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久々の学校と気づき

この1週間は市場と孤児院の往復で毎日仕事、仕事だった。

しかも、メニューの改善、売り方の改善を行ってきた。


主にシロが料理方法や販売方法を引き継いでくれたので、子供たちにも円滑に伝わりつつある。

この調子でいけば、1か月もあればバインミーに関しては心配しなくてよさそうだった。



個人でのパン作りに入りたいところだったが、オーブンがない。

イーストもない。

「菌」と言うのは概念すらない。


本当は学校が始まったのだが、タケルは自主休校を決め込んで、屋台の安定化とパンの内製化(孤児院製化)に注力することにしたのだった。


タケルは1週間ぶりに家に帰って、家で寝た。

何だか色々なことが次々起こった1週間だった。


祖父の死、異世界への移動、クレアとの出会い、そして婚約、孤児院の店の準備とオープン。

たぶん、これまでの16年の中で最も色々なことが起きた期間と思えた。


疲れていたのだろう。

タケルは床に入ったらその後の記憶が全くなかった。

「落ちる」とはこのことだろうか。


何だか夢を見たと思ったが、次の瞬間目が覚めた。

いや、正確には起こされた。


目が覚めた時天井が見えたのだが、「見知らぬ天井」ではなく「見知った天井」だった。

一度、有名なセリフ「見知らぬ天井」と言ってみたかったが、そういう機会はなさそうだ・・・


タケルを起こした人物は、寝起きの、正確には寝ている状態のタケルの前にいた。

前にいただけではなく、爆睡絶好調で、そのまま寝ていたら数日は寝被っていたであろうタケルを容赦なくたたき起こした。


「こらっ!連絡もなく学校休んでっっ!」


「はひっ!すびまへん!」


押しが強い人には何となく気弱になってしまうタケルだった。


「新学期が始まったのに何日も学校に来ないし!家にはいないし!おじいちゃんもなくなったし!心配したんだからね!」


タケルをたたき起こしたこの人物の名前は、夕凪ゆうなぎ

タケルの幼馴染だ。


自分の部屋の布団で横になっていたタケルの前に仁王立ちで立っている。

オーソドックスなデザインのセーラー服。

活発な印象のショートカット。


ちなみに、「たたき起こした」と言っても使ったのは足だったので、正確には「けり起こした」のかもしれない。


「いや・・・なんか、変な夢を見ていたんだ・・・」


「変な夢?」


「異世界に行って、パン屋をしてきたよ・・・」


「はあ?何言ってんの!?」


「あ、ごめん。寝ぼけたみたいだ・・・ユウナギ、起きた。目が覚めた」


タケルはまだ片目が開かない状態で、起きたと精一杯アピールした。


「ほら!制服着て!学校行くわよっっ!」


着替えたのか、着替えさせられたのか、ダイニング兼キッチンに来た。


「朝ごはん何食べるの?あんたの家、冷蔵庫の中空っぽじゃないっっ!」


ユウナギはタケルの家にちょくちょく来ていた。

朝起こす代わりに、朝食を食べていっていたのだ。

ユウナギの家は、タケルの家の6軒ほど隣の家なのだったが、さばさばしたユウナギの性格なのか、何となく付かず離れずここまで来たのだ。


親同士(と言っても、タケルの方は祖父しかいないので、タケルの祖父とユウナギの両親)が、仲が良かった。

そういう意味もあって、家族ぐるみの付き合いであり、兄弟や親せきの様な関係なのだ。


ようやく目が覚めてきたタケルは、朝食の話を聞いて何となくバインミーを2人前と牛乳を取り出した。


「はあ!?何これ?!あんた今どこからだしたのっっ!?」


「ん-?いや、なんとなく(?)」


「牛丼~!?パンに牛丼!?」


「うん、まあ、マティアスでは人気だよ」


「マティアス?どこそれ?」


タケルとユウナギはバインミーと牛乳で朝食を食べ始めた。


「あんたこれ、意外においしいわねっっ!♪」


「タレが少なめでねっとりしているから、垂れないんだよ」


「・・・たれ?ダジャレ?」


何となく噛み合わなない会話のまま朝食を済ませ、2人は学校に向かうことになった。


よくよく考えたら、年頃の女子が一人暮らしとなってしまった男子の家に行ってしまうと言うのは、一定のリスクがある。

そのリスクを負ってまで来たと言うことは、タケルのことを心配していたのかもしれない。


数日行方をくらましていた理由を聞いても答えないタケルに対するツッコミが弱いのも、気を使ってのことかもしれない。


