべてが自分の責任で、全部自分で決めないとダメでしょ。
それって、これまでの「周囲から要求される役割を果たす」生き方とは全然違うんですね。
そこがまた、「子育てした!という親の誇り」にもつながる人もいるわけです。
僕は そういう「誇り」の問題点も熟知してるので、そういうおごりや錯覚を持ちませんが。
だけど、一般的な仕事だと、職務上の目的があって、それに関係する人達の間を取り持ちつつ
課題遂行をしていく、そんな形じゃないですか。
僕は課題遂行という目的意識が強くって、そのために人間関係にも細かく配慮するタイプです。
一方 子育てっていうのは、赤ん坊に合わせながらも、
その子育てスタイルというか意識の部分は親が全面的に責任を持って決めるでしょ。
進めていく手順は 子供の個性と発達に合わせて変えていくけど。
つまり 普通の仕事と真逆なんですよ。
仕事だと 到達点は最初から課題として決まってる
そこに至る道筋は 状況に合わせて臨機応変。
子育てだと、教育目標というかどんな大人に育てるかという所は自分の意思で決定して
100%自分が責任を負わねばならない。
でも どんなふうに育つかは 結局その子が成人するまでわからない。
だって 子供が成長するにつれ子供の意思決定の部分が大きくなって最終的にはその子の意思で全ては決まるから。
でも 最初のレールを敷いて、その軌道に乗せるのは親ですからね。
子育て以外の仕事と 子育てワークって、言葉で説明する分には同じように見えるんだけど
実は勘所が真逆。その微妙さ><
一方、赤ん坊の成長に合わせて、だんだんに その子とかかわる大人達と子育ての責任を分担していくわけだけど、
子供の為を第一に考えて人間関係を構築していく中で、
自分を中心とした人間関係、僕の場合だとドワーフギルドとの付き合いが希薄になってしまったから、
ゴンが成長して 自分の時間ができて 自分のつきあい、これまでおろそかにしていた以前の付き合いを復活させようと思っても、
その人たちは 僕が抜けていた時間の分だけ ほかの人とのかかわりの中で自分の歴史を築いているわけで・・・
僕自身 昔のまんまじゃないし
僕自身 ドラゴン・クランの活動をクラン外の人と話してないから
自分のこれまでの10年 自分にとって大切だった10年の思い出を そうおいそれと外部の人とわかちあうこともできず・・
なんかね 変な感じなんですよ。
こういう 子育ての節目で母親たちが感じることを「鳥の巣症候群」なんて揶揄する輩は糞だと思いますけどね。
これはまあ おふくろが女性達への支援活動をしていた副産物で
なぜか僕が、よその母親たちが 自分の息子に言いたくても言えない愚痴だの恨み言だのを、
僕が施設長夫妻の息子だからってんで 山盛りてんこ盛りに聞かせてくれて、
そういう女性達を非難する福祉関係者(男ども)のたわごとも ガンガン聞かされた末に僕が抱いた 当時の僕の感想ですけど。
ただ 今の僕が感じていることって たぶん彼女たちがモヤモヤっと抱えていたものと同じじゃないかと思うんです。
そのぅ、「子育ての時の感覚」と「それ以外の社会生活の感覚」とが、微妙に違う、
それを 言葉で説明しようとすればするほどずれていくもどかしさ。
僕は それを さっき 「勘所が違う」って表現しましたけど。
でも 子育て開始の時は、「勘所が違うから そこは注意して子育てを始めなくっちゃ」って
意識できましたけど、
子育てから離れるときって 「子育て感覚」にどっぷりハマってたから
以前にはあたりまえのことだった「今とは違う方の勘所」まで忘れちゃって
「変な感じ」としかわからなくって ???ってなってしまいました。一時的に。
とまあ 僕なりに、今の僕が明日の僕につながる道をどのように紡ぐかいろいろ考えたときに
そのう 僕がこの先、ゴンの為に何ができるか?って部分には あまり迷いはないんですが、
ドラゴン・クランで何ができるか?ってことと、
僕がそのう クランの外との接点を僕自身の為に増やすにはどうすればいいかってことの二つが どっちもしっくりこなくって・・
それで ついつい 俺にできないことが多いなぁと・・・
すいません。
別にここでの暮らしが嫌ってわけではないんです。
本音は ゴンと一緒に もっと冒険したいのに 俺の能力不足ってとこが 一番の悩みなんです。
今までは 養育者としての責任が大きかったので、
『子供と一緒に遊びたい!』っていうぼく個人の欲求は抑えてられたんですが・・」ボロン
「なんだ そういうことか!」ミューズ
「すまん、『ゴンと一緒に遊びたい!』という お前さんの本質的な素朴な望みについての、わしの配慮が不足しておった。
てっきり お主は そういう『遊び』に興味がないのだと思っておった」コンラッド
「興味がないわけないじゃないですか!
なんで わざわざ苦労してドラゴン見つけに来たと思うのですか?」
そういって ボロンは 周囲を見回し、これから話す話はゴンに聞かせたくないからと ミューズに協力を要請した。
(「大人の話」マークのついた防音結界を張ってもらったのだ。
ただの防音結界だと ゴンが「仲間外れだぁ~」と気を悪くするので)
「ドラゴンにあこがれておったからじゃろ?」コンラッド
「その憧れの中には 当然『ドラゴンに遊んでもらいたい!』
『背中に乗せてもらって あっちこち旅行したい♡』も含まれるんです!
しかし さすがに 生まれたての赤ん坊にそんなこと期待できないでしょ。
それに ゴンに無理なことを期待してたなんて 言えるわけないじゃないですか!!
