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口下手スカイ

ある日、ミューズは何気なしにボロンにぼやいた。


「スカイのやつさ、10年から前のことを持ち出して 僕が彼にセクハラしたっていうんだよ」


「えっ?」ボロン


「ほら 初めてクランの面接に来た時、僕がコートの下のビキニスタイルを見せただろ、

 あのあと スカイは 衛視まで動員してぼくをしょっぴいたり、散々仕返しをしたくせに

 いまだに あの時のことを根に持って・・」

とスカイとの一連の会話を逐一ボロンに報告した。


「僕が ビキニスタイルをみせたのってあの時だけなのに!」ミューズ


「つまり それだけインパクトがあったってことだろ」ボロン


「ってことは あれ以後今までの僕の変化、僕自身のことをスカイは全く見てないってことなの?!」ミューズ


「それは 本人に聞いてよ。

 ただ まぁ スカイが自分で言ってたように、ほんとにショッキングだったってことだろう」

ボロン


「だからって なにも 中途半端に 変なこと言わなくてもいいのに」ミューズ


「すまん 君にとって それほど嫌なことだったんだな。

 スカイが 時々変なことを言ってるとは思ったけど、君が上手に受け流していたから

 俺も 触らぬ神に祟りなしとスルーしてたんだが、悪かった。」ボロン


「まあ 一度くらいならと 僕もスカイの言動を流してたよ。

 僕も面倒は嫌だし、初対面の頃は 僕も見当ちがいな行動をいろいろやって、

 君に注意されるまで、僕の行動が君たちにとって うれしくない行動だったって気づかなかったから。


 でもさ さすがに 直近のスカイの言動にはカチンときた。

 ただ 今までのいきさつもあるから 次にスカイが変なこと言ったらその時にはガツンと言わなくちゃと思ってた。


 だからさ 清明からスカイにちゃんと注意してもらえて助かったよ。


 たださぁ・・スカイのやつの 言い訳がねぇ・・・


 彼って あんなに むっつりスケベだったの??」ミューズ


「知らんがな。

 っていうか 単純に 純情な若者にとって目の毒だったってことじゃないの??」ボロン


「え~ スカイってそんなに若かったっけ?」ミューズ


「俺や清明とそんなに変わらないんじゃないか?」ボロン


「だけど 当時の王様の話では、何年も宮廷魔術師をやって そのあと何年も田舎にひきこもってたってことだったから すでに結構な歳だったのでは?」ミューズ


「あのさ、人間に関する一般論として言わせてもらうと、30歳以後の中年の男の方がよっぽど危険だぞ。


 まだ初心うぶな青年で真面目な人物だったから 当時のスカイがショックを受けながらも

 その後の友好関係を君と築いていたんで


 フツーの人間の男は 30歳以後は けっこうスケベでズルい大人になるから

 目の前で 肌を見せてからかってくる女性に対して、えぐい態度をとることが多いから


 君 2度と ああいうからかいをやるんじゃないよ、ほかの誰に対しても」ボロン


「もうやらないよ。

 でも 初対面の頃のスカイは 絶対40近かったよね」ミューズ


「あのさ、スカイは 10代半ばには すでに王宮魔術師になっているから

 初対面の頃は まだ20代だった可能性が高いと思うよ。


 もっとも 俺もスカイ本人に会う前には、『偉大なる大魔術師スカイ』の噂からお年寄りをイメージしていて、

 ご本人を目の前にしたときには、その若者っぽさにびっくりしたけどさ。」ボロン


「そっかー。 落ち着いてるから、あの頃 すでに30過ぎてたと思ってたよ。

 というか 人間の歳ってわかりにくいね」ミューズ


「じゃあ この間の見事な流し目も 中年のおっさんならではのものだったのか?」ミューズ


「おいおい スカイが泣くよ。今のセリフを聞いたら。

 確かに あの流し目はすごかったね、俺も驚いた」ボロン


「やっぱり?」ミューズ


「うん」ボロン


「中年の余裕と言ってほしいね」突然スカイが念話で割り込んできた。


「スカイ 立ち聞きしてたの?!」ミューズ


「いや コンラッドが ぼくのことを噂話してるぞって 中継してくれたんだよ。

 途中から。ちなみに前半の聴き洩らした部分は圧縮概念で添付してくれた」スカイ


「うわぁ 過保護なコンラッド。」ボロンがあきれたように笑った。


「こわ~。 うっかり噂話もできやしない」ミューズ


「えーと コンラッドの為に言い訳すると、

 コンラッドは 口下手な僕のことを心配しておせっかいを焼いたのだと思う。

 だから 今後は 僕も もうちょっと素直に心の内面を話すから

 コンラッドにも いらぬおせっかいを焼かないように注意するから 許して。


