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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
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第2話:バケモノ女ミラル

「はぁ……はぁ……」

「……体力ないわね、あんた」

 異世界に来た翌日の朝、俺とミラルは山の麓に向かい出発した。が、かれこれ数時間は歩いただろうに、一向に目的地は見えてこない。

 俺は息が切れ、足も棒のようになってきた。一方ミラルは、荷物と巨大な熊の死骸を引きずりながらも、軽快に足を進めている。

「い、いや、ミラルが体力すごいだけだって!どんなスポーツマンでも歩きっぱなしはきついって!」

「そう?そりゃ、私基準で考えたら行けないんだけどさ……仕方ない、少し休むか」

 そう言うとミラルは荷物をおろし、その場に座り込んだ。俺はなんとかミラルのそばまでたどり着き、その隣に倒れ込む。

「あれまぁバテちゃって。ほら、飲みな」

 ミラルは水筒を差し出してきた。俺はそれを受け取ると、速攻でガブガブと飲んでしまった。

「ちょっと、私の分も残しておいてよ?水が補給できる場所、あまりないんだから」

「は、はいぃ……」

 水筒から口を離し、ミラルに返した。息がゼェゼェと切れており、苦しい。しばらくは収まりそうにない。

 どうやら俺に与えられた特殊能力は、超人的な身体能力ではないようだ。

「やれやれ……よく見たら細っこいし、あまり運動神経ある方ではないみたいね。となると、やっぱり麓の町からあそこまで来たわけではないか」

「え、ええと……」

 おそらく、異世界からあの場所に飛ばされたと言っても信じてもらえないだろう。それ以上に、考える余裕も、話す余裕もない。

「話したくない事情があるのかもしれないから、詮索はやめておくよ。でも、そうなるとこの後どうしたらいいんだろう」

 言われてみれば、確かにそうだ。今の俺には、なにもない。今着ている服以外に荷物は何もなく、住む場所だってこの世界にはない。

 よく読んでた物語の主人公たちは、人を助けたりして、住む場所やお金を獲得していた。だが、俺はどうだろうか。むしろ現地の人に助けられる始末だ。このままでは、野垂れ死ぬ未来しか見えない。

 それに気づくと、強い不安に襲われてきた。

「とりあえず、麓の町まで行こうか。その後のことは、それから考えればいいか」

 ミラルはニッコリと、こちらに笑顔を向けてきた。その笑顔は、とても眩しく、きれいで、なのになぜだろう、少しだけ不気味だった。

 少し恥ずかしくなり、思わず顔を背ける。

「は、はい……」

「ただ、もし家出とかだったら親が心配するだろうし、早く顔を……ん、動かないで、ショウタ」

 突如、ミラルの声が険しいものになった。驚いて顔を見ると、辺りを警戒しているような、厳しい表情をしている。

「ミラル……?」

「出てきな、バレてるよ。10人はいるだろ?」

 辺りに向かって、ミラルが言葉を発する。すると、周りの木陰から、何かが姿を表した。

「へへっ、奇襲は失敗か。見抜いた褒美に、命は助けてやるよ」

 現れたのは、人間だ。男が7人に女が3人、こちらを囲むように身構えている。その身にはそれぞれ異なるデザインの服や鎧を纏っており、手には剣や槍などの武器を構えている。

「賊の情報は聞いてないんだけど、最近堕ちたばっかの奴かな」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!」

 一際体格の大きい男が怒鳴ってきた。その怒鳴り声は、 嫌な思い出を引き起こし、不快なものであった。

「み、ミラル……!」

「んー、リストに載ってた記憶もないし、最近組んだばかりの奴らかな」

 不快感と恐怖が込み上げてきている俺に対し、ミラルは落ち着いて、囲んでいる者たちを見据えている。

「へへっ、こちらとしても無駄な労力はかけたくないんでね、つべこべ言わずに持っているものを……」

「ん?……ちょ、ちょっと待て!こいつ、バケモノのミラルじゃねえか!」

 こちらを囲んでいる賊の一人が、唐突に大声を上げた。

「な、ミラルだと!?こいつが!?」

「ああ!長い金髪につるはし、間違いねぇ!」

 賊たちがどよめき始めた。どうやら、ミラルのことを知っているようだ。

「み、ミラル、知り合いなの?」

「いや、知り合いではないけど、向こうは私のこと知ってるみたいね」

 そう話しつつ、ミラルは背負っているつるはしに手を伸ばす。

「お、おい!マジであのミラルだったら勝てるわけねえよ!どうするんだよ!」

「あたしはごめんだよ!こんなところでいきなり死ぬなんてさ!」

 賊たちが、あからさまに動揺している。ミラルを恐れているようだ。

「おいオメェら!なに臆病風ふかしてんだ!」

 突如、他の賊よりも頑丈そうな鎧を着込んだ男が、周りに向かって叱りつけた。どうやらリーダー格のようだ。

「だってオヤジ!マジでミラルだったら俺たちは……」

「おいおい、むしろチャンスじゃねえか。こいつをぶっ殺せば、オレたちの名が上がるぜ。バケモノ女を殺したやべぇ奴らダバッ」

 話していたリーダー格の男の頭が、突如弾けた。

「あ、やっぱり弱いか」

 一瞬の静寂の後、ようやく理解が追いついた。ミラルがいつの間にか男に近づき、頭につるはしを振り下ろしたのだ。頭が半分砕け散った男が倒れ、返り血に染まったミラルが立っている。

