表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

ミューズのドジ・酔っ払うコンラッド

(3/4)

「ボロン 君って不思議だねぇ」ミューズ


「何がさ」ボロン


「君って ほんと優秀な人だと、君を知る人ならだれもがそう思うのに

 肝心の君は 『俺って役立たず』って悩んでいるんだもの」ミューズ


「それはさ、俺が努力家で、とにかく その時その場で人々が必要としている役割、

 その集団で不足している役割を果たそうと全力を尽くしてきたからだよ。


 そして 集団の維持機能の一つは、後継者を育てることだけど

 たいていの人はそれをやらない、やりたがらない

 自分のポストを失いたくないから。


 でも後継者の育たない集団の寿命は短い

 一番できるやつが一人いるだけの集団はぜい弱だ。

  主担となる者が常にベストの状態を保てるわけでもないから

  集団の機能が、高い技術を持つ一人の人間に依存している状態は不健康だ


そう思って、俺は 一つの道を究めたら、必ず後継になる者を育てることにしている。


でもさ、そうやって後継者が育つってことは、そいつのモチベーションが維持できるように そいつに役割とそれに伴う賞賛を譲るってことでもあるから

俺の目的が達成されるときは 俺が不用品になるときって感じられて仕方がないんだよ。


 ここでは、いつも俺の存在そのものを仲間だと思い続けているメンバーに囲まれているから、

『クラン内での賞賛がなくなったぁ』なんてつまらないことを感じたりしないし、

どこの集団の中に居ても、俺は賞賛を求めてもいないけどな。

 それでも 俺の存在をちゃんと認めてほしいとは思っている。


 でもさ、ドラゴンクランの仲間に会う前の俺の人生って、

結局 開発したスキルをみんなが活用できるように公開したとたんに

野心的な連中に心無いことを言われ、育てた後輩に「先輩はxx」と暗に席を譲れって迫られることばっかりだったからさ、

 けっきょく『俺の存在ではなく 使える道具としての俺だけが求められてるのかよ!』って

感じさせられることが多かったんだよ。


物心ついた時から そんな経験ばっかりしてたら

何かを達成したら、とたんに「俺、不用品として追い払われる時が来たのか」って思っちゃうんだよ、自動的に」ボロン


唖然とするミューズ

「あー、そういう内容なら 一人暮らしの長すぎた僕だけじゃなくて、ほかの仲間にも聞いてもらった方が良さそうな話だね」


ミューズはすぐに スカイとコンラッドと清明に呼び出しをかけ、

ボロンのお悩み相談につきあっても良いとやって来たコンラッドと清明に、

これまでのやり取りを圧縮概念として送った。


「ひどいじゃないか、個人的な打ち明け話を仲間に そのまま横流しするなんて」ボロン


「まあまあ 固いこと言わずに」

清明が 大粒マスカットの干しブドウを、土産にと差し出した。


「鉄分たっぷり。健康にもいいですよ」清明


「僕は ラムレーズン入りのアイスクリームが食べたい♡」

  ミューズは さっそく自分に分配された干しブドウをラム酒に浸した。


「なんか 俺の悩みを打ち明ける雰囲気ではなくなったよ」ボロン


「私では ボロンの心をよぎる 暗い過去のボヤキを聞かせるには 役不足だったとしたら謝ります。

 逆に ボロンさんが 心の闇を吐きだそうとした腰をミューズが折っちゃったのなら、

 ミューズはボロンさんに謝った方がいいと思いますよ」清明


「ミューズには ちょいと一発 ぺしりとやってもいいかなって気もするけど

 こうやってすぐに仲間を呼んじゃうのもミューズらしいという気もするから・・


 お土産の独り占めをしたかったなぁ・・」ボロン


「えー もう ラム酒につけちゃった。

 それでもいいなら お詫びにラムレーズンを進呈します」ミューズ


「よしよし。

 そのラムレーズンはぜーんぶ 僕のもの。

 僕の気分が良い時に、君がラムレーズン入りのアイスクリームを作って

 みんなにふるまうのだよ。


 それまで 僕が預かって置く!」

ミューズをひっぱたく代わりに、ボロンはわがままを言ってみた。


