清明の変化
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キャラハンを迎えての七夕祭りは、大牛の丸焼きに始まり、蛍を愛でて、カエルの合唱で終わった。
キャラハン夫婦は 仲良く一緒にやってきて、また二人一緒に帰って行った。
・・
「なんだ 今夜は 清明だけでも泊っていくかと思ったのに、いっしょに帰っちゃった。
せっかく 今夜は 僕も夜更かしのお許しが出たのに」ゴン
「まあ そう言うな
すでに日付もかわったことだし、お主の夜更かし許可は期限切れじゃ。
寝るぞ」
コンラッドはゴンを連れて、ボロンの家のさしかけまで行き、ゴンを寝かしつけた。
一方、ボロン達も、「清明がいないと いつもの調子が出ないね。今夜は早じまいするか」と 祭りの夜にしては早め、でもいつもの日に比べればかなり遅めの就寝とした。
スカイも「僕も 歳かなぁ、そろそろ夜更かしがつらくなったから
来年からは 七夕祭りも日付が変わる前に解散にしようか」と言いながら王宮にもどった。
・・
それから しばらくして、ゴンの話し相手としてクランメンバーが集まった。
今夜は デュラン抜きの、清明とスカイつきのおしゃべりタイムだ。
「ねえ 清明って少し 雰囲気がかわったんじゃない?」ゴン
「そうですか?」清明
「うん。前は ドラゴン・クランの日に集まったときは清明はもっと遅くまで残っていたのに、この間は さっさと帰っちゃたから。
前は 『息抜き』だと ここに来たらのんびりしていたのに
今回は、なんだかちょっと雰囲気がちがった」ゴン
「あー それは 結婚したからでしょう。」清明
「でも 結婚してからも 一人で来た時は けっこう おしゃべりしていってたじゃない」ゴン
「やっぱり 妻と一緒にいるときは 妻を優先したいですからねぇ。
そのせいじゃないですか?」清明
「そういうものなの?」ゴン
「私はそうですよ」清明
「どうして?」
「そりゃぁ 彼女が好きだから。
私は キャラハンのことを 世界一だと思っていますから。
私を信頼し 心を寄せてくれている女性と一緒に居るときは、
彼女のことを一番大切にしたいと思うのが人情ですよ」清明
「キャラハンは世界一の女性なの?」ゴンはコンラッドに尋ねた。
「清明にとっては 世界一の女性だということだろう。
番としては ごく自然な感情だろう」コンラッド
「人間でも そうなの?
ドラゴンだけでなくて?」
今度はゴンがスカイに尋ねた。
「うーん たいていの女性は そうあって欲しいと願っているんじゃないかな」スカイ
「スカイはどうなの?」
「あー 僕は政治的に複雑な立ち位置なので、微妙ですねぇ。
というか僕の両親を見ていると、たぶん二人はお互いに相手のことを素敵な異性だと思いあって結婚したんだと思いますけど、、、なにしろ父はご都合主義ですし
母はまじめだし、
だから母は、社会的な立場とかいろいろ考えて、
父のちゃらんぽらんなところも、自己中なところも ほんとは許せないと思っていても 「言っても仕方がない」とあきらめて 王妃としての役割を果たして、
内心を言葉で表せない分 御酒をきこしめていたくらいですから、、
あれやこれやを考えると いまだに 結婚には到りませんね。
そのへん 割り切って結婚してくれるといいなと思った人は居たんですけど
あっさりふられちゃいましたし」
スカイは 見事な流し目をミューズに送った。
えっ えっ えっ ゴンは まじまじとミューズを見た。
コンラッドは わざとらしくあくびをして 耳をかいた。
たまにやる犬っぽいしぐさでの バックレである。
「なんで そこで 色っぽい目つきで僕を見るんだよ。
ぼく 求婚は真剣にしてほしいタイプなんだけど」ミューズ
「けっきょく 僕にそこまでの覚悟もないまま
軽く打診してみて あっさりとふられたというか かわされて 今に至るです」スカイ
「ようは、人間にもいろいろ居るということだ。
