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学園一の美少女が幼馴染ですが最近様子がおかしいです2

作者: 水嶋陸


 「……遅いな、柚季のヤツ」


 ため息を零した俺は痺れを切らし、スマホ片手にメッセージを打ち始めた。宛先は学園一の美少女、藤宮柚季ふじみやゆづき。彼女とはいわゆる幼馴染だ。母親同士が親友で、家が近所ということもあり物心つく前から家族ぐるみで付き合っている。


 現在俺たちは高2で、夏真っ盛り。今夜は柚季の提案(正しくは命令)で地元の夏祭りへ行くことになった。当然のように家まで迎えに来るよう仰せつかった俺は早めに向かった訳だが、約束の時刻を20分過ぎても藤宮家の玄関は開かない。お互いの家は出入りがフリーパスなのでリビングで待たせてもらうこともできるが、なぜか今日に限って頑なに拒否られた。玄関で『待て』状態である。俺は犬か。


 真田涼太さなだりょうた:おい、まだ支度してんのか? どーせ俺と行くんだからめかし込む必要ないだろ。さっさと下りて来いよ。蚊に食われたぞ。

 藤宮柚季:もーすぐよ。少しくらい待てないの? だからいつまでも彼女いない歴=年齢なのよ、この非モテゲームオタク! にしてもあんたの血を吸う物好きな蚊がいたなんて驚きだわ。よほど飢えてたのね。同情するわ(蚊に)。


 「くそっ! 呼び出しといて何なんだよっ!」


 苛立ってスマホを地面に叩きつけそうになったところでガチャリと玄関の扉が開く。ようやくお出ましか。文句のひとつでも言ってやろうとした俺はあんぐり口を開いて硬直する。


 「フン、間抜け面しちゃってみっともないったら」


 艶やかな唇に自信ありげな笑みを浮かべる柚季に目を奪われた。白地にピンクの牡丹柄の浴衣は清楚で可愛らしく、とてもよく似合っている。赤い帯の端にレースが施されているのは最近の流行りなのだろうか。


 長い栗色の髪は編みこまれ、ふんわりサイドアップされていた。大ぶりな花の髪飾りには真珠や宝石のように光るアクセサリーがあしらわれていて、華やかな柚季を一層引き立てていた。


 「ちょっと。いつまでボーっとしてるのよ? 時間がもったいないじゃない。行くわよ!」

 「へ? あ、お、おいっ!?」


 抗議のタイミングを逸した俺は柚季にぐいぐい手を引かれて最寄り駅に向かった。改札は祭りに向かう人達で溢れ返っており、ホームは乗り場に長蛇の列ができている。一本見送って乗り込んだ電車の中は混雑していて、俺たちは数駅、強い冷房がかかっていても熱気のこもる車内で息を潜めて耐えた。押し合い圧し合いの中、どうにか目的地に到着する。



 夏祭りが開催される公園までのプロムナードには、およそ900基の手作り灯篭が並べられている。幻想的な光景を一目見ようと多くの観光客が訪れる中、俺たちはまず出店の並ぶ商店街へ足を運んだ。


 大きな赤い鳥居をくぐると、すぐに商店街だ。まっすぐ進むと神社の参道に続いている。祭り独特の高揚感に身を委ねつつ、やきそばや綿あめ、カラフルなお面、スーパーボール掬いなどの屋台を眺めつつ歩いた。人が多過ぎてゆっくり楽しむ余裕はないが、「かき氷食べたい」「金魚掬いしよう!」などと俺の袖を引っ張る柚季に従い点々と移動する。やがて射的の前で足を止めた柚季がくるりと俺を振り向いた。


 「涼太、あれ取って。右から二番目のクマのぬいぐるみ。小さめだしいけるでしょ」

 「なんで俺が、っていうのは通じないよな?」

 「分かってるなら早くしてよ。あんたの数少ない特技なんだからたまには役に立ちなさい」

 「はいはい仰せのままに」


 ったく、一言余計なんだよな。俺は内心ブツブツ言いながら店主に挑戦料を支払い、銃を受け取る。手を台の上に置いて脇をしっかり締め、肩と頬で景品より下側に銃を固定した。そしてぬいぐるみの右上を狙って打ち抜く。見事に命中したぬいぐるみは回転し、ボトっと地面に落ちた。隣で柚季が歓喜する。バシバシ背中を叩かれ若干むせながら景品を受け取り、そのまま柚季に差し出した。