「了解。親分」ミューズが 謝罪の気持ちを込めて レーズン入りのラム酒の瓶を差し出した。


それを受け取ったボロンは、ラムレーズンが出来上がるまでミューズが保管するようにと

瓶をミューズに返した。

 「こういうのは、君の方が詳しいからね。」



そうやって 気を取り直したボロンは言った。

「本当は 僕だってわかっているんだ。

 僕の憂鬱は 子供のころから蓄積した僕の心の闇が表に出てきているだけで

 今の状況とは無関係だって」


「それでも このところ お前さんの気が沈みがちなのは そういう闇が時々頭をよぎっていたからだろう」

コンラッドがいたわりを込めて言った。


「うん。」ボロン


「苦労の多い人生を歩んできたのじゃのう、お前さんも」コンラッド


「子供の頃は つらい!とか 悲しい!とか思っても

 それを口に出したら 返って状況がややこしくなってもっとつらくなるだけだったから、

 そういう思いは封印して、状況が良くなるように全力をつくして、

 人生そういうもんだということにして

 頑張ることに不満を持つまいと割り切ってたんだけどな。


 なんで 歳をとって 自分の立場ができてから、

 過去の亡霊に悩まされなければいけないのか!って情けなくなるよ」ボロン


「それが 人の心のありようなんじゃろ、たぶん」

哀しそうにつぶやくコンラッド。


「ミューズさんはどうなんです?」清明


「えっ ぼく?

 ぼくは いつだって 欲しいモノは欲しいと手を伸ばし

 いっぱい失敗して いっぱい叱られたり 周りを嘆かせて大人になったから

 あんまり そういうのはないね」ミューズ


「そういう清明はどうなんじゃ?」コンラッド


「怖いモノや 不安や 手に入らないものはいっぱいありましたけど

 今から思うと、ドワーフギルドの初仕事を終えるまでは、

 いつも 家族に囲まれて 守られて

 一緒に泣いたり 慰めたりしてくれる人達に囲まれていて

 幸せだったんだなって思います。


 そのころは全然気が付かなかったけど。


  それだけに 私にとっての家族そのものだった使用人たちが一人残らずいなくなった屋敷に戻ったときは ほんとにショックでした。

  それでも ドワーフギルドの人達に助けられましたし。


  当時は「一人ぼっちになった!」としか思えなかったけど

  今から思えば ちゃんと私のそばには人が居たんだって

  改めて感謝してます」清明


「つまり 幼い頃は、幼い気持ちに寄り添う人間が居ても そのことを自覚せず、

 でも そういう存在に支えらえれて 人族は育つというわけだ。


 しかし ボロンのように 人に囲まれて、一見恵まれた環境育っていても

 本当の意味で心に寄り添ってくれる者のいない環境で育った者は

 自立した時に、孤独であることに疲れるのじゃよ。


 一人で生きる厳しさを生き抜くパワーの大半を、すでに幼い頃に消費しつくしてしまったがゆえに。


 というのが この場における最年長者であるワシの見立てじゃ」コンラッド


「コンラッドの見立ては 正しいと思う。

 でもさ、子供の頃に苦労していても 大人になったら結婚して幸せになるやつもいるよ。」ボロン


「それは 客観的に見て『厳しい』と共感してもらえる立場で育った子供の成人後の姿であろ。


 社会的・物質的に恵まれていて、精神的に厳しい環境で育った者

 その環境に適応して社会的に好ましいと思われる行動をとって来た優秀な子供ほど、

 成人後に 誰にも理解してもらえない・共感してもらえなかった孤独を抱えて苦しむのが

 人間社会の不合理というものであろうが」コンラッド


「うわー そうやって 理路整然と解説されちゃうと、俺の愚痴が かき消された気分だ」ボロン


「すまん。

 やっぱりこういう時は ミューズと二人で宴会しておる方が 気分転換になったかの?」コンラッド


「どうだろう。」ボロン


「さっきから 人間社会とか 人族って 強調するけどさ

 コンラッドお得意の狼やフェンリルはどうなんだよ」

ミューズが 突っ込んだ。


「ふむ。

 わしも たまには 告白タイムといこうか。


 酒もってこい!」コンラッドが吠えた!