結婚に至るまでも 結婚後も」コンラッドが 場をとりなすようにゴンに説明した。
「ゴンよ お主は 清明の心境の変化を聞きたかったのではないのか?」
コンラッドは 頑張って話を元にもどした。
「そうそう
結婚してからも、一人で来た時は長居してたのに
どうして 二人で来た時は 早めに帰っちゃたの?」ゴン
「まず第一に、結婚前はですねぇ、領主としても、あるいは恋愛初心者としても
私自身の悩みがいろいろありましたからねぇ
ここに来て 昔なじみの仲間に相談したり 話を聞いてもらうことが 憩いだったんですよ。
ここまでは わかります?」清明
「うん なんとなく」ゴン
「そして 新婚当時はですねぇ
領にいるときは たいてい領主婦人といっしょ
家にいるときは 妻といっしょで
それが幸せでもあり、
でも 時にはそれを友に語って 共感してもらって さらに幸せをかみしめたかったんですよ。
いわゆる のろけ ってやつです。」清明
「ふーん そういうものなの?」
「ゴンよ おまえさんだって、ノーム達と一緒に遊んだことは
夕食の席で わしらに話して聞かせて 幸せを再度味わっているのではないか?」コンラッド
「そういえば 楽しかったことを ボロンやミューズに話して一緒に楽しんでもらえるとうれしいな」ゴン
「大人になれば それを共感というんじゃよ
いくつになっても 聞き手に共感してもらえると うれしいもんじゃよ」コンラッド
「そっかぁ。
でも ふだん ボロン達は・・??」小首をかしげるゴン
「共感タイムの持ち方は 人それぞれじゃ。
ボロンも時々 ミューズと一緒になって ドワーフ音頭を歌ったり踊っておるじゃろ
ミューズも 良く歌い よく遊ぶ」
コンラッドの説明を切いて 「なるほどぅ」という顔で ボロンとミューズの顔を見るゴン
「で 昔は 黙って人の話を聞くだけで、自分の話をほとんどしなかった清明が、
結婚後はのろけ話で共感タイムを満喫したんだね」ゴン
「はずかしながら そういうことになりますね」清明
「で?」ゴン
「やだなぁ もう。
隅から隅まで説明するのは 恥ずかしいですよ」と言いながらも、
清明は ゴンの情操教育の為に 頑張って説明した。
「こどもができるとですね より一層 大人としての責任と自覚が増したのです。
キャラハンと結婚した時も、彼女を幸せにしよう。
彼女の信頼にこたえたい
彼女の期待を裏切りたくない
彼女の安全と安心できる生活を守りたい って思いました。
でも 生まれたての赤ん坊を見たときに
赤ちゃんって ほんとか弱く ふわふわなんです。
ホントは 赤ん坊には赤ん坊なりのたくましさもあるんですけど
そこがまたかわいいんですけど
でもね やっぱり赤ん坊って デリケートで 私が守らなくては!
ってすごく思ったんです。
ここまでは 話についてこれてます?」清明
「うん。昔 ボロンも似たようなことを言っていた。
僕と初めて出会った時に」
ゴンがニコニコしながら言った。
それを聞いて ボロンは照れくさそうな でもうれしそうに懐かしそうにニコニコした。
「しかしですね、人間の赤ん坊っていうのは、
3時間おきにおっぱい飲んで ねんねして 間におしっことうんちをするんです。
だから 親は ひっきりなしに 眠る暇もなく子育てですよ。
と言っても 男の俺にはおっぱいでませんし
妻と赤ん坊が安心して生活できるように、仕事をするのが俺の役目なので
必然的に キャラハンが子育てを頑張ることになるんですね。
そして 赤ん坊というのは、よく泣くんです
おなかが減った しっこ~ うんこ~ さみしい~ 暑い~ 寒い~
時には なんで泣いてるのかわかんないけど 泣いたり
新米親は てんてこ舞いです。
もちろん 赤ん坊がそういう生き物だってことは 先人たちから聞いて知ってましたから、
経験豊かな保母さん二人と、体力自慢でよく気の付くつく従僕を雇って準備しましたけど
(注:専任侍女・侍従と乳母のことを、簡略化してゴンにわかりやすく表現した清明)
