ドラゴン式稲作
ぶっちゃけ ドラゴンという生き物は 魔素成分たっぷりの魔獣肉類さへあれば
植物性食物が不要である。
というか 魔素成分を十分に摂取できなければ生きていけない。
餅つきをしたいとか、餅やコメ加工品を食べたいとかいうのは、
完全に趣味(娯楽)と嗜好品が欲しいという欲望であって
生存にはなんら必要のない話であった。
一方 人族は 穀類や野菜を食べる必要がある。
そして ダーさん達は、人族の食糧確保のための農作業で 手一杯であった。
どう考えても ドラゴンの嗜好を満たすための 農産物の生産までは無理だった。
なぜなら ドラゴンの為の農作業をする人手ならぬダーさん労力を増やすためには、必然的にダーさん達の食糧確保も必要となり、ダーさんの農業生産力には限りがあり・・・・
ゆえに ゴンが 「農業体験をしたい♡」と思えば
ゴン一人で すべての作業を行わなければどうにもならない
という現実を ゴンは認識した。
(ゴンが ダーさん達から「ゴンの要望には応えられない」趣旨の説明を受けて
しょんぼりのねぐらに戻ったあとで、
ボロンとコンラッドは ひそかに話し合った。
「仮に ダーさんや僕たち全員が ゴンの農業体験を支えるための補助に全力を尽くして
僕たちの食糧を全部外部から購入するとしても
ゴンの「耕したい♡」意欲には ついて行けないものなぁ・・」ボロン
「そもそも そういう甘やかしは あ奴のためにならん!」コンラッド)
◇ ◇
お餅食べたいなぁ
僕も農作業してみたいなぁ
ゴンは、稲作に関する いろいろな資料を読み漁った。
そうだ! 魔法を使って農作業をしよう!!
ゴンはひらめいた!
◇ ◇
①『稲は1年草だけど、雑草の中には多年草のものもあるから、
種まき前に よーく田んぼを耕して、(多年草の)雑草の根っことか
(1年草の)雑草の種を取り除いておかなければいけない。』
よーし ぼく 体力には自信があるから、耕作予定地は 深く深く耕して
そのあと 僕の魔法パワーで 土の中から黴菌とか虫とか虫の卵とか
稲の生長を損なうものを ぜーんぶ取り除いてしまおう!
②『農作物は 種をまく前に、その作物の生育に適した土壌にしておくおことが必要である』
えーと これはコンラッドの肥溜めのバイオ君やワームたちのお仕事と関係するねぇ。
ゴンは 資料を片手に 自分が育てたい稲の品種に合わせた土壌を構成するために必要な肥料づくりをバイオ君たちから教わった。
さらに バイオ魔法を覚えて、原料を調整しながら、土壌改良ができるまでになった。
あわせて 土壌改良に必要な原料確保についてはみんなに協力を頼み
確保のむつかしい原料の生産は自分でおこなった。
たとえば緑肥とするためのエンバクとかは、荒れ地で育てて、家畜の飼料と緑肥の両方に役立てた。
③種まき後に 雑草の種やら虫やら病原菌が来ると困るなぁ
よし! バリアを張ろう
というわけで 結界魔法の得意なスカイに教えを乞うて、
省エネバリア魔法を習得した。
④種まき
要するに 種もみに限らず、作物の種というのは
きちんと水分を吸収して 作物の種類にあった
一定の温度と 適度な酸素と光量があれば、発芽するんだな。
そして芽が伸びるには、先に発根した根がちゃんと土壌に定着して
芽を支えたり、土壌から栄養分を吸い上げないとダメなんだ。
だったら、まず 種を適切な間隔で一定の面積に均一に撒くための魔法を覚えてっと。
ゴンは 種まき魔法を覚えた。
これは 魔法を使って小さなモノを狙い通りばらまく練習により身に着けた。
作物によったら、種が着地するときの態勢の違いによっても発芽率や発芽後の生育に差ができるモノがあるので、
資料片手に、品種にあわせた適切な種まき方法ができるように、
魔法を使って種をばらまくことのバリエーションを丹念に練習した。
さらに 覆土(種の上に薄く土をかける)の練習もした。
もちろん魔法で!
種の種類に応じた適切な厚みで、粒子でetc適切な覆土の条件を資料で確かめつつ。
◇ ◇
そして いよいよ 稲作を始めた。
田んぼの準備良し!
土壌調整済み!
種まきOK!
覆土OK!