ミューズは あわてて、スカイから預かっていた、コンラッド用のどぶろくを差し出した。


コンラッドは実は酒好きなのであるが、

酔っぱらうと体が大きくなり、遠吠えで周囲の生き物を達を気絶させてしまったり、

羽目を外して動き回れば器物破損の被害甚大となるので、

好みの酒はスカイやミューズに預けて、適量を出してもらうことにしているのだ。


そして スカイは コンラッド好みの酒を造っても、

酔っ払いコンラッドの姿をあまり見たくないからと言って、

コンラッド用の酒の管理は ミューズに任せていた。


(何と言っても コンラッドは スカイにとって尊敬する師匠であり

 大切な父親的存在でもあるので、父のみっともない姿を見たくないのだ。


 さらに物理的に 酔っぱらったコンラッドの相手をするのがたいへんだというのもある)


おそらく この世界で コンラッドが唯一、自分が酔っぱらいすぎて暴れないように事前にノックダウンさせることを許しているのがミューズであり、それができるのもミューズだけであろう。


 スカイなら 酔っぱらったコンラッドをあやして寝かしつけることができるが

 それは 素面しらふになった時のコンラッドにとても恥ずかしい思いをさせることでもあるので、

 双方ともに そういう事態は避けたいという暗黙の了解ができていた。


「こうやって わしが 酒を仲間と楽しめるようになったのも

 安心して 酔っぱらえるようになったのも、ドラゴン・クランがあればこそじゃ」


コンラッドは うまそうに どぶろくの入った大盃おおさかづきをなめながら言った。


「そうなんですか?」

清明は 気を利かせて、酒のあてになりそうな 大イカの乾燥品するめをあぶりながら相槌を打った。


「もともとフェンリルというのは 個体数が少ない。

 わしとて フェンリルの雌と出会った記憶がない。

 それを言えば ほかのフェンリルと出会ったことがあったのかどうかも 定かではない。

 そもそも わしの子供時代など 思い出せんわ!


 長い年月を一人で生きるのは さみしいもんじゃ。

 それゆえ 狼の群れと一緒に生活したこともあるが・・

 あやつらは 人語を解せぬ。 つまり論理的思考というものがない。


 狼の本能と知恵に囲まれて過ごすのも悪いモノではないが

 そればっかりじゃと つまらぬ。


 それで 人間たちの間に交じって暮らしていても

 やはり 種がちがうと いろいろな違いもあるからの」


コンラッドは ガバッと口を開け、ミューズに酒を直接自分の口に注げと促した。


コンラッドもミューズも念話や感覚共有が得意なので、

こういう 酒のたしなみ方も 簡単にできてしまうのである。

 阿吽あうんの呼吸が 実に簡単に成立する感覚共有、恐るべし!。


ゴクリと酒を飲みこみ、うまそうに舌で ぺろぺろと自分の口回り、人間で言えば唇の内側に相当する部分をなめるコンラッド。


やや 上向き加減に目を細めてお座りしているフェンリルの姿を 珍しげに見つめるボロン。


「ふむ 良い具合に 酒が回って来た」


コンラッドは マイベッドを取り出してそこに寝転んだ。


「で 話は どこに行ったかの?」少し眠そうに 問いかけるコンラッド。


「ドラゴン・クランの仲間に入ってから、酔っぱらう楽しさを味わえるようになったと」

清明が 遠慮がちに言った。


「そうそう。

 孤独の ありよう、発生の仕方は 人と狼ではずいぶんちがう。


 それは 人と狼の生き方・育ち方・社会の違いを反映している。


 その話はまた今度にしよう。


 ただのう、わしは こうして仲間に甘えることができて 今は幸せじゃ」

そういって コンラッドは眠り込んでしまった。


「だそうです」

ボロンは ちょっと 困った顔で 清明とミューズを見つめた。


「うーん スカイの代わりに 僕がコンラッドの毛づくろいをしてあげたら

 彼はもっと気持ちよく眠れるかな?」ミューズがためらいがちに言った。


「でも そうなると・・」

(本来のこの集まりの趣旨から外れるのでは)と口に出して言おうか言うまいかと迷いつつ、清明がつぶやいた。


「清明のその気持ちだけで 今は十分だよ。

 にしても 10万年くらい生きていそうな 神獣様の孤独かぁ

 ちょっと圧倒されるね」ボロン


「今夜は 外泊許可をキャラハンからもらってきました。

 だからボロンさん 今夜はいっしょに寝ましょう!」

清明は 勢いよくボロンを誘った。


ボロンは なんとなく中途半端な心地になったので、

清明と二人で 白樺ジュースを飲みながら、

ミューズが コンラッドの毛づくろいをするのを眺めた。


そのうち いたずら心が湧いて、コンラッドの毛を三つ編みにしてリボンで飾ることにした。

(編み込みは コンラッドが嫌がるので やらない)


コンラッドの頭を縁取る リボン付きの三つ編みの数々を見て気分がすっきりとしたボロンは、

ミューズに後をまかせ、ゴンと寝るべく、ミューズに転移で送ってもらった。

 今夜のゴンは 大洞窟で寝ていたようだ。

 

