ボロンの役割と惑い
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ドラゴン・クランにおける ボロンの立ち位置は、家庭における主婦の立場と似ているかもしれない。
第一業務は子育て!
生まれたての赤ん坊が必要とする世話を一手に引き受けて、
直接的な世話から、食料確保から環境整備に至るまですべてを背負い
赤子の成長にあわせて、「xxデビュー」のための、近隣への手回し・顔つなぎに至るまで、ありとあらゆる業務を引き受けていた。
それこそ ベビー用品の購入・離乳食の準備一つとっても、ご近所情報・必要なものを必要な時に確実に入手するための、地域情報の入手と手配の為のコミュニケーション力・地域との関係づくりという社会性が必要なのだ。
(主婦・育児を家庭に閉ざされた存在と視るのは大いなる誤りである!)
もちろん 愛情いっぱいに赤子とコミュニ―ションをとって、その子の言語運用能力を高めることから始まる初期教育ものボロンが責任をもって引き受けた。
(母親の知性と教養の程度が幼児の知的・精神的発達に反映され、乳幼児の健康維持にも必要不可欠!)
もちろん 人族の赤子と違って、ゴンは、生まれたときから知識や語彙・基本的な移動能力を身に着けていたが・・
さもなければ異種族の、これまでその存在すら知らなかった者が生まれたてのドラゴンの養育ができるわけもないのだが・・
しかし これとて、ボロンの幅広い知識と柔軟な思考力があればこそである。
だからこそ卵の中のドラゴンは、そばに寄って来た生物が「信頼できる」と感じなければ 卵の外には出てこない。
無知な者・無教養な者の前にうっかり姿を見せて、文字通りの飼い殺しにあっては困るから。
ちなみに、卵の中の龍の赤ん坊のすべてが、卵の中にいるときに各種能力や知識を蓄えているわけではない。
これは、ゴンのように諸般の事情で卵のままポツンと一つ残される龍に特有の現象らしいとは、かなり最近になってコンラッドから教わったボロンであった。
なんでも ドラゴンの親達が 一人残される卵の中の赤ん坊が、殻を破って外に出たときに困らぬように、自分達の持つ力を使って できるだけ多くの知識や魔力を卵の中の赤子に詰め込むらしいのだ。
ただ なにをどれだけ伝授できるかは、親龍の力と卵の中の雛龍の能力と、その時の周囲の状況によるらしいが。
「なんで 今頃になって、そんな話が出てくるのだ?」ボロン
「ふむ 以前は忙しかったからのう。
目の前の問題を片付けるのに忙しかった」コンラッド
「確かに」ボロン
「ただ 最近は のんびりが高じて お前さんがウジウジと変なことを悩みだしたようだから。
生まれたときから賢かったゴンの為には、自分でなくてもほかの者が親であったとしても良かったのではないか? その方がもっと・・なんぞと心の中でお主が悩みだす前に 言っておいた方が良かいのではないかと思って。」コンラッド
(ノ∀`)アチャーという顔のボロン
「ゴンの両親が どれほど懸命に卵の中の赤子に知識や力を詰め込んでおいたとしても、赤ん坊は赤ん坊。最初に出会った者が 愛情深く責任をもって懸命に世話をしてやらねば 幸せにはなれぬ。
お主にとって ゴンが大切であるように、ゴンにとってもおぬしは大切な親なのだという基本をおろそかにするでない!」
コンラッドは バシッとしっぽをふるってゴンに活を入れた。
「はい」ボロンは 最近の自分の鬱屈した感情が、ゴンからの信頼を忘れ過去の嫌な出来事にとらわれたものであったと 改めて反省した。
「お主は 本当にきまじめじゃのう」コンラッド
「そこは 優しくハグして労わるべきでは?」ミューズが コンラッドをつっついた。
「いや それはお主に任せる。
わしは 爺だから ご意見番として活を入れるさ」
コンラッドは そういいながらも 今度は優しくしっぽでボロンをかすった。
(なでるよりは素早い動きだから「かする」と表現)
・・・
とまあ、一般の子育てとの違いも多々ある、ドラゴンの養育ではあったが、
ゴンと出会ったばかりのボロンにとっては、自分の人生のすべてを賭け、自分の全精力を注ぎ、己の生活のすべてを費やした一大事業であったことに、変わりはない。
ところが、ゴンが成長し 接触する世界が増えるにつれ、
ボロンは 当然 多くの協力者を外部から招き入れて、ゴンの世界とゴンの能力が広がるようにセレクトしたのであるが
それは言い換えるなら、ゴンの世界の重心がボロンから離れていくことでもあった。
たとえば ゴンが空を飛び始めたとき、
ゴンと一緒に空を飛ぶことはおろか、ゴンの背にのることもボロンにとっては難事業であった。