「で?大丈夫なの?」


「なにが?」


登校途中にユウナギがふいに質問した。

何に対してのことなのか分からなかったタケルは気の抜けた返しをしてしまった。


「その・・・おじいちゃんのこと・・・タケルは落ち着いたかなって・・・」


ユウナギは少し上目遣いで、センシティブな内容に踏み込んで切ると言うことを理解した上で、気にもなるので何とか聞いた、と言うような最高ランクの気の使い方で質問した。


「ああ、おじいちゃんのこと・・・やっぱり悲しいけど、少し落ち着いたよ。やらなくちゃいけないこともできたし・・・」


「ん?やらなくちゃいけないこと?あんた今何してるの?バイト?」


「バイト・・・かな、まあ、そんなとこ」


「おじいちゃん亡くなって、お金のことも心配なんでしょうけど、無理すんじゃないわよっっ!いざとなったらお父さんが何とかしてくれるから」


ここで言う「お父さん」とは、ユウナギの父親のことだ。

ユウナギの父親もタケルとの関係が良好で、付き合いが長い分、自分の子供とまではいかないまでも、親戚の子供くらいには親しみを持っている。


「ありがと・・・」


「あと・・・ご飯ちゃんと食べてる?」


少し上目づかいに聞いてきた。


「ああ・・・いつも以上に・・・」


バインミーの試作などで、たくさん食べているタケルだった。


「ほんと?何ならうちに来て食べても良いのよ?あ、あたしが作りに行ってあげようか!ごはんっっ!」


「あ、ありがと。でも、ちゃんと食べてるよ」


「ほんとぉ?まあ、それならいいけど・・・あ!」


何か思いついたらしいユウナギだったが、そこで言葉が止まった。


「困ったときは相談させてもらうよ」


いつもの調子のユウナギを見て、タケルはいつもの調子を取り戻し始めた。

人はやっぱり一人では生きられない。


生きていれば良いことも悪いことも起きるのだ。

そんな時に、自分だけでは翻弄されてしまう。

変わらない周囲がいることで、自分の姿を見つけ出せると言うこともあるのだとタケルは感じた。


教室に着いてタケルは思い出した。

学校ってこんなところだった、と。

クラスに当然席はあるのだけれど、タケルの心の居場所はなかった。


その理由の一つは、友達らしい友達がいないことだった。

1日誰とも会話しない日もあった。

一応会話をすることもあったが、一言、二言くらい。


叩いてきたり、小突いてきたりする暴力的なクラスメイトは数人いたので、タケルは出来るだけ関わらないようにしていたし、クラスのヒエラルキーで下の方の人ともあまり関わらないでいた。


一言で言えば、誰にも興味がなかった。

そして、授業にも興味がなかったのだった。


授業中も上の空。

目下もっか問題となっていた経済的な問題について考えていた。


タケルの資産と言えば、祖父が残してくれた300万円弱の現金のみ。

大金ではあるが、タケルがこれから生きていくには少なすぎる。

調べてみたが、大学の学費は1年間に100万円程度かかるところもあるそうだ。

そう考えると卒業する前にお金は尽きるし、生活費が捻出できない。


ところが、マティアスで色々な店に材料を卸すようになった。

卸すと言っても業務用スーパーで買ってきて、マティアスの店に売るだけなのだが。

別に商売にしようと考えていなかったタケルはほぼ原価で卸していた。


まずは市場に根付かないと、と思っていたことと、マティアスの市場の人たちは良い人ばかりで、商売人ではなく単なる学生であるタケルにはそこから利益となるようなお金をもらうのは気が引けたのだ。


例えば100円で買ってきた食パンを100円で卸していたのではタケルの方が続かない。

定期的に買っていかないといけないし、タケルの家(魔の森)からマティアスまでは森を通って30kmも離れているのだ。


ストレージで大量に収納しても重たくなることがないので、タケルは5%程度の利益を乗せていた。

これは、右から左に書類だけ回して売るような大きな卸会社が自動的に得ている利益率に等しかった。

タケルの様に自分で仕入れに行って、運んで、納品して、と言う場合、最低でも15%、普通ならば30%はないと成り立たない商売だ。


祖父の遺産を使って、業務用スーパーで、100円で仕入れた食パンを105円で卸しても商売としては成立しないのだった。

取引したいと言う店は多かったので、1週間で5万円程度の品物を納品したとして利益は2500円、取引店が10点だとして2万5000円がタケルの取り分、1か月だと10万円ほどだった。


