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300年振りの夜 1

ふり幅が凄い

 しばらく遊んでいると祭りの片づけを終えた親御さんたちと共にガレットさんがやってきた。


「いや~ありがとうね! 神官様! 子供たち元気で大変だっただろう?」


 迎えに来た親御さんたちに子供たちがじゃれついていく中、代表してガレットさんに労われる。


「いえいえ、みんないい子でしたから。むしろ私が元気を貰ったぐらいです」

「そりゃよかった。みんな悪ガキじゃないんだけど元気が有り余ってるからねぇ。目を離すわけにゃ行かないから今日は相手してくれて本当に助かったよ」


 嘘偽りなく感想を述べるとガレットさんは「うん」と頷いてレイ君の頭を撫でた。そして、そういえば……、と表情を変える。


「子供たちと遊んでたってことは神官様はまだ泊る場所決めてないんだよねぇ……よしっ家に泊まっていきな! どうせとうちゃんも男衆と祭りの打ち上げ行って朝まで帰ってこないだろうし、いいね? はい決定!」


 と、返事をする前に決められてしまった。いやいやさすがにそれは……料理の時と違ってガレットさんに迷惑だろう。流石に断らせて貰って適当に野宿でもしよう。


「い、いえ……さすがにそれは迷惑でしょうから今日は別のところに……」

「えっ!? せいじょさまぼくのおうちくるの!?」


 そう思い紡いだ断りの言葉はキラキラした瞳で私を見つめるレイ君によって遮られた。しかもよっぽど嬉しかったのか聖女様呼びに戻ってるし。時間差で自分が聖女呼んでしまったことに気付いて慌てて両手で口を覆うレイ君。


「…………?」


 そして、ぼくそんな言葉口にしてないよ? と言わんばかりの伺うような上目遣い。はいかわいい~。

 もう、好意に満ちた言葉からそんな小動物みたいなかわいい仕草されたら流石のお姉ちゃんもキュンキュンです。もうレイ君はかわいらしすぎますね。かわいらしすぎてもはや罪です、罰として今日はお姉ちゃんの抱き枕の刑ですからね~♪……はっ! 私はなにを!?

 先ほどの安定しない気分はどこに吹き飛んだのか、すっかり元通りどころか軽く大陸越えてる思考になってるとレイ君と私を交互に見たガレットさんがニヤリと笑った。


「……決まりだね?」

「……はい、お願いします」


 「はい、そして息子さんを抱かせてください!」 なんて犯罪めいた言葉が脳内を通り過ぎたが取り繕った聖女的微笑みと共に無難な返事を絞り出す。て、いうか私のふり幅どうなってんだこれ!? いい意味でも悪い意味でも安定してなさすぎじゃないですか!?

 高揚している自分とそれを後ろからみている冷静な自分を同時に存在させてなんとか正気を保っていると親御さんの一人が会釈した。


「では、私たちはこれで」


 話がまとまったようなので、と言った感じで解散の流れになった。他の親御さんたちも泊るところの無い私の行く末を案じてくれてたのであろう。私も自分の行く末が心配です。別の意味で。


『さよ~なら~しんかんさま、またあそぼうね~』


 無事冷静な私が勝利したので夕焼けに照らされて別々の道を行く子供たちを手を振って見送る。私の隣にはガレットさんとレイ君。


「んじゃ、私たちも帰ろうか」

「うんっ!」

「お世話になりますね。ガレットさん。レイ君」


 子供たちの姿がある程度離れたところで私たちも歩き出した。並んで歩くガレットさんと私を急かすようにレイ君が前に出て駆ける。


「そうだ。今これ渡しておくよ」

「? は、はい」


 ガレットさんが懐から取り出した布袋を受け取る。脈絡がなく反射的に受け取った布袋は手のひらぐらいの大きさで受け取ると重みと共にジャラっと袋の中で金属がぶつかる音がした。


(あれ? これってー)


 もう一度確認の為に振ってみて疑問は確信に変わった。慌ててガレットさんを見ると私が慌てると分かっていたのか得意げな表情を浮かべている。


「子供たちの面倒を見てくれたから。親たち全員からの“お布施”だよ」


 予想通り、中身は硬貨のようだった。その事実にサーと血の気が引く。


(ああ! 神官なのにお金をもらってしまうなんて私はなんてダメ神官なのでしょう! いくら人々の為に働いた見返りとしてのお礼としてお布施があるとしても現ナマはいけないでしょう現ナマは! どうしよう……とりあえずこの現ナマ――じゃないやお金! お金です! これはガレットさんに返さないと――?)


 と、血の気が引ききったところで気付いた。そもそもお布施でお金貰っちゃいけないなんて道理はなかった。それだと村の神官とか現物支給だけになっちゃいますもんね。生活できないですもんね。


「ハ、ハイ。アリガタクモラッテオキマス……」


 恥ずかしさと驚きの二重の衝撃にカクカクしながらお金の入った布袋を袖の袂に収める。その姿がよほど面白かったのかガレットさんが吹き出した。


「くく……森生まれだなんて言うからいきなり硬貨渡したらビックリするだろうと思ってたけど……百面相だったねぇ……」


 ツボに入ったのかお腹を抑えながら「くく……っ」と笑いを堪えてるガレットさんにぷくぅと頬を膨らませる。いやまあ、私が驚いたのは私の中の神官像の問題だったから硬貨にびっくりしたわけではないんですが。でも硬貨渡されたことにびっくりしてたからあってるのか? ……とにかく、話好きな婦人だと思っていたガレットさんは意外にお茶目さんだったようです。これからはからかわれないように気を付けましょう。


「もーー! ふたりともなんでしゃべりながらゆっくりあるいてるのー! はやくかえろうよー!」


 ガレットさんについて、決意を新たにしていると気付いたら距離の離れたレイ君がパタパタと両手を上げ下げして抗議して来た。自分が怒ってることを示したいんだろうが小さなレイ君の一生懸命なその姿はかわいい以外言いようがない。

 しかし、ガレットさんと一緒にレイ君を微笑ましく思うのは一瞬。確かにかわいくてずっと眺めていたくなるがああいう時の子供は時間が立つとさらに機嫌が悪くなるのだ。ガレットさんと目配せすると要望通りレイ君との距離を詰めるため歩幅を大きく取る。


「ごめんごめん。今行くからまっとっておくれよ」

「置いてかないでくださいねーレイくーん」


 声を掛けるとぱあっと笑顔を咲かせるレイ君。私たちとは反対方向に体を向けると顔を振り返らせてはにかむ。


「はやく♪ はやく♪」


 すぐに機嫌をよくして足取り軽く進むレイ君の様子に私とガレットさんは視線を合わせて微笑むのであった。

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