最初の頃は ボロンと一緒に空を飛ぶことができぬことを残念がって、共に滞空することを切望したゴンであったが、今では ノームやミューズと一緒に楽しく 地底洞窟で空を飛び回っているゴンである。
さらにまた、ゴンにとってボロンがたった一人の存在であった時には、ゴンの食料確保のためにボロンは身も心も細る思いで、ゴンと共にボロンが必死にがんばったのであったが、今では、ゴンは 自分の空間倉庫に大量の食糧を備蓄している。
食料確保の点からだけ見れば、今や ボロンが居なくてもゴンは生きて行けるはずである。
ノーム達と協定を結び、ダーさん一族とも協定を結び、ゴンの為の魔素たっぷりの食料供給者を確保した。
龍の庭での魔獣の繁殖も軌道に乗り、龍の庭全体を、これ以上人族の手を加えなくても 魔獣が繁殖していけるように自然サイクルを構築した。
その為に、ドラゴンが生きていくために必要な魔獣の個体数に至るまで、王国の外から集めてきた貴重な魔獣を計画的に繁殖させたり、
龍の庭での生存に適するように 魔獣の品種改良を行なったり
魔獣の飼料を確保するために荒れ地を牧草地に変えるための施策を講じ、
魔獣たちの食べるペースに合わせて牧草が生い茂り続けるように地力を高めるなど あらゆる手立てを講じてきた。
その時の主となる労働力は ボロンであった。
ボロンには ドワーフとしての頑健な体力だけでなく、
彼の性格である粘り強さ・我慢強さに裏打ちされた持久力があり
さらに 持ち前の繊細さと注意力・やさしさ等々に支えられた、確かな飼育力があった。
だからこそ 個性豊かな、人間からは扱いづらい馬鹿鳥とみなされていたダーさん一族も、ボロンのもとでは 率先して 魔素たっぷりの無精卵の生産に協力し、
日常生活においても 自分達の力を ドラゴンクランの運営に役立てようと あれこれ考えて行動するようになったのである。
たとえそのきっかけが、「食われない」ためであったとしても
今では ダーさん達は クランメンバーの一員としての自負を持って生きている。
もっとも 本当の意味で ダーさんと信頼関係を築いているのは、ボロン・ミューズ・ゴンの3人であり、他のメンバーは まだ心の奥底では 「家畜の進化すげー~」という思いがぬぐいきれてはいないのであるが。
この点に関しては
「ドラゴン・クランのメンバーの中で 一番『食えなくなったこと』をぼやいていたボロンが、一番俺たちを信頼して 仕事をまかせてくれる、俺たちの提案を真剣に受け止めて それが実現するように協力してくれるって 不思議だよなー」とオットットは思っている。
「それだけ 正直で 裏表がないんですよ」というのが、オットーやメリー達初期メンバーであるダーさん達からの ボロンへの評価であった。
が、しかし 今のボロンの心境としては・・
ゴンがどんどん成長して、自立への道を進んでいくと
俺がゴンの傍に居る必然性がどんどん少なくなっていって
俺って ほんと役立たずどころか、最近では クランメンバーとしてはお荷物になりかけているのではないだろうか? という思いが 日増しに強くなっているのであった。
龍の庭の畑や家畜の世話・食事作り、これは クランメンバーが協力して分担して行っている。
その主担が ボロンとミューズであり、補助がデュランだ。
だから逆に ボロンとしては 「俺はタダの労働力。俺が居なくなっても ほかの者ができるだろう」と最近はついつい思ってしまうのである。
実際には ボロンが居たからこそ、ここまで仕事が順調に回るようになったのであり、ボロンという調整役がいなくなったら ほんとに困る!とミューズやスカイたちが考えているのではあるが。
・・・
「俺は 空も飛べないし、転移も魔法も戦闘力もダメ。
スカイやミューズ・清明のような特技がない。
ドワーフ技術を応用した俺の仕事のノウハウも デュランにしっかりと教え込んだから、俺がいなくなっても・・俺が必要不可欠な存在では もうなくなってしまった。」
「おれは ゴンにとっての足手まといになりつつある
もう 俺にできることは 引退したじいちゃんとして 時々ゴンが会いたくなった時に 迎え入れることのできるご隠居さん役ではなかろうか?」
そんな風に自分のドラゴン・クランでの立ち位置を感じ始めていたボロンにとって
コンラッドから、地底洞窟探検に必要なスキルを持った存在と評価されたことは
大きな驚きであった。
「本来なら 俺のマッピング能力を評価され、必要とされていることに喜びを感じるべきなんだろうが・・
移動面で おれは ほかのメンバーの重荷・足手まといになるんじゃないかという不安、俺の自信のなさが ゴンの心理的負担になるんじゃないかという不安がぬぐえないんだよ」
ある日ボロンは ミューズにこっそりと打ち明けた。




