5月某日~治療中~
動注のために一週間程度入院したりっちゃん。点滴と初めての抗がん剤だったにも関わらず、面会にいくといつも快く迎えてくれた。
幸いなことに副作用らしい副作用も出ていなかった。
「りっちゃん、きつくない?大丈夫?」
「大丈夫よ。ご飯も食べれるよ。おいしくないけど」
確かにご飯の量は少なかった。その代わりにお菓子を食べることが多い。
ちょうど5月の暖かい時期だったのでアイスを買ってきて食べた。
食べ物の制限がないのはよかった。吐き気もないから食べられる。
りっちゃんはまだ元気だった。
だから大丈夫なんて、なんの根拠もないのに安心していた。
大丈夫。
りっちゃんだから大丈夫。
そう思ったのはおばちゃん二人が乳がんで、根治していたからかもしれない。
祖母も祖父も伯父もみんながんで亡くなっているのに、年齢のせいだと思いこんでいた。いや、今思えば思い込みたかったのかもしれない。
りっちゃんは笑っている。
元気そうにしている。
私たちはみんなこのときは大丈夫だと信じていた。
りっちゃん本人がどう思っていたのかはわからない。りっちゃんは本当に不安を語ることはなかった。
弱音を吐くこともない。
ただそこで、笑って闘病していたのがはじめの入院の記憶。
病気なんてなったことがないりっちゃんの入院する姿を見慣れることになるとは思わなかった。