 それに 彼がこういうおせっかいを焼いたのは今回が初めてだから、本当だよ!」スカイ


「だといいけど」ミューズ


「すまんな。

 最近 告白ばやりだから この際と思って中継したのだが

 やはりまずかったか。


 わしとしては 皆が もっと打ち解けられるようにと願っての行為だったが

 不信感を抱かせることになるのは本意ではないので もうやらん。

 すまん」

コンラッドがひょっこりと姿を現して 頭を下げた。


「やっぱりこういうのは やめてほしいですね。

 プライバシーは大事です。」ボロン


「ぼくも。対話を重視しているので」ミューズ


「おや?エルフはテレパスではなかったのか?」コンラッド


「僕は子供で 周りは爺さんばっかりだから テレパシーを使うことは全くなかったね。

 爺さん同士でテレパシーを使ってたのは知ってたけど。

 僕との交信は「まだ早い」って言われて、言葉と本での勉強ばっかりだった。


 一応 エンパシー(感覚共有)の送り方は、竪琴の演奏の時に ちょこっとだけお師匠様から習ったけど

 ほとんど独学だし。


 だいたい 生活習慣のちがう異種族や異次元の存在とのテレパシーなんて、

 ただの異言語翻訳機能を使ったバーバルコミュニケーションみたいなもんじゃないか」ミューズ


「そうか。

 わしがスカイを育てるときに できるだけ人間らしく育てようと努力はしたのだが

 やはり神獣同士のような感覚でテレパシーも使っておったので

 スカイは 口下手になってしまったのかのう、すまなんだ」

耳を倒して しゅんとした様子のコンラッド


「何を言ってるんですか。

 僕が口下手なのは 僕が面倒がって 仲間内ではあんまりしゃべらなかったからです。

 僕にとって 言葉とは、交渉術みたいなもんでしたから。


 ただ 最近になって 個人的な関係を深めるためには 言葉を使った対話も大切にしないといけないなぁと考えをあらためましたが」コンラッド


「それで 悩みは生じなかったのか?」ボロンは不思議そうに尋ねた。


「僕の場合は、コンラッドが居て、魔法の研究もあったから、それほどほかの人と深くかかわりたいという欲求を感じることなく育ったね。


 しかも王太子とか影武者とか宮廷魔術師とかっていう確固たる立場に守られていたからね、

 ぜんぜん不便を感じなかったから悩みもなかったよ」スカイ


「じゃあさ あの見事な流し目は どこで覚えたの?」ミューズ


「ああ あれ、鏡の前で練習した。

 一応、王太子の訓練の一つに 表情の作り方ってのがあって

 王になってからも 手引書を見ながら、その時々にふさわしい表情を作る練習は続けてたんだ。


 でもね さすがに流し目を使うシーンがこれまで全然なくて、一度やってみたかったんだよ、あれ。


 その相手にミューズ 君を選んじゃってごめん。


 ついつい トリックスターの君なら大丈夫って思ってしまったけど

 君は もう トリックスターではなくなってたんだよね。

  ていうか「噂のトリックスター」と、

  「僕の目の前にいるミューズという人」とは別物なんだという認識が僕には欠けていた。

     ごめんなさい。


 だから これからは ちゃんと言葉を使って、目の前にいる君そのものとコミュニケートするよ。

  すでにわかっているつもりの『僕の頭の中のイメージのミューズ』に話しかけるのではなく

    この点に関する僕の認識の甘さは ほんとに悪かった。ごめん

 

 そのう クランの仲間として一緒に仕事をするときのように、

 気楽な場での私的な会話をするときにも もっと君に対して気を使います」スカイ


ミューズは 指弾をはじく格好をしてみせた。

(”「認識の甘さ」じゃなくて、

  たんに「勝手に思い込んでた僕の虚像=君の思い込みイメージ」に話しかけて

  実存する僕を見てなかっただけじゃないか! 無茶苦茶失礼なやつ!!”と言う代わりに)


スカイは胸を押さえて倒れるふりをした。


「もしかして スカイって 仕事の時以外の付き合いって めっちゃくちゃ気を抜いてたのか?」

ボロンはつぶやいた。


「うん。だって そうでもしないと しんどいじゃない」

あっけらかんと答えるスカイ


「うわっ。」

心の中でボロンは頭を抱えた。

 (四六時中(しろくじちゅう) 気の抜けなかった俺ってばかだった。)


「ボロンは お酒を飲むと 気が抜けるからいいじゃない。」ミューズ&コンラッド


「飲まなくても 気を抜き切れるスカイがうらやましいよ」ボロン


ふふん!という顔をして見せるスカイ


ゴロンは こつんとミニ・エアつるはしを振って見せた。


「最近の僕って やたら殴られてないか?