 「どーぞお納め下さい柚季様」

 「ありがと! さすが、射的だけは昔から上手よね!」

 「一言余計だっつーの。もうそろそろ満足したろ? さっさと公園行って帰ろうぜ。俺は人混み苦手なんだよ」

 「分かってるわよ。……っ!」


 唇を尖らせた柚季が歩き出そうとして、ぴたりと足を止めた。柚季につられて足元に視線を落とすと、怪我をしている。親指と人差し指の付け根が擦れて赤くなり、うっすら皮がめくれていた。見ただけで尻がぞわっとする。


 「うわっお前いつから我慢してたんだよ!? 言えよ、つーかごめん。気付かなくて」

 「べ、別にこのくらい平気よ! 涼太が謝ることじゃないから」

 「でもそれじゃ歩くのキツイだろ。とりあえず俺の靴と交換しよう」

 「却下。涼太の足じゃ私の下駄履けないわよ」

 「そうか。困ったな……」


 「うーん」と唸る俺を見つめ、柚季はしゅんと肩を落とした。


 「ごめん、私が慣れないもの履いてきたりするから」

 「変なモンに当たったか? お前がしおらしいなんて明日は雨……ふぐぅ!?」

 「人が素直に謝ってるのに水差さないでよバカ! バカバーカ! ノンデリ男!」

 「だからっていきなりみぞおちにグーパンはないだろ!? つかノンデリってなんだよ!」

 「ノンデリカシーの略よ! そのくらい察しなさいよゾウリムシ!」

 「無神経で単細胞!?」


 ショックを受けた俺が後ずさると、柚季はフンっと鼻を鳴らし腰に手を当てる。こうなった柚季が素直に甘えてくるとは思えず、俺は最終手段に出た。柚季の手を引いて脇道に逸れる。ひょこひょこ歩くのが痛々しくて可哀想になったが、人の往来が激しい場所では目的を果たせない。


 人の切れた場所で立ち止まり、俺は意を決して屈んだ。片膝を立てて腿を叩くと、柚季は首を傾げる。さすがにこれでは分からんか。


 「ここに乗れ。で、俺の首にしがみつけ。もうちょい行ったら神社だろ。境内に座る場所があるからそこまで運んでやる」

 「ははははは運ぶってまさか……!」

 「言うな! 恥ずか死ぬ!」


 暗がりでもお互いの顔が茹で上がっているのが分かった。きっとこんな提案をすれば「バカじゃないの! カッコつけちゃって」と散々詰られるだろう。だけど――


 「お前、どうしても夏祭りでキャンドルを見たい、七夕の短冊に願い事を書くんだって意気込んでたろ。今夜はそのために来たんだ。大げさかもしれんが、志半ばで帰るのは不本意だろ。だから少しの間我慢だ。向こう着いたらすぐ降ろして、何か履けるもん買ってきてやる」


 子供を諭すように告げれば、柚季が言葉に詰まる。しゅうしゅう頭から湯気が出そうな状態で、やがてこくりと頷いた。


 「絶対、ぜーったい落とさないでよ?」

 「分かってるって。納得したら早く乗ってくれ。さっきから周囲の視線が痛い」

 

 はっとした柚季がまた一段と頬を染めて唇を真横に結んだ。そして躊躇いがちに俺の腿に乗る。布越しに感じる柔らかな肌の感触。俺の首に腕を回し、顔を隠すように抱き着いてきた柚季にドキッとした。雑念を払い、柚季の腰の上と腿裏を持って持ち上げる。……こんな姿をクラスの奴らに見られたら間違いなく殺されるな。



 めちゃくちゃ恥ずかしい思いをしながら神社に辿り着き、石のベンチの上に柚季を降ろす。お互い何も言わなかったのは、密着した体勢――お姫様抱っこが羞恥心をMAXにしていたからに違いない。俺は咳払いして俯く柚季の注意を引いた。


 「あー……じゃ靴買ってくる。女物はよく分からんからクロックスみたいなのでいいか?」

 「……うん」

 「了解、すぐ戻るからここに居ろよ」


 柚季を一人にするのが心配で俺は一目散に駆けだした。神社の境内は幸い人が少ない。変な輩に声をかけられる危険はあまりないだろうが、今夜の柚季はいつもに増して人目を惹く。早く戻るに越したことはない。


 商店街まで逆走し、適当な大きさのクロックスとバンソーコを買って神社へ戻る。気持ちが急くのに反して混雑した道を掻き分けて進むのは時間を要した。境内に駆け込むと、柚季の周りを数人が取り囲んでいる。まさかナンパか? 慌てて近付き、間に割り入った。


