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10分で胸キュン恋愛短編集

兄に彼女が出来ました。どうやらその恋人は私の親友のようです。

作者: ニコ・タケナカ

「お待たせー」

親友が息を切らせて駆けてきた。

「ううん、大丈夫だよ。じゃあ、帰ろっか」

私の親友は少し抜けたところがある。おっとりといえば聞こえがいいかもしれないが、何を考えているのか分からない所があり、時々一人の世界に入ってしまっている。だから、見ていると危なっかしくて放っておけない。


その彼女が今日は放課後、先生に呼び出されていた。

「先生、なんて?」

「うん、もうネコにエサあげちゃダメだって・・・・・・」

「あぁ、あのネコ」

親友はどこからか学校に迷い込んできたネコにエサをあげていた。私もその事は知っている。少しお菓子を与えるくらいならすぐどっかに行ってしまっただろうけど、彼女はわざわざ猫用のエサを買って与えていたものだからすっかりネコは学校に居付いてしまっている。


生徒達にもネコがいることは知れ渡って、可愛がられている。それを先生は良くは思わなかったのだろう。

「それで、どうするの?」

「もちろん、またエサあげるよ。だってあの子、一人で寂しそうなんだもん」

注意されたくらいではやめるつもりは無いらしい。おっとりはしているけど、彼女には芯の強いところがある。


「でも、見つかったらまた先生に怒られるよ。家で飼えないの?」

「うん・・・・・・うち、両親が共働きでほとんど家に居ないから、きっと飼っても寂しい思いさせるだけだろうし・・・・・・なら人の沢山いる学校の方がいいかなって」

彼女の両親は海外出張が多く、家族が揃う事は年に数回しかないのだと聞いた事がある。

きっとネコに自分の境遇を重ねているのだろう。私は何も言えなくなった。


私の家も同じようなものだ。

父を早くに亡くし、家計は母が女手一つで支えてきた。その母は朝早くから夜遅くまで働きに出ていつもいない。

そんなものだから同じような境遇の彼女を他人事に思えず一緒に過ごすうちに親友と呼べるようになった。


ただ、彼女と私で違う点がある。私には一つ上の兄がいる。

兄が父親代わりであり、忙しい母に変わって家事をする母親代わりでもある。兄のおかげで私はいままで寂しい思いをする事も無かった。

口に出したことは無いけれど、兄にはとても感謝している。


歩く私達の前方に見慣れた背中を発見した。

「おにーぃ!」

私は手を振って呼び止めた。


兄は振り返ると返事をする訳でもなく、優しく微笑んで私達が追いつくのを待ってくれている。

その手には学校の制服姿には似つかわしくない、大きな買い物袋をぶら下げていた。

「夕飯の買い物してきたの?」

「ああ、」

「おにぃ、主婦感丸出し!そんなんじゃモテないよ?」


兄も本当は友達と遊びに行ったり、彼女でも作ったり、普通の高校生活を送りたいはずだ。しかし、自分の時間を犠牲にして、文句ひとつ言わず家事をこなしている。

私も少しでも負担をかけないように手伝おうとすると「好きでやってるんだ」と言って、手伝だわせてくれない。

そんな兄が私は少し心配だった。


「もう、慣れたよ。オレの主夫歴何年だと思ってるんだ?」

「家事がこなせる男の人って素敵だと思います」

親友がフォローする。

「うーん、そうかもしれないけど、心配なんだよ私は。おにぃは何でもこなせるから将来結婚したとしても家事を全部押し付けられて、いい様に使われるんじゃないかって」

「何の心配してんだよ、お前は、」

「そんな事ないと思うよ。きっと」


「うーん、もしくは何でも一人でこなしていると、パートナーを必要としなくなるって言うし、おにぃそのまま一人でいるんじゃないかって」

「そんなことはない。一人って訳じゃないんだから」

「おにぃ・・・・・・ずっと私の面倒みるつもり?」

「フフフッ」

親友が隣で笑う。


「お兄さん、何でもできて、やさしくて、こんな素敵な人、放っておかないよ」

「うーん、」

優しいという点は納得できる。いつも一緒の親友にもずっと世話を焼いてくれている。でもそれだけでは面倒見のいい”ただの優しい人”で終わってしまいそうで妹としては心配だ。


「ほら、」

兄は下げていた買い物袋からお菓子を取り出すと、手渡してくれた。

「好きだろコレ?」

それはスーパーでも買える駄菓子だ。安いからか、未だに子供扱いしているのか、兄はいつもちょっとした駄菓子を私達に買っておいてくれるのだ。


「ありがとう」

親友も駄菓子を受け取り笑顔になった。彼女はいつもこのちょっとしたおやつを楽しみにしている。

(私達は餌づけされたネコか)


駄菓子を嬉しそうに頬張る彼女に聞いた。

「今日も夕飯、食べていくでしょ?」

「うん!」

私も面倒見の良い兄に似たのか彼女の事を放ってはおけず、いつも夕飯に誘っている。


「おにぃ、今日の夕飯は何?」

「カレーだよ」

(またカレー・・・・・・)

カレーは簡単にできるし、安くて、作り置きも出来るから、うちでは週1のペースで出される。いや、次の日もカレーになるから週2だ。冬だとこれにおでんが加わる事になり、カレーとおでんが4日続く。とにかく手間がかからず作り置き出来るメニューがうちでは定番だ。

しかし、毎日毎日メニューを考え作ってくれる兄の苦労を考えると、文句は言えない。


「私、お兄さんの作ってくれるカレー大好きです」

彼女も気を遣ってくれているのか、それともよっぽどカレーが好きなのか、文句を言ったことは無い。

兄も親友が喜んでくれるので世話焼きのしがいもあって、いつも嬉しそうにしている。

彼女がいてくれて良かったと思う。



家に帰ると早速カレー作りが始まった。

手伝わせてもらえない私はいつもの様に作る様子を眺めた。

「今日は切っておいたタマネギを冷凍しておいたんだ」

「え?なんで冷凍に?」

「こうするとタマネギの繊維が砕けて、早く炒める事が出来るらしいよ」

「へー、すごーい」

親友が楽しそうに兄の手伝いをしている。


(ん?)


「じゃあ、他の野菜も冷凍しておいたら時短になっていいんじゃない?」

「もう試したよ。ニンジンはいいんだけど、ジャガイモは冷凍してから戻すとモサモサになって使えないんだ」

「そうなんだぁ」

「マッシュポテトにすれば問題ないけどね」

「あ!だからこの前のカレーにジャガイモ入ってなかったの?フフフッ」


(あ、あれ?)


「オレがタマネギ炒めるから、ジャガイモ剥いてくれる?」

「うん、」

「ちょっと、待ったぁ!」

二人で仲良く料理する姿に焦った私は叫んでいた。


「どうしたんだよ?」

兄がキョトンとした表情で私を見る。

「どうしたもなにも・・・・・・二人の方こそどうしたの!?」

「何が?」

「何がって・・・・・・」


言葉を失う私に親友が言った。

「やっぱり、気付いてなかったんだね」

兄が驚いて言う。

「ウソだろ?今までずっと一緒にいたのに」


「え・・・・・・もしかして、2人って」

「オレ達ずっと前から付き合ってたぞ」

私は涙が溢れた。


「うっ、良かったじゃん・・・・・・ズッ・・・・・・おにぃにも彼女出来て・・・・・・」

「おまっ!なんで泣いてるんだよ」

兄は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「うわ~ん!!」

嬉しいという気持ちもある。けど、大部分はさみしさから涙が溢れた。


私はネコだ。ひとりぼっちだったのは私の方だった。

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