うちは なにしろ男女の双子でしたから てんてこ舞い舞い
いつ起きていつ眠ったのかよくわからない日々が何か月も続いて・・・
実際には ちゃんと 保母さん達が赤子の傍について 僕たちは一人で静かな部屋でぐっすり寝てくださいって休みをもらってたんですけど、
気分はこどもと離れがたいというか 子供と離れていても一緒に居る気分というか・・
今はもう 断乳して 赤ちゃんたちもちゃんと離乳食・幼児食を食べていますから
こうして 夫婦で外出することもできたんですが
でもね この間の七夕祭りが 私たち夫婦にとっては、出産後初めての 夫婦での外出だったんです。
だから 当然 キャラハンのことを気遣います。
それに 早めに切り上げて 家に帰りたいって私たちが思ったのも ご理解いただけますか?」清明
「そうだったんだ。
ごめんね
勝手なことを言って」ゴン
「ゴンはなにも 勝手なことを言ってませんよ
ただ 今までとの違いを不思議に思っただけでしょ」清明
「そうなんだけど
清明が そんなにたいへんだったって知らなくて」ゴン
「いいんですよ。
私だって 父親になって 初めて知ったことばっかりなんですから。
子供のゴンが知らなくて当然です」清明
「それにね、私は 物心ついた時には 使用人たちに囲まれて育てられてましたから
彼らのうわさ話も しっかりと聞こえてたんですよ。
子供のころから。
それでね、女の人っていうのは、夫婦で一緒にでかけたら、夫婦で一緒に戻って来たい。
途中で自分だけ先に帰らされたり
夫が 自分の友達とどっかに行っちゃって 一人取り残されるとすごく寂しい気持ちになるってぼやいているのは 昔からよく知ってたんです。
だから 自分が結婚したら、妻と一緒に外出して一緒に帰ろうって心に決めていたんです」
清明は補足説明した。
「ふーん やっぱりそうなの?」
「子供だから 早く寝なさいって 宴会の時に先にベッドへ行かされるのは
健康のために必要なことだってわかっていても 少しだけ仲間外れになったみたいでいやだって 前に言ってたじゃないか」ボロンがゴンに言った。
「もう忘れちゃったよ、そんな昔のこと
言われてみれば 確かにそうなこと言ったかもしれないって思うけど」ゴン
「そりゃ 君が寂しがらないように 僕たちが君の傍について寝かしつけてから
僕たちで こっそりと宴会パート2をやっていたから」
と照れくさそうにボロンは言った。
「そうそう 良い子は見ないふりの 大人の時間だね」ゴン
「あれ?でも 清明の所は?」ゴン
「うちは まだ そこまで子供が育ってません。
ていうか 私たちの子も そのうち 付き添いの侍従たちからそういう説明を受けるんだろうか?」
ちょっと慌てた顔で清明が言った。
「そっか 仲間とのつきあいって、結婚したり 子供ができると変わっていく部分もあるんだね。
ぼく ドラゴン・クランの仲間とはのつきあいは 全然変わらなくて
僕が大きくなるにつれて 僕の参加の仕方が変わるだけだと思ってた。
仲間がいて 家族が居て??」ゴン
「家族もまた それぞれ結婚することにより 兄弟姉妹おじさんおばさんとの付き合いもかわるんじゃよ。」コンラッドが ゴンの疑問に答えるように言った。
「そうなんだ」ちょっと しんみりした声で言うゴン
「でも 仲間との絆、互いを思う心は変わりませんよ」
清明は優しくゴンに話しかけ そっとゴンの頭を撫でた。
「清明に 初めて頭をなでてもらった♡」ゴンは嬉しそうに頭を清明に摺り寄せた。
「あれ?そうでしたっけ?」清明
「うん。
清明についている臭いは 赤ちゃんの臭い?」
今度は ふんふんと清明の臭いをかぐゴン
「ゴンは 鼻がいいんですね」清明は 軽くゴンの頭に腕を回して抱きかかえるようにした。
「さすが パパさん。
抱っこの動作が板についている」ミューズ
「私は 長い間 目が悪いまま一人で生きていたので、
触れられるほど 他人を近づけたくなかったのです。
