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子供たちと、祝詞 2

「しんかんさまだいじょうぶ?」


 声を掛けられて顔を上げる。


「ああ……ごめんなさい、ぼーとしてました」


 心配そうにのぞき込むレイ君に反射的に笑みを返して立ち上がる。

 木陰の下、見渡すと茜色した空と沈む夕日の中、芝生で遊ぶ子供たちの影が長く伸びている。

 結局あの後あまり集中できず、子供たちの相手を精霊に任せて眺めていることの方が多くなってしまって、気持ちの戻らぬまま気付いたらこんな時間になってしまった。


「もう、お祭りも終わりですもんね」


 呼びに来てくれたのだろうレイ君の頭をお礼変わりに撫でるとくすぐったそうに眼を細める。ちらりと村の賑わいに目を移すと出店や飾りつけを片す人々の姿がまばらに見え始めていた。精霊たちも遊びの終わりを感じたのか、一つまた一つと芝生の上の光が消えていく。


「うん、だから。こどもたちがかたづけのじゃましないようにもうちょっとあそんであげててってかあさんたちから」


 子供たちの輪から離れ、親御さんの輪に呼ばれていたヴェリオ君が帰ってきて告げる。年長者だけあってこういう子守はよく任されるのだろう。「わかりました」と短く返事をしてヴェリオ君とレイ君と共に子供たちの輪に戻る。

 戻ると丁度最後の精霊が空に消えた所のようで、子供たちは口惜しそうに空を見上げていた。


「あーっ、ざんねん! もうみんなかえっちゃったぜ」

「しょうがないよ……もうゆうがただもん」

「わたしたちもそろそろおうちにかえるじかんね~」

「かえる~?」

「まだまだ~?」

「ふふ、それより前に、精霊の皆さんにお別れの挨拶をしましょうか」

「あっ! そうだった!」


「せーの」

『せいれいさんたちさようならー! またあそびましょー!』


 残念そうに話す子供たちに微笑むと、大事なことを忘れてた! と言う顔をした子供たちと一緒に空に向かってお別れの挨拶をする。返事と言わんばかりにチカチカと光って空を走った光の道を最後に、暖かい空気が解け、夕暮れ時特有の冷たい空気が髪を揺らす。


「……かえっちゃったね~」

「……なんだか、いっしゅんだったわね~」

「たのしかったな~」

「そうだね、でも、たのしかったからかな? なんだか……」

「――さびしい、よね」

「さびしい~?」

「かなしい~?」


 騒めきと温もりに満ちていたのはつい先ほどまで、日の光が支配していた空の色が暗く変わり始め夕明かりが太陽の眠りを告げる。

 村の中央から聞こえてきた喧騒も今では帰り支度のもの、やたら大きく聞こえる草花を揺らす風の音と伸びきった影。楽しければ楽しいだけ大きくなる黄昏の寂しさに子供たちはなんだか取り残された気分になってしまったんだろう。


 ――でも、それはとても大事なことだ。


(大きくなると――忘れてしまいますから)


 楽しいことや、寂しいことは世界に多くて、慣れてしまうものだから。だからまだ何も知らない、無限の可能性を秘めた子供たちをちょっとうらやましく思ってしまう。

 そんな感情を秘めて空を見上げる子供たちを見守っていると、いち早く視線を動かしたレイ君と目が合った。微笑みを返すとレイ君の表情が変わる。

 それは憂いを含んだ、人を心配する表情。


「しんかんさまもさびしいの?」

「……えっ?」


 予想外な言葉が私に突き刺さった。

 私はちょっとうらやましい、と思っただけだ。それも子供っていいな~若いっていいな~ぐらいなものだったのに……


「…………」


 私は、次の言葉が続かないほどにその“寂しい”という言葉が“しっくりきていた”。


「なんだ! ねぇちゃんもせいれいがかえってさびしいんだ!」

「たのしかったものね~いっぱいあそんだし!」

「いっぱいあそんだからたのしい~?」

「いっぱいあそんだからさびしい~?」

「……しんかんさまでも、せいれいさんとあそんだあとは、さびしいんですね……」

「へー、いがいだなぁ」


 レイ君の言葉につられて他の子供たちも口を開く。先ほどまでの郷愁にも似た空気はどこにやら私の周りを囲む子供たちの表情はもう明るい。

 ――だから――


「ええ、私も寂しいみたいです」


 押し寄せた未知の感情を塗りつぶすように、自分でも意外という風に微笑んだ。


「なら……はい、こうやっててをつないだから、さびしくないです」


 先ほどより上手く微笑みを浮かべれていただろうか、そんな心配をよそに、レイ君の右手が私の左手を取りぎゅっと握る。高い体温に柔らかな指の温もり、無邪気な笑顔に私の中の不思議な感情は本当に和らいだ気がした。


「ありがとうございます。レイ君」

「えへへ……どういたしましてっ」


 それを見てグエン君が閃いたっと言う顔をする。


「なら、さびしがりやなレイがさびしくないようにはんたいのてはオイラがにぎってやるなっ!」

「あら? じゃあわたしはグエンがさびしくないようにてをにぎってあげるわ」

「じゃあ、わたしはサレンちゃんと……」

「そうなるとボクはルルイとだね」

「エナはおにいちゃんと~」

「リオはエナと~」

「私はリオちゃんとですね」


 そしてなんだか急に始まった手の繋ぎ合いは気付いたら輪になっていた。


「て! これせいれいよぶときといっしょじゃないっ!」


 サレンちゃんの声に私も含め、全員たまらず笑顔が溢れた。レイ君の言う通り手を握ったら寂しくなくなるというのは本当らしい。だって、私はこんなにもみんなの近くにいるのだから。


 気付いたら私の心のモヤモヤはどこかに消えていた。


「せっかくですし、どうせならもう一回回ってみますか?」

「いいわね! なんならもういっかいせいれいよびましょうか!」

「さっきのさっき~」

「いいめいわく~」

「はわわ……いっぱいまわすのはやめてね? サレンちゃん」

「エナとリオがあぶなくないはやさにしてよサレン」

「さあっ! いっくわよ~っ!!」

「サレン!?」

「サレンちゃんっ!?」


 つい勢いで提案すると乗り気になったサレンちゃんによりまた輪が回転した。三回目とあって流石に手加減された弾き飛ばされるほどの超回転ではなかったがそれでもルルイちゃんが目を回すのには充分であった。


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