バリアOK
時々バリアを外して散水
これも 霧雨状にして地面を適度に濡らす練習を重ねたうえでの実践だ
稲の生育に合わせて バリアの高さを上げていく
芽が10センチを超えたころから、田んぼに水を張り始め、
15センチに伸びる頃までには、水田の出来上がり。
この、水田に水を張ったり、水田から水を抜いたりする仕組みについては、
ボロンに設計してもらった。
実際の仕掛けは ゴンが自分でやった。魔法と体力の両方を使って。
出来栄えをボロンにチェックしてもらいながら。
土木のコツはボロンに、魔法の使い方のヒントはスカイに助言してもらった。
気温が20度になるまでは、苗長の4分の3を目安に水を張る浸水管理で
保温につとめた。
もち米は、昔は陸稲と言って畑で栽培する品種が多かったみたいだけど、あれは草抜きが大変なので、今回は水稲栽培できる餅米の品種にした。
成長した稲全体をバリアで覆うのは魔法量が多く必要となり さすがに疲れるので
水面ギリギリの所にバリアをはることにした。
ようは 雑草の種が地面につかなければいいのだ。
バリアの高さを水面までにしたのは、魔法による温度調整を確実に行うためでもある。
気温が上がってからは、水の量を減らした。
必然的にバリアも縮小した。
バリアは雑草の種よけに限定して、害虫や病原菌をよけるのは、
ミューズに教えてもらった生育魔法のうちの一つ「害虫・病気除け」魔法を使うことにした。
ミューズは、自分が普段使っている生育魔法の内訳を細かく吟味して、
その一部分だけを使おうというゴンとスカイの発想に びっくりぎょうてんした。
エルフにとって魔法とは 呼吸をするような営みであって
人間のように魔法を分析するという発想がなかっただけに。
といった具合に 稲はすくすくと育ち、やがて収穫期を迎えた。
ゴンは慎重にかまいたち魔法を活動させて稲を刈り取った。
刈り取った稲を束にして乾燥させるのは ダーさんも含めたクラン仲間全員が協力した。
そのあと ゴンは稲をそのまま一度空間収納してから、藁の部分だけを分離して取り出した。
これで 千歯こき作業は省略できた。
あとは 使う分づつモミを取り出して、脱穀魔法で精米すればOKだ。
脱穀魔法というのは、閉じた空間の中で適度にモミをすり合わせてからを外す魔法。
結界魔法と竜巻魔法の応用との組み合わせである。
このようにして ゴンは もち米を手に入れた。
農業体験もたっぷりとできた。
「あーしんどかった。
農業って ものすごい作業の集積なんだねぇ。
ただ体力任せに仕事すればいいわけじゃないってことがよくわかった。
いろんな工夫と努力と忍耐のたまものなんだぁ。
ぼく お百姓さんを尊敬するし、食べられることに もっともっと感謝します!
今までの僕は 感謝が足りなかったと反省しました。」ゴン
(参考)
・環境負荷低減に資する栽培技術集
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/attach/pdf/nouhou_tenkan-27.pdf
・田んぼに米ぬか
https://nouson-kaminaka.com/2019/05/30/1931/
・無農薬田んぼの除草事情
https://hanasakawork.com/kezuttarou/
・水稲の直播栽培(公的資料)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/attach/pdf/chokuha-1.pdf
・直播による水稲栽培(農業便利帖)
https://www.jeinou.com/benri/rice/2009/05/280937.html
・クボタのたんぼ
https://www.kubota.co.jp/kubotatanbo/
豊富な写真と解説により、稲作の全作業?が細かく段階ごとに説明されていて 大変勉強になりました。
読んでいるだけで気が遠くなるほど細かな作業の集積により お米ができるのだぁと実感
趣味の園芸とは隔絶した「緻密な思考と作業&重労働の生産現場」それが農業なのだと改めて思いました。
個人的には、「育苗箱を苗代田へ移動」https://www.kubota.co.jp/kubotatanbo/rice/germination/seeding_02.html
前後の話が 一番興味深かったです。
(感想)
魔法の使えるゴンちゃんの世界は、極楽とんぼのお気楽な物語ですが
現実の リアルの農業をやる人っていうのは、栽培方法だけでなく 経済政策とか 経営学とか 多岐にわたる関連領域の専門的知見が必要な職業なんだなと思いました。
多様な栽培方法のどれを選ぶか?というのは農家にとって大問題だけど
その選択の基準・選択に当たって考慮しなくてはならないことが あまりにも多岐にわたるから
よほどしっかりとした信念・自分の経験と実践力への自信と頭脳がなければ
情報や圧力に翻弄されて終わりそうだと思いました。
そういう農家・農業経営を志す若者に対する職業訓練・専門家養成所として 今の日本の大学の農学部が本当に機能しているのだろうか?と素朴に思いました。
以前過去作で、日本の酪農家に対する 地球温暖化対策を名目に取った糞処理高額機械の購入押し付け法律(アメリカの企業を儲けさせるために手日本の酪農家を壊滅させる政策)への憤りを述べましたが(ベルフラワーだったかな?)
今の日本人として お米・肉・乳製品など健康を保つために必須食品の生産現場を取り巻く状況に
もっと真剣に目を向けて 今の内閣の政策、国会で無軌道に乱発されている法律に、もっと関心を払わないと これからの食事にも事欠く事態が進行しているのではないか?とマジ怖くなりました。