ところが、ここで意外なことにタケルは気づいた。

商品代金はマティアスのお金でもらうのだが、単位は「シリー」、街で使われている小銭だった。


これをある程度集めると両替して金貨になる。

価値は日本の感覚で10万円。

調べてみると、重さは1枚30g程度。

金貨の材料は「金」で、重さは30g。

日本で金の取引価格を調べると1g7000円を超えているので、ざっくり20万円。


そう、マティアスに品物を卸して10万円使ったとすると、それを金貨にして日本で換金すると20万円になるのだった。

月に50万円ほど売り上げが見込めそうだったので、毎月50万円が100万円になる計算だ。

そして、5%の利益から10万円ほど利益が出るので、合計60万円。


高校生のお小遣いレベルを大きく超えていた。

しかも、魔物を倒して得られる魔石は思いのほか高く売れた。

1か月で1000万円ほどの荒稼ぎが出来たほどだ。


これで経済的な不安はなくなった。

孤児院に寄付することも考えたが、自立できないと将来に続かないことも考え、困ったときに相談に乗る程度に留めることにした。


タケルは授業中にぼんやり考え事をして、一番目の前の問題だった「経済的な不安」を解消した。

他の学生がバイトをするように、タケルはマティアスで商売をすれば生きていける。

元々大学に行くお金のことを考えてのことだったけれど、それだけ稼げるのならば異世界の方を中心に生活したら、それすら不要かもしれないほどだった。


「おーい、じゃあ、ここまでを踏まえて小テストやるぞー!」


授業に意識が戻された。

教師が急にテストをやると言うのだ。

科目は英語。


夏休みを過ぎてタケルは学校を休み続けてばかりだった。

今日が初登校。


それなのに、今週の分の小テストと言われても分かるはずがない。

そうは言ってもプリントは配られた。


タケルは名前を書いた後、内容を見た。

単語、熟語、文法と少ない問題数ながら今週の内容を網羅しているのであろう問題だった。タケルが驚いたのは、教師が「始め」と合図を出す前に答えが全てわかってしまったことだ。


そういえば、タケルは森の中の小屋で祖父から受け継いだ本を読み漁った時があった。

その中に英語の本もあったのだ。


受け継いだのは本だけではなく、スキルなのか、能力なのか、分からないが、集中力や記憶力も高くなっていて、その本の内容はすべて入っていた。

異世界の言葉に至っては、人との会話の中だけで単語や文法を理解して、普通に会話できるようになったほどだ。


採点は隣の席の人とプリントを交換して行う形式だった。

タケルは10点中10点。

小テストだったので、点数の発表はないのだが、タケルだけは驚いていた。


「(初めて小テストで10点取った・・・)」


そこで初めて「違和感」を感じた。

体育のサッカーでは、いつもボール取りは他人に任せていたのに、今日はボールが止まって見えたのだ。


難なく他人からボールを奪い、ドリブルもできた。

学校の授業レベルのサッカーでハットトリックがどの程度価値があるか分からないけれど、ハットトリックも決めた。


こうして目立つと、クラスのヒエラルキーの上位の人間がつぶしに来る。


「お前どうしたとや!ハットトリック決めていい気になっとうとや!」


サッカーを終えて教室で着替えている時だった。

相手チームになっていた「キムラ」が絡んできた。


「あ、いや・・・」


キムラは、ヒエラルキーが上の方にいたが取り巻きの一人と言う感じで、ちょっかいをかけるのが仕事みたいなやつだった。

何かあるとプレッシャーをかけて静かにさせるのが役割だ。


キムラがタケルの肩を押そうとしたときに、タケルは瞬時に肩を移動させよけた。

手をつく先がいきなりなくなったキムラはよろけて机と椅子に突っ込み、その場で倒れてしまった。


「ガターン」と派手な音を立てて倒れたので、ヒエラルキー上位の人間たちはそれを見てキムラを笑った。

一応タケルが「大丈夫?」と手を差しのべたが、キムラは怒りで顔をゆがめていた。


タケルの手を振り払おうとしたが、タケルはその手が当たらないくらい少しだけ手を引っ込めたので、これがまた空振りし、キムラは机の脚に手を強打し、痛がっていた。


タケルは何に対してでもないけれど、「ごめん」と言って場を締めた。

キムラは「チッ」と言わんばかりだったけれど、よほど痛かったのだろう、その場を引いた。


タケルにとって今日の学校は色々な発見があった。


このところ心配していた経済的な不安は脳内シミュレーションで大丈夫だろうとめどが立った。

授業はその後あまり気にしていなかったが、とりあえずそれぞれの教科の教科書を読んでみた。


各授業50分の間に教科書を読み終え、内容も理解できた。

誰かに「51ページの10行目」と言われれば暗唱することもできただろうし、「25ページの問2」と言われればその式も解けた。

単なる暗記ではなく、理解だったので、応用問題も解けるようになっていてタケルが一番驚いていた。


授業で先生が言おうとしていることは既に理解していたので、どういう順番で話しているとか、なぜその雑談をここで入れたのかなど、意図まで分かった。

色々わかると、先生と言うものは色々考えて授業をしていることも分かった。


そして、クラスでちょっかいをかけてくる連中は何となくいなせた。

食堂ではメニューを見て、マティアスの屋台でできないか考えると、色々なメニューを食べてみたくなった。


つまらないと思っていた学校や授業が面白く思えてきたのだ。

得るものもあるし、学校は出来るだけ出る様にしようと思ったタケルだった。


ユウナギちゃん登場です。

筆者はユウナギちゃん好きです(^^)


次回は・・・お楽しみに

更新は毎朝6時です。

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