「お、オヤジィ!!」

「よくもオヤジを!!許さねえ!!」

「あ、あたしゃごめんだよ!!」

 周りの賊達の反応は2つに別れた。激昂してミラルに襲いかかる者と、一目散に逃げ出す者だ。

「はぁ……めんどくさ」

 一人の男が、ミラルに向かって剣を振り下ろす。ミラルはそれを素早く躱すと、つるはしを男めがけ、横に大きく振る。つるはしの先は鎧を砕き、男の腹に突き刺さった。

「オゲッ」

 言葉ではない何かを発した男を突き刺したまま、ミラルはつるはしを振り切り、男を遠くへと飛ばした。

 一人の女が、ナイフを手にミラルの背後から飛びかかる。ミラルはつるはしを振った勢いのまま柄から手を離し、女のみぞおち辺りに拳を叩き込む。

「ガッ」

 拳は不自然なくらいめり込み、賊は口から大量の赤黒い液体を吐き出した。ミラルはその液体を身体に浴びながら、拳を引き抜いた。

 さらに別の男が、槍を構えてミラルへと突進する。ミラルは先ほど女に突き刺した手で向かってくる槍の穂先を握る。瞬間、槍が静止し、つっかえた男がミラルの方へと倒れ込む。そんな男に対し、ミラルはもう片手でつるはしを振り下ろし、賊の頭を砕いた。

「ひっ……!ば、バケモノ……!!」

 3人が立て続けにやられるのを目の当たりにし、激高し襲いかかろうとしていた他の賊も怖気づいたのか踵を返し、逃げ出した。

 突如、俺は何者かに後ろから首を掴まれる。

「お、おい!こいつがどうなってもいいのか!!」

 突如、賊の女の一人が俺を掴み、喉元に刃を突きつけてきた。だが、死の恐怖を感じる間はなかった。

 ミラルは足元から小石だろうか、何かを拾い上げ、それを俺たちの方へ向かって投げた。飛んできた物体は俺の顔の横をかすめ、その後鈍い音がすると、背後から生暖かい液体が俺にかかった。その途端、俺を拘束する力も弱まった。

「やっぱりバケモノじゃねぇか!!逃げろ逃げろ!!」

 叫びながら逃げ出した賊を最後に、唐突な静けさが訪れる。その場に残っている生物は、血まみれの俺と、血と恐らく吐瀉部にまみれたミラルだけだった。

「……」

 一瞬の、だが嵐のような出来事だった。

「やれやれ……大丈夫?ショウタ」

 ミラルがこちらを向いて、心配そうな顔をしている。その美しくも血反吐に染まった顔を見て、俺は2日連続で、気を失った。


※※※


「よかったよねぇ、近くに川があって」

服を着たまま川に入り込むミラルを尻目に、俺は川辺で膝を抱え、震えている。

 あの後目を覚ますと、俺は今いる川辺に横にされていた。ミラルが運んでくれたのだ。

 はっきり言って、怖かった。こちらを襲おうとしていた賊が、人質に取られたことが、そして何より、躊躇なく人を殺すミラルが。

「ほら、あんたも入りなよ、血まみれでしょ。服はまぁ、焚き火でも焚けばすぐ乾くから」

 ミラルはニッコリと笑っている。それはとても、つい先程人を惨殺した表情には見えなかった。

「……ミラルは、こんな生活を続けているの?」

 恐る恐る、聞いてみる。

「うん?まあそうね、仕事柄人を殺すことなんて普通だし」

 普通。この言葉がこれほど恐ろしく聞こえたのは初めてだ。

「ミリーさんはたまに生け捕りしろ、ってうるさいんだけどさ、生け捕りって難しいんだよね。暴れるし、道具もいつもより必要になるし」

「そうなんだ……」

 それ以上、言葉が出なかった。

「あー……あんた、ああいった場面に出くわすの初めて?」

「……うん」

 なんとか、声を振り絞る。だがこれが精一杯だった。

「……よし!あんたの体力もないことだし、下山は明日にしよう!本当は今日中に下りたかったけど、もう休んだほうが良さそうだしね!」

 そんな俺の様子を察したのか、ミラルは明るく振る舞ってきた。

 その様子が申し訳なく、そして、恐ろしかった。

「は、はい……」

「それじゃあ、ちょっくら薪でも集めてくるわね!あんたはここで休んどきなさいね!」

 そう言うと、ミラルは川から上がると、濡れたまま小走りに駆けていった。その姿を見送り、再び膝を抱え、震え始める。

『中二病更生用世界』

 この世界に飛ばされる直前、虹色に輝く何かはそう言っていた。

 この世界は、俺が夢焦がれたものではないのだろう。ようやく、気付き始めていた。

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