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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
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第8話:戦いとは呼べないもの

「ぼうけんぼうけんー」

 ギルドから家に戻った俺とミラルは、遠征の準備を始めた。遠征と言っても、俺を入れた状態で数時間ほど歩いた場所にある古い砦が目的地らしいが。

「そんな、ピクニックに行くみたいにはしゃいじゃって。本当にあんたはわからんわ」

 もはや慣れたミラルの呆れ声を聞き流しつつ、バッグに荷物を詰めていく。

「あ、ちょっと、あまりに入れ過ぎたら動きにくいでしょ?着替えとかは必要ないし、必要最低限にしておきなさい」

 目的地まで近いとは言っても、時刻はすでに夕方に近い。今日は夜襲をかけ、その後野宿するとのことだ。なので、着替えや多めの食料をバッグに入れようとしていたのだ。

「え、だってキャンプするんでしょ?だったら、荷物は余分にでも持っておいたほうが……」

「あのねぇ、私達は遊びじゃなくて仕事で行くのよ。着替える暇なんてないし、食料もパン四つくらい持っていけば十分よ」

 流石に苛ついたのか、ミラルは少し怒ったような口調でいった。そんなミラルは、すでに準備を終えている。

「全く……そうだ、出る前に、これあんたに渡しておくわ」

 ぽいっと、ミラルは何かを俺に向かって放り投げた。慌てて受け取ると、それは鞘に収まっている、少し長めのナイフだ。

「お、これは俺の武器?ナイフかぁ」

「なに?ナイフだったら不満なの?」

「い、いえいえ全然!」

 ミラルの苛立ちが更に強まっていたので、これ以上の文句はやめておいた。鞘からナイフを抜くと、銀色に輝く片刃の刀身が姿を表した。

「この先、できる限りはやるつもりだけど、常にあんたを守ってあげられる保証はないわ。それはあげるから、何かあったら自分でなんとかしなさいね」

「自分で、か……」

 それはつまり、いざとなったら俺がこのナイフで敵を斬らなければいけない、ということだろう。

 ナイフをもらったことに不満を漏らしてしまったが、そもそもこれまでの人生で、刃物で人を傷をつけたことなんてない。果たしてそれが来たときに、俺はできるのだろうか。

「まーた急に静かになっちゃって。大丈夫、私が近くにいる間はあんたのこと、ちゃんと守ってあげるから」

 ポンと、ミラルが俺の頭に手を載せてきた。それは数日前に宿で撫でられたときのような、力強くも優しいものだった。

「う、うん……よろしくね、ミラル」

「全く、はしゃいだり静かになったり、忙しいやつねぇ」

 ミラルは呆れつつも、ニッコリと笑ってくれた。その笑顔は改めて見ても、美しく、しかしどこか不気味さを感じた。

「ほら、さっさと準備終わらせな。置いていくわよ」

「そ、そうだね!それじゃ、これとこれは出しちゃって……」

 つい見惚れてしまったが、慌てて我を取り戻し、準備に戻った。不要と判断した着替えや缶詰といった重めの食料をバッグから放り出していく。

(……不気味さ?)

 自分がミラルに対して感じてしまったことに、少し違和感を感じるのであった。


※※※


「おー、いるわねぇ」

「見張りが二人か。砦内にどれくらいいるかはわからないが、十は超えると考えたほうが良さそうだな」

 すっかり暗くなった平原。静かなその中に、目的の砦が建っていた。俺たち三人は少し離れたところから、砦の出入り口の様子を伺っている。俺たちの視線の先には、松明を持った人間が二人立っているのが見えた。

 ランの話によると、かなり古い時代に建てられた砦で、既に使われていないとのことだ。そのため、賊などといった不届き者が占拠することが度々あるという。

「全く、いい加減見張りでも立てるか、撤去してしまえばいいのに。セリナに任せたら一発よ」

「そうは行かない理由がなにかあるのだろうさ。さて、攻め方だが……」

 ミラルとランが作戦会議を始めた。どのように行くのか期待して聞き入る。

(俺にも出番、あるかなぁ)

