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はーちゃんの手袋
「ありがとう」
妹はピンク色の手袋を僕にさし出した。五歳の誕生日に買ってもらったばっかりの、大切なものだ。高校生の僕には指までしか入らない。でも、
「はーちゃんのおかげでお兄ちゃんあったかいよ」
そう言うと、羽月はりんごのように真っ赤なほっぺをふにっと持ちあげた。このごろ、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになると言ってきかない。羽月はきっといいお嫁さんになるよ。心でつぶやいて、そっと頭をなでる。
まだ四時台なのに辺りは暗くなっていた。この季節になると家の裏通りはライトアップされる。羽月はまだ見たことがないだろう。家の近くまで来てそれから羽月を肩車した。
「どこ行くの?」
「内緒」
羽月が気になって駄々をこねる前に、青色に光る木々が現れた。
「わぁ! お兄ちゃん、木が光ってるよ!」
僕らは青く照らされた。
「イルミネーションって言うんだよ」
「イルミネーション?」
「そう、イルミネーション」
「明日も見にきたい」
「いいよ。明日はママも連れてこよう」
「うん!」
小さな手と指切りげんまんして、僕らはまた家の方へと向かう。