昔話の終着駅
私は交通事故にあった。そのことを思い出しながら、男性から渡された指輪を見つめる。それは育ての父親である叔父から貰った、父の形見とまったく同じものだった。
黒電話が鳴るのを待ちながら、叔父の話を思い出した。
私の母は不倫をしていた。そして、父が仕事で出張に行っている間、別の男を家に呼んで泊めていた。
だが、予定より早く帰ってきた父に見つかってしまい、両親は口論になった。
不倫相手に愛情を抱き始めていた母は、父の左胸をめがけて、衝動的に包丁を突き立てたのだ。母は父に反撃される事を恐れ、その一突きを深く深く刺しこんだ。
そして母は、私を捨てて逃亡し、不倫相手の元へと向かった。
当時二歳の私に救急車を呼ぶことはできず、父の体は冷たくなった。
そこまで思い出したところで、黒電話が鳴った。
私は成長痛を引きずるようにしながら、しかし確実に黒電話の前まで進む。
無機質で、冷たい受話器を持ち上げた。
「死ぬな! 乃愛!」
「うん。私、帰るね」
私の返答を聞いた男性は、ファンファーレを口ずさみ始めた。
私が小さな笑みをこぼすと、男性も陽気な笑い声を返してくれた。
笑みが溢れ、温かな雫が頬を伝う。
「ありがとう、お父さん。じゃあね」
透けていく自分の姿を見つめながら、私は震える唇を嚙みしめて笑った。
改めて、ご愛読ありがとうございます。
柊 真詩です。
いかがだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
この作品は去年(2021)の夏に大学のとある企画にて書き上げた短編小説を、ネット投稿用にレイアウトを整えたものです。本来、企画による作品はオンライン販売をする予定だったのですが中止となり、PC内にデータとして残っていたのを思い出したため、このような形で公開させていただくこととなりました。
1年前の文章であるため、やや拙さも感じますが、4000字弱という字数にしてはそれなりにまとまっていたな、というのが個人的な感想です。
この作品を執筆するにあたっては、私一人のアイデアではなく、とある同級生のイラストを参考にした部分もありますので、ここにそのお礼を書き留めておきます。ありがとうございました。
ではまた、次の機会にまた別の作品をお届けできればと思います。
ありがとうございました。