視えるあなたと、消えるぼく
ああ、このまま君がどこかに消えていく、
そんなことを思いながら、今日も目が覚める。
僕、東 圭太には、死んだ人が見える特殊な目がある。いや、自分の守護霊といった方がいいか。
それを自覚したのは、3歳の時。
ひい婆ちゃんの葬式で、自分の死体を見つめているひい婆ちゃんを見たときだ。
あの時は霊なんてもの知らなかったから、
泣いてる親族を見て、不思議に思っていた。
ただ、僕には霊を視ることしか出来ない。
声を聞くことも触れることも、会話することも出来ない。
でも、実際にそこに視えるというだけで、安心できるから、親族や知り合い、家族が死んでも悲しいと思うことはなかった。
この死人が視える目を霊媒師さんに相談したところ、どうやら死んだ人が、僕の守護霊となって、僕の前に現れているらしい。
幼いころから体が弱かった僕を、心配し、安心させるため、守護霊となり、姿を見してくれている。そう思うと、嬉しくて仕方ない。
ちなみにこの霊媒師さんは、幽霊と、話すことも触れることもできる。
けど、それも今日まで。
朝、目を覚ました時には霊が視えなくなっていた。
爺ちゃんも、婆ちゃんも、父さんも、母さんも、ひい爺ちゃんも、ひい婆ちゃんも何も視えなくなっていた。
それまでの悲しさが溢れ出してくるように、涙が全身を伝って出てくる。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、みんなどこにいるんだよ。出てきてくれよ!!顔を、顔を見してくれよ!!お願い、お願いじぃます」
ヒック、ヒックとなるしゃっくりが胸を締め付けるほど強く、呼吸も上手く出来ない。
どうして、どうして、どうして、視えない。
彼の顔は気持ちを表すように、ぐちゃぐちゃに涙で歪んでいた。
壁を思い切り打ちつけ、机をなぎ倒し、リモコンを投げとばす。そんな、行為をしても、胸にぽっかりと空いた穴は、塞がることはない。
彼は部屋のすみっこに蹲り、廃人のようにブツブツと喋りだしていた。
「なんで、なんで、なんで、みんな俺の前からいなくなるんだ。そうだ、おかしい、突然いなくなるわけない。きっと、何か用事があるんだ。あっ、お墓だ、お墓にいるんだ、幽霊だからお墓に行くんだ。」
実にわかりやすい現実逃避だが、彼にはもう選択肢がなかった。
彼の前から霊が、離れることはあっても、視えなくなることなんてこれまでなかったからだ。
「そうだ、そうに違いない、僕も行かなきゃ、行かなきゃ」そういって彼は靴も履かずに、外に出ていった。
彼のすぐ傍にあった、冷たいものに気づかず。
彼がお墓につき、自分の家のお墓の前にきても、彼が霊を視ることはなかった。
「どうして、どうしてだよ」
彼はお墓の前に蹲ると、また、泣き出していた。
「…くん、けいたくん」ふと、そんな声がし、振り向いてみると、知り合いの霊媒師さんである、山城 泉さんが僕の名を呼んでいた。
「泉さん、泉ざぁん」僕は、泣きながら、彼女に抱きついた。
「霊が、霊が、視えなくなったんです!!」
そう言うと、彼女は、悲しい顔をしながらこう言った。
「そう」
僕はつかさず、尋ねる。
「何か、何か、知っているんですか?教えてください」
彼女はまた、悲しそうな、しかし、決心した顔でこう言った。
「だってあなた、もう死んでいるもの」
適当な終わり方ですいません。