だって視認できないまま 得体のしれない人間に近づかれたら、
何が起きても不思議はないですからね。
身を守るための第一原則が 他人を 己に触れられるほどの位置に近づけてはならないってことで」
「でもね キャラハンと一緒になって 初めて彼女を抱きしめたときは
人と触れ合うって こんなに素敵なことだったんだなって 子供の頃のことを思い出しました。
眼が悪くて 周りで何が起きているのかよくわからなくて 混乱して泣いているときに、
ナニー(乳母)が私を抱きしめてくれたり、侍従が手を握ってくれて すごく安心したこととか・・
人に触れることが悪いことばっかりじゃなかったって 思い出しました。
だから 今は 家族や仲間に触れることをためらったりしません。」清明
「そうだったの」ゴン
「はい。
だから もし 以前の私が臆病で ゴンさんをしっかりと抱きしめることができなくて
ゴンさんに 私のことを遠い存在だと感じさせていたのなら 誤ります」清明
「その点については、人それぞれだって、コンラッドから聞いてたから大丈夫。
同じ人族でも、心の距離と物理的な距離の取り方は 必ずしも同じではないし
同族でも、人によって 「落ち着く距離」もそれぞれ違うってコンラッドが ちゃんと説明してくれた」ゴン
「そうですか
コンラッドは 良い先生ですね」清明
「うん!」ゴンは ちょっと自慢気に胸を張ってみた
それから 照れた。
そんな ゴンの頭に 清明は 軽く口づけをした。
うれしそうな顔をするゴンを見て、ボロンはミューズに向かってこそっと言った。
「やけるなぁ
僕の身長では ゴンの頭にキスできないや
っていうか もともと そういう習慣もなかったし」
「まるで 娘がボーイフレンドと仲良くしているのを見て やきもちを焼くパパさんみたいだねぇ」ミューズ
「確かに そうかもしれない」ボロンも笑った。
「親愛の情の表し方は人それぞれとわかっていても
己が愛しく思っている者が、ほかの者と 己とは違った形で親愛の情を交わしているのを見ると
やけるのだな」フムフムという顔で呟くコンラッド。
「そっかぁ いろいろなことがあって 人は変わるんだね」
ゴンはしみじみと言った。
そして ゴンはボロンに連れられて 寝室へ移動した。
その日は「久しぶりに一緒に寝たい」と甘えるゴンと一緒にボロンも眠った。
後に残ったコンラッドは 清明をねぎらった。
「ゴンの情操教育に付き合ってくれてありがとう。 お疲れ様」
「はぁ~ 照れますねぇ
でも 話せてよかったです
二度と御免ですけど」
清明は 珍しく 清酒をグイと煽って言った。
「ささ 一献」そんな清明におしゃくをするミューズ
「私にも お願いできるかな」
からのさかづきを持ち出し 順番待ちをするスカイ
「君は 健康のためにこっちをどうぞ」と白樺ジュースを注ぐミューズ
「ぼくも 結婚するなら 一緒に時を重ねて行けるエルフ族がいいなぁ
僕と同年齢のエルフって ほんとに この世に居ると思う?」
そう言って空を見上げるミューズの傍らで
「こればっかりはのう」とつぶやく コンラッドであった。
「人それぞれに形はちがえど、孤独って 案外 だれにでもあるんですね」
ぽそっとつぶやくスカイに コンラッドは答えた。
「たまたま このクランに 寂しがり屋が集まっただけかもしらんぞ」
「それでも こうして 一緒に楽しめる仲間ができてラッキーだと思うよ
僕は」ミューズ
「ですね」清明
そんな彼らを励ますように カジカガエルが、まるで鳥のような笛のような鳴き声を震わせた。
(館の近くで飼っていた ウシガエルなどにぎやか組を 館から離れた場所にひっこしさせ、今では カジカガエルを館の傍に住まわることにしたボロンとミューズであった)
(参考)
カジカの鳴き声
https://www.youtube.com/watch?v=Yu1_qr6MwUw
https://www.youtube.com/watch?v=WyINUPrpzYA