 戦うことに対して恐怖もあるが、僅かだが期待の念もある。少しでも活躍できればいい、そんな気持ちだ。

「そうねぇ、いつもの、と行きたいところだけど、今回はショウタもいることだしねぇ」

 ちらりと、ミラルが俺の方を見る。

「正面突破はやめておきましょう。私とショウタは東から行くから、音がなったらランは入り口から攻めて。特に指定されてないから、敵の生死は問わないわ」

「了解した。それじゃあ、また後でな」

 そう言うと、ランはかがんだまま移動を始めた。

「よし、私達も行くわよ。そのまま、ゆっくりとついてきて」

 ミラルもかがんだまま、砦の左方面へと動き出す。それに続いて、俺も歩き出した。

「よーし、がんばるぞ」

「こら、声は出さないの。静かに行くわよ」

 ミラルに叱られつつ、砦の方へとどんどん近づいていく。

 静かに移動し、ついに砦の真横にたどり着く。砦の石造りの壁は古びてはいるが、未だ頑丈さを保っているようだ。

「いい?私が今から壁壊して突撃するから、あんたは後ろから着いてきてね」

「おっけ……え、今なんて?」

 ミラルは今、壁を壊すと言った。しかし、そんな余裕などあるのだろうか。

「壊すって、つるはしで?そんな、どれだけ時間かかると思ってるの?」

「すぐ終わるわよ。ちょっと離れてて」

 そう言うと、ミラルは壁に向かってつるはしを構える。まさか、本気なのだろうか。

「せーのっ、ドリャァ!」

 ミラルがつるはしを、壁に振り下ろす。すると、まるで爆発でもしたかのような、とてつもない轟音が鳴り響いた。

「え、え!?」

 砂埃が舞い、視界を奪う。思わず目を閉じてしまったが、薄っすらとまぶたを開けて様子をうかがうと、砦の壁に、巨大な穴が開いていた。

「なんだ!?何が起きた!?」

「敵襲!敵襲!」

 砦の中が段々と騒がしくなってきた。流石に先程の轟音には、敵も気づいたようだ。

「よし、行くわよ!近づきすぎないでね!」

 そう言い残すと、ミラルは大きく開いた穴の中に突入していった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 慌ててナイフを抜き、後に続いて穴の中へと入っていく。壁の向こうは広場になっており、何人もの賊たちが唖然としつつも武器を構えている。

「オリャァ!」

「ぐあっ」

 そんな賊の一人に、ミラルが襲いかかる。つるはしを振り下ろし、賊は慌てて剣で防御するも、それを押し通し、そのまま頭を砕いた。

「ば、バケモノ女だ!なんでこいつが!?」

「恐れるな!やっちまえ!!」

 我を取り戻した賊たちが、一斉にミラルに襲いかかる。ミラルは、剣を避けてはつるはしで貫いたり、槌を腕で弾き返してはそのまま殴り返したりと、孤軍奮闘の活躍を見せている。ミラルの攻撃を受けた者は、一撃で絶命しているようだ。

「……強い……」

 思わず、見とれてしまう。初めてミラルの戦いを見たときは、あまりの凄惨な光景にショックを受けてしまったが、今は衝撃よりも、憧れに近い感情を持っている。

「敵わねぇ!全員撤収だ!!」

 リーダー格の男だろうか、そう叫ぶと、砦の出入り口の門を開く。しかしその先には、薙刀を構えるランが立っていた。見張り二人は、既に斬り伏せられた後だった。

「おお、ようやく開いたか」

「ゲッ!?死神の娘!?」

 その言葉を最後に、リーダー格の男の首が飛んだ。あれはもう繋がらないんだなぁ、とのんきなことを考えてしまった。

 乱戦にランも参戦し、賊側の戦況はもはや絶望的である。攻撃を避けつつもつるはしで砕くミラルに、刃を受けても一切怯むことなく反撃してくるラン。これはもう、戦闘と呼べるものではないのかもしれない。

「ショウタ!右!」

 戦いに注目していると、突如ミラルがこちらに向かって叫んだ。思わず言われた方を見てみると、賊の一人が俺に気づいたのか、剣を振りかざしこちらに向かってくる。

「う、うわぁ!」

 思わず、抜いたナイフを目の前に構える。賊は俺に斬りかからんとばかりに飛びかかってきた。

「オリャァ!」

「おげっ」

 突如、賊の脇腹に何かがぶつかり、言葉になっていない何かを発しながら、横方向に飛んでいった。どうやらミラルが、瓦礫か何かを投げつけたようだ。

「あ、ありが」

「油断しない!周りに気を配れ!」

 ミラルに怒鳴りつけられ、一瞬立ち竦むも、慌てて辺りを警戒するように見回す。しかし、どうやら先程の賊が最後の一人だったらしく、ついさっきまで聞こえていた喧騒は消え去っていた。

「全員始末したな、ミラル」

 静まり返る中、ランがそう言いながら歩いてきた。その腹には、剣が一本突き刺さっているが、ランは平然としている。

「そうみたいね。ふぅ……」

 ミラルは構えを解くと、ため息とともに額の汗を拭った。その後、俺の方に顔を向けると、こちらに向かって歩いてきた。

「ごめんねショウタ、つい怒鳴っちゃった」

 俺の肩に手を置き、ミラルは申し訳無そうに言った。

「い、いいよ謝らなくて……ぼーっと見とれてた俺も悪かったし……」

 それはそうなのだ。命のやり取りが行われている場で、無警戒に突っ立っていた俺が悪いのだ。

「それよりも、ありがとう。また、守ってくれて」

「……いいのよ、それが仕事だから」

 俺は何度、ミラルに助けられたのだろうか。細かいことも合わせると、もはやわからないほどだ。

 だが、この先も、ずっとこのままでいいのだろうか。

「ラン、リーダーの首拾って死体片付けたら、今日はもう休もうか」

「承知した。私が拾ってくるよ」

 ランは腹の剣を引き抜きながら、砦の出入り口の方へと歩いていった。

「ショウタは火、起こしておいて。火打ち石、私が持ってきてるから。薪は砦内にこいつらが使ってたものがあるはずよ」

 ミラルはそう言うと、カバンを俺の方に放り投げた。そして、近場にある死体を拾い始めた。

「うん、わかったよ」

 改めて、辺りを見回す。ミラルとラン、そして俺を除いては、辺りは賊の死体の山だ。

「……すごいな」

 ミラルとランのやったことと、もはやこういった光景に慣れてしまっている自分の心情に、感嘆の声が漏れるのであった。

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