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後編

   

 四時限目が終わった、休み時間。

 気分転換のつもりで、幸恵ゆきえは席を立って、窓の方へと歩いていく。

 そろそろ夕方だが、まだ空は青い。

 大学の授業は四時限目で終わることが多いのに、今日は五時限目まである。少し憂鬱ではあるが、次の時間も同じ講義室なので移動の必要はないのが、せめてもの慰めだろうか。

「いい天気だわ……」

 青空に癒されて、何気なく口にしてから、ふと室内に視線を戻すと。

 外の爽やかな景色とは対照的に、窓際の席には、いかにも暗そうな男が座っていた。

 ニヤニヤ笑いを浮かべて、ジーッとスマホの画面に目を向けているが……。

 チラッと覗き見えてしまったそこに映っていたのは、幸恵には理解不能なものだった。

 少し気持ち悪く感じた幸恵は、友人たちのところに戻り、尋ねてみる。

「ねえ、あの窓際の、一番後ろの男の子……。いつも、あそこに座ってるよね?」

「ああ、あの、時代遅れのデニムジャケット着た子? そういえば、いつもあそこで、いつもスマホにかじりついてるわね」

 同じく不審がる友人もいたが、中には、事情通の者もいた。

「ああ、彼だったら……。彼がスマホを手放さないのには、理由があってね。彼、私たちには聞こえないものが聞こえて、見えないものが見えてるらしいの」

「何それ? 超能力者エスパーってこと?」

「聞こえないスマホって、あれじゃないの? ほら、中二病ってやつ。かかってきてもないのにスマホを耳に当てて『俺だ。組織に追われている。今、すぐそこまで来ている』みたいな……」

 いくらか興味がわいたらしい友人たちに対して。

 事情通の彼女は、顔を曇らせながら、首を横に振った。

「違うのよ。どうやら、ここが少しおかしくなっちゃったらしいの」

 指でトントンと、自分の頭を叩く事情通。

「彼、スマホで小説投稿するのが趣味だったんですって。ところが、頑張って書いた小説がダメになって……。それ以来、そのショックで、ね」

 ああ、そうか。

 話を聞いて、納得する幸恵。

 ならば、彼の目に映っていたものは、幸恵とは違っていたのだろう。あんな面白みのない画面ではなかったのだろう。

 なにしろ。

 幸恵が見た彼のスマホ画面には、真っ白な背景に真っ赤な文字で、次のような一文が書かれていただけなのだから。


『このユーザーは違反行為のため、運営に削除されました』




(「あたしスターさん。今あなたのところに来たわ」完)

   

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