 「俺の連れに何か用ですか?」


 やや息を切らして相手を睨み上げ、拍子抜けした。見たことのある顔ぶればかりだ。柚季が所属する生徒会のメンバーだった。どうやらみんなで連れ立って夏祭りに来ていたらしい。偶然柚季を見つけて声を掛けたと知り、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 「すみません、会長。勘違いして失礼な態度を取りました」

 「いや、僕たちの方こそ驚かせて悪かったね。今日は藤宮さんも誘ったんだけど、断られたからてっきり用事があるんだと思ってたんだ」

 「え、そうなんですか? 俺が聞いた話と違――」

 「あわわわわ! なんでもないです会長!」

 

 柚季がシュバッと起立して俺の口を塞ぐ。一緒に行くはずだったメンバーが急遽来れなくなったから同行しろと誘ってきたはずだが……なるほど、生徒会の奴らと来るはずだったのか。外面のいい柚季が貴重な休日にまで猫被るのに疲れて、唯一気を遣わずにいられる俺に声をかけたんだろうと腑に落ちた。うん、ここで深く突っ込むのはやめておこう。柚季の手を引き剥がした後も俺が沈黙を守ると、会長は俺たちを交互に見遣った。 


 「君たちは二人で来たの? ずいぶん仲がいいみたいだね。もしかして付き合ってる?」

 「違いますよ。俺と柚季は幼馴染なんです。ガキの頃からの付き合いで、もはや家族というかそんな感じで」

 「へぇ……そうなんだ」


 イケメンハイスペ生徒会長に観察されて居心地が悪い。俺のようなパッとしない地味男が側にいるのが気に食わないのだろう。とはいえ品定めするような眼差しには慣れている。俺は会長の視線に気付かないフリをして柚季の前に跪く。


 「ほら、足出せよ。靴履き替えさせてやる」

 「い、いいわよ。そのくらい自分で――」

 「浴衣が汚れるぞ。せっかく綺麗ななりしてんだ、しゃんとしてろ」


 静かに柚季を見上げると、戸惑いながら視線を逸らされた。やがて俺の膝の上に白い足が乗る。傷口にバンソーコを貼り、買ってきた靴を履かせた。少し大きいが、この程度なら許容範囲だろう。


 「ありがとう」

 「どういたしまして」


 パンと膝を叩いて立ち上がると、会長以下、生徒会の数名が目を丸くしていた。今のやり取りにおかしいところはなかったはずだが、一体どうしたというのか? 頭に疑問符を浮かべていると、突然、ギュッと足を踏まれ悲鳴が漏れる。暴挙に及んだ柚季は、物凄い形相で俺を睨んだ後、さっと優等生仮面を顔に張り付け会長に笑いかける。


 「すみません、私たち用事があるのでこれで失礼します。また学校で」

 「え? あ、ああ。じゃあまた」


 痛みの余韻で涙ぐむ俺の首根っこを掴み、柚季はずるずる引っ張っていく。成す術もなく連れられるまま、当初の目的地である公園に到着した。公園内は色とりどりのキャンドルが所狭しと並べられ、柔らかな光が揺れている。頬を撫でる風は生温く、夏の匂いがした。


 「短冊書いてくるから待ってて」

 「お、おぅ」


 不機嫌な柚季がプイッと背を向けて離れて行く。機嫌を損ねた理由が分からず、俺は頭を抱えた。しかし考えてもたいてい勘は外れるので、余計な考え事はやめる。ここは開き直って理由を聞き出し、謝罪しよう。最も効率的な仲直りの方法はこれだ。――心を決めた瞬間、柚季が戻って来た。


 「早っ! もう済んだのか?」

 「うん。願い事は決まってたから。というか毎年同じ」

 「へー。どんな?」

 「秘密。涼太には絶対教えない!」

 「そーですか。へいへい」


 へそを曲げる柚季をチラ見し、俺は痒くもない頬を掻いた。ここは一刻も早く和解した方がよさそうだ。


 「あのさ……何に怒ってるのか分からんがとりあえず悪かった」

 「フン。理由も分からないまま謝って事を収めようとするとは安定のクズね」

 「なっ、しょうがないだろ! つか突然キレられる俺の身にもなれ! ……ん? 待てよ、分かったぞ。お前が怒った理由」

 「どうせ的外れでしょうけど一応聞いてあげるわ」

 「相変わらず上から目線だな。まぁいいや。今回は自信あるぞ。お前――会長に言い寄られて困ってるんだろ? この前恋愛対象外って言ってたもんな。でもさっきの感じだと向こうはお前に気ありそうだったし、彼氏のフリして欲しかったんだろ。でも俺とお前じゃ釣り合わないからどう考えても無理がある――って、いてててて! 耳を引っ張るな!」