清明は、最後までボロンに付き合うと言ってくれたが、

大洞窟から早朝コンコート領に戻るには、転移を担当するミューズの負担が重くなるので、

今夜のうちに 清明だけキャラハンの元へ帰宅することになった。


「ごめん 僕の魔力量が足りなくて、二人を遠距離連続転移させられなくて」ミューズ


「ぼくこそ いつも転移では お世話になるばっかりですみません」ボロン

「同じく」清明


「何を言ってるんだい。

 持ちつ 持たれつ、無理をしない仲間じゃないか」ミューズ


「ほんと こういう関係っていいですよね。

 遠慮なしの 気遣いありで」清明


「そうやって 割り切れるのも 心眼使いのスキルだったっけ」

ボロンが笑った。


「僕も これから 清明を師匠と仰いで そういう 厚かましそうで厚かましくない

 遠慮なしの気遣いありで礼儀も忘れずのスタイルを

 もっと積極的に身に着ける努力をするよ」ボロン


「向上心の強さはボロンさんの良さの一つですけど、

 それを支える為にも 私はもっと ボロンさんが弱音を吐ける場に居たいです」

清明はやさしく言った。


「わーい それ キャラハンと暮らすためにも その技を身に着けたいんでしょ」

ミューズが茶化した。

 というのも、婚活を始めるまでの清明は、ドラゴンクランの仲間との付き合いも、

 相手の負の部分には触れないという一歩引いた姿勢であったから。


「あっ ばれました?」と ミューズに向かっておどけて返答したあと、


「でも キャラハンの為に ボロンさんを練習相手にしようってわけではないので

 そこは誤解しないでください!」

清明は 大真面目に ボロンの目を見て力説した。


「わかった。

 清明は 人付き合いを深めるために 新しい一歩を踏み出したんだよね。

 婚活をきっかけに。


 だったら 僕も 迷いを吹っ切るために 一歩を踏み出すよ。

 いつかまた 僕の弱音を 本格的に聞いてもらいたいって気持ちになったときに

 よろしく頼む。


 今はまだ 弱音を吐くことをためらう気持ちも強くてね

 いろいろ 大変だよ。


 しかも ゴンの前では みっともないところを見せたくない

 ゴンを心配させたくないって思いまで絡まってくると ほんと大変なんだ。」

ボロンは そう言って 清明に手を振って別れを告げ、ゴンの元に転移していった。


・・


ゴンは すでに 熱湖のほとりで眠っていたが、

ボロンの転移を知らせるミューズからの念話に続いて、

ボロンが到着すると 眼を開けて ボロンを迎えた。


「今夜は 一緒に寝てもいいかい?」ボロン


「喜んで。」


ボロンは ゴンに誘われるままに ゴンの背中の上に乗っかって寝た。


今では ゴンも体が十分に大きくなり、ボロンを載せて眠れるようになった。


ゴンは相変わらず 眠っているときに寝返りを打つが、

その時には 自動的に ゴンの背中の上にのっかているボロンまたはぬいぐるみのキューちゃんは、ポケットの中の転移陣の働きで ゴンの傍に設定した安全地帯に飛んでいって静かに着地するようになっている。


この「ゴンちゃんと添い寝するための転移陣」は ゴンといっしょにクランメンバーが野営するために開発したマジックアイテムの一つである。


なにしろ 体の大きくなったドラゴンの寝相が悪いと、

寝返りの範囲がもかなり広くなる。

 ゆえに ドラゴンと一緒に野営するときには・・・

  寝返りでつぶされないようにゴンの体の上で寝るとか、

  跳ね飛ばされたときの安全対策としてマジックアイテムが必要なのだ。


 では なぜ最初から人族が安全地帯で寝ないのかと言えば・・ゴンが寂しがるからである。


「これが ドラゴン同士なら、

 子猫や子犬の集団と同じで、互いに上になったり下敷きになったりしながら

 固まって眠って問題ナッシングなんじゃが」

と言って スカイにマジックアイテムの開発を依頼したコンラッドであった。


「幼子にとっては、寝返りを打ちながらも引っ付いて眠る仲間が必要なんじゃ!」


「それに付き合う親は 成犬であろうと人間であろうと大変なのは変わりはないのじゃが、

 同年齢のお休み仲間がおらぬ一人っ子を育てるためには、致し方あるまい」

byコンラッド

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