それに 普通に幼児さんと遊ぶみたいに遊びたいと思っても
相手がドラゴンでは 僕の体格的に無理・危険なことばっかりで
ほんとは もっともっと ゴンを抱っこしたり 高い高いをしてあげる期間を持ちたかったですよ。
なのに 現実は 僕が非力で ゴンが感じる楽しさを存分に続けてあげることができくなってしまって! ゴンにかなしい思いをさせてしまった!! ふがいない><」ボロン
「なるほど」コンラッド
「君 高所恐怖症じゃなかったっけ?」ミューズ
ボロンはイヤーな顔をした。
「幼い龍が一生懸命空を飛んでいるのに その背中に乗る罪悪感。
俺 重すぎて この子の負担になるんじゃないか?とか思っちゃう。
俺の靴でこの子の肌をきずつけないか?とか
しかも しがみつけないし、飛び方不安定で すぐに落ちそうで怖かったよぉ。
でも ゴンの気持ちを考えると 何も言えないじゃないか!!
だいたい 憧れってのは 自分にとって一番良い状態をイメージするからあこがれるんですよ。
でっかい龍の背中で 安定して守られて 悠々自適な飛行をイメージしてたの。
現実には 風圧とか 寒いとか 息苦しいとか いろいろありまくりでしたけど」ボロン
「お主も苦労性よのぅ。
ゴンと一緒に遊びたいが ゴンの気持ちを考えると あれこれ注文を付けることもできぬし、
ありのままのゴンと一緒に遊ぶには 己の力が不足していると悩むとは」
コンラッド
「ですよねぇ。
ことばにしちゃうと 俺 アホだなぁって思います。
でも 今まで 言うに言えずに わけわかんなくなっちゃって 落ち込んでました」ボロン
「相手の気持ちを考えて 君が言えなかったいろんな気持ちがつっかえて
たまりにたまって 最近の君の気鬱になってたのかなって
ボロンの話を聞いて思った。
それで これ以上君の気が詰まらないように 僕ももっと積極的に君の話を聞くよ。
今も 君の気が済むまで どんどん言って」ミューズ
「今日のところは これでいいかな?」幾分ためらいがちにボロンは言った。
「お主が もっと気楽にゴンと地下の探検に行けるように、わしとミューズだけでなく スカイにも相談を持ち掛けてもいいかな?」コンラッド
「うん。 なんか申し訳ない気もするけど。」ボロン
「遠慮をするな」コンラッド
うなづくミューズ
「まあ 技術面ではスカイの協力を仰ぐこともあるかと思うけど
ここでの話をそっくり スカイに横流しにされるのもなぁ・・
気恥ずかしいというかなんというか」ボロン
「君って 割とそういう所 普通の人なんだよね」ミューズ
「どういうことだい?」ボロン
「うーんと、感覚が庶民的っていうか
ボロンって 仕事のできる人・合理性の塊ってイメージが僕には強いから、
ごめん。」ミューズ
「そりゃ ゴンの前では 親として、立派な大人であらねばならんという気負いもあるから。
あと クラン長として、交渉役としての立場もあるから職務関連の会議では合理性を優先するよ。
こういう点は 職場が家庭の主婦さんと似ているかも。
ドラゴン・クランは生活の場でもあり職場でもあるよね」ボロン
「ふーん。
家庭って 主婦にとっての職場でもあるんだぁ。
だから 結婚生活の話ってややこしいんだねぇ・・
と 未婚の僕には新視点!」ミューズ
「ちゃかすでない」とミューズをたしなめながらも、フムフムと新知見を得た思いのコンラッド。
「あえて言うなら、福祉職の親を持った 耳年よりの子供の悩み・その2が 今のミューズの発言に現れているよ。」ボロン
「へっ?」ミューズ
「福祉職のエキスパートの親が居る家庭での会話で得た知見・常識が
そうじゃない家庭で育った大部分の子にとっては 思いもよらない視点であり
家庭生活とか 人の基本的生活に関する 僕にとっての常識が、
他人からはなかなか理解してもらえない観点なり視点であるということ。
自分にとっての当たり前が、自分を取り巻く人にとっては非常識・ありうべからぬ知見であるということは 究極のマイノリティであるってことなんだよ。
キャラハンのような悲惨な境遇でなくても、
何気ない会話が人生最初の仲間である級友とはなりたたかなかった僕の苦労
少しはお分かりいただけましたか?」ボロン
「この世に存在する者は すべて似て非なるもの
違うようで案外共通点はある
こういうことを当たり前の生活訓としておらぬ「同族集団」で育った者の悩みじゃのう」コンラッド
「そういう 神獣的ご感想には 石をぶつけたい」
ボロンは笑って言った。
「単純に言やぁ、俺って物心ついた時から、だれと話すにしても気を使わざるを得なかった
そういう回り合わせに産まれてしまったってだけのことさ!
その点に関する批判もコメントも受け付けない!
ただ ただ 苦労したねぇ、つらかったねぇと労わってやさしくされたいよ♡」
ボロンは思い切って言ってみた。
結果は フェンリルにベロンと顔をなめられたあと、
ミューズに添い寝されて子守歌を歌われた。
ホントはコンラッドもボロンに添い寝してやりたいと思ったのだが
ゴンを長時間一人にしておくわけにもいかないので・・
(ドラゴンの子供の寝言は けっこう音がデカいとわかったので、
最近は ずっと 地下の大洞窟でゴンは一人寝している関係上
クランメンバーのだれかが いつも少しだけでも ゴンに添い寝しているのであった。
ちなみにゴンは 眠りの中で無意識に盗聴魔法を使ったり
ドラゴン語(=ドラゴンの咆哮と他種族には聞こえる)の寝言を言ったりと
結構にぎやかに眠るのである)