  もちろんエア殴りだけど」スカイ


「そりゃぁ 言葉よりもインパクトのある表情をして見せるからだよ」ミューズ&ボロン


「うわっ そうだったのか!\(◎o◎)/!」スカイ


(ほんとうは まじめに考えればわかることを

 俺たちに対して気を抜きすぎて ちゃんと考えずに 自分の感覚オンリーで

 俺たちとの付き合いを 雑にしてたって知って 頭にきたからなんだよ)とは

ボロン&ミューズが共有する思いではあったが。


(だけど そんなこと 今更言葉で言わなくても すでにあいつは気が付いたみたいだし・・


 しかも 子供っぽいスカイは、自分の非を言葉で認めるのをいやがるしなぁ。

 己の過ちに気が付いたら すぐにその場で素直に ごめんなさいを言うのも

 子供っぽいスカイの良いところだし・・


 ことばで彼の非を追求して彼の思い違いを(ただ)そうとしたら

 彼のプライドが刺激されて 後々の禍根になりそうだから、

 彼の態度が(ただ)されればそれで良しとするしかないよな)

by ボロン&ミューズ




ちなみに ボロンとミューズには、「人間関係」というものを しっかりと言葉で表して互いに確認しあうことによって信頼感を確かめ合い、安心したい傾向があり、

他者との関係に不愉快なことがあっても、実害の程度を判断して対応するタイプであった。


一方 スカイは 自分を中心とした人との関係に絶対的な安心感を持つがゆえに

他人との関係は 自分が納得できれば 自分にとって違和感なくスムーズに流れていればそれで良し

というか それが当たり前のことであり正常な状態であって、

違和感が生じることの方がおかしい、相手に原因があると思うタイプであった。

 


結局のところ 他者との関係において、

ボロンとミューズは マイノリティ(少数者)であるがゆえに いつも他者とのかかわりに気を使わなければ生存が脅かされる立場であったのに対し

スカイはマジョリティとして、おのれの命の危険を感じることなくマイペースが許される、ぬくぬくと育つ立場であったということを反映しているといえよう。


能力的には3人とも抜きんでて優れていることは誰もが認めるところではあるが

 ミューズは、エルフというエリート階級:優れた存在であり部外者でもある、一目置かれる存在

 スカイは、トップ:仲間から無条件に上位者として認められた存在

 ボロンは、庶民(大衆の一員):仲間の一人であって、蹴落としてもかまわない存在

として 生まれ育った地位・階級を反映しているともいえる。


しかも ドラゴン・クラン内では メンバーの立場はみんないっしょ

ただしボロンだけは「代表」として仲間から一目置かれる存在というところで

メンバー一人一人にとっては ドラゴン・クランが居心地よく感じられる一方で

クラン結成までは、庶民感覚そのものだったボロンが トップとしての責任を背負うストレスに加え、

最近では、クラン外でトップそのものである王族としての権力と存在感が増す一方のスカイを

クランメンバーとして従えねばならないこともあるという点が

ボロンの新たなストレスにもなりつつあるボロン


対照的に クラン外で身に着けた権力者としての態度を、クラン内でも無意識のうちに発揮することが増えたスカイに向かって、

「おい おい おい」と言いたくなることも増えたボロンとミューズが エア殴りをスカイに振るうのは 必然の結果であろうと思うコンラッドであった。


(そこまで互いの関係が深まるように願ってのおせっかいじゃったんだが・・フム・・)byコンラッド

(注)


従来は 一般的に

エリート:少数の特権階級

マイノリティ:少数者であるがゆえに差別を受けやすい存在

マジョリティ:多数派であるがゆえに 少数者を迫害する存在


と扱われることが多かったのですが

現実は その「枠づけ」そのものが 偏向した思想傾向を反映しているのではないか?

もしくは 社会の変化に対応していないのではないか? と私は思っています


『平等・民主・人権重視」思想が 社会の中で当たり前の道徳律としてうけいれられることにより

現代社会の様相は 時々刻々とかなりかわっていると思います


情報と思想・主義主張の違いが認識されることもないまま、

そのいずれもが素早く集団全体に拡散する現代社会においては

世代交代・通念の変化速度もすさまじく


さらに 「情報がその集団に受け入れられやすい要素と集団の質のちがい」による拡散の速度や拡散の仕方の違いも顕著となり

社会学的定義の見直しとその共有が追い付かない一方で


イデオロギーや偏見に満ち満ちた、あるいは誤用あふれる 「社会学用語」の流用の弊害が増大する一方ではないかと思う毎日ですが、

それ系の言葉を使わねば表現ができない このむつかしさとむずがゆさ、ムズイです。

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