 「うるさい黙りなさい! まったく掠りもしないわねっバカ! バカバカバーカ!」

 「くっ! その凶暴な本性を会長にも見せればいいだろ! そしたら100年の恋も冷めるわ!」


 吐き捨てるように罵ると、柚季は動きを止めた。傷付いた面持ちで急速に瞳を潤ませる彼女にギョッとして狼狽える。ポケットにハンカチがないか探ったが、ないものはない。二人の間に気まずい沈黙が流れる。俺は「ごめん」と素直に頭を下げて謝罪した。


 「言い過ぎた。今日お前が俺を誘ったのは、気を遣わずにいられる相手だからだろ。さっきはキツイこと言ったけど、実際、お前が多少本性見せたところで周りは変わらないと思うぞ。猫被ってようが根っこの部分は変わらないからな。努力家で、負けん気が強くて、困った奴を放っておけないお人好しな藤宮柚季のことを慕ってる奴は大勢いるだろ。昔からずっと、俺の自慢の幼馴染だ」

 「涼太……」


 柚季が息を呑む気配がして、顔を上げた。少し照れ臭いけれど、本当の気持ちだった。


 「ま、心配するなよ。万一本性晒して引かれたら、そん時は俺がケーキバイキングでやけ食いでもなんでも付き合ってやる。気が済むまでボコってもいいぞ。これでも鍛えてるからな。お前の猫パンチくらいどうってことない」

 「ぶふっ。さっきみぞおちにグーパン食らって目玉飛び出してた癖に強がっちゃって」

 「う、うるさい! あれは不意打ちだったろうが! 俺の腹を見るか!?」

 「やだ! こんなとこでTシャツ捲らないでよ変態!」

 「へぶぅ!?」

 

 頬にビンタを食らった俺がよろめくと、柚季はくすくす笑った。ついでに周りにいた女性客にも同様の反応をされて穴に埋まりたい。だけど何を思ったのか、距離を詰めた柚季が俺の肩口に顔を埋めてきた。突然のことに瞠目する。


 「お、おい?」

 「――ありがと。何の根拠もないけど、あんたに『大丈夫』って言われると安心するわ」

 「……そりゃよかった」

 「今顔見たら腹にグーパンね」

 「はいはい」 


 サラッと脅してきた柚季の声が微かに震えていたので、俺は大人しく従った。勝気な柚季が実は涙もろいことを、家族以外の誰が知っているだろう。後頭部に手を伸ばし、何度かあやすように撫でてやった。やめると催促するようにグリグリ肩口に顔を押し付けてくる。素直じゃないやら可愛いやら、息を抜いて笑ってしまった。柚季は不服げに顔を上げ、ぷぅっと頬を膨らませる。


 「まったく勘がいいんだか悪いんだか。さっきあんたが言ったことは半分当たりで外れよ」

 「ん? あぁ、結局なんだったんだ。勿体ぶらずに教えろよ後学のために」

 「会長に好意を持たれていることは否定しないわ。でも怒ったのは彼氏のフリしてくれなかったからじゃない。だって……ムカつくじゃない。せっかくめいっぱいおしゃれしてきたっていうのに、他の子にデレデレしちゃって」

 「ええええ!? 突っ込みどころ満載だがいつの話だよ!?」

 「さっきよ! 生徒会の書記の子に鼻の下伸ばしてたじゃない!」


 「ああいう子が好みなの?」と顔を近づけてくる柚季。至近距離で視線が合い、胸が高鳴る。今までこんな風に接近してもドキドキしなかったのに、今日はなんだか様子がおかしい。きっと祭りで二人きりという非日常的なシチュエーションが調子を狂わせるのだと俺は早急に結論づけた。


 「俺の好みはとにかく、子供じゃないんだからオモチャを取られたようなノリでキレるなよ」

 「そんなんじゃないわよ! まったく……どうすればそういう思考回路になるわけ。私がこんなに……。まぁいいわ。とにかく! 他の子に見惚れるの禁止! 私と約束して来たんだから、今日の涼太は私のものなの。分かった?」

 「猫型ロボットアニメの俺様キャラの片鱗を感じるがまぁ分かったよ。で、結局許してもらえるんですかね」

 「指切りしてくれたらね」

 「うわ、なんかすげぇ嫌な予感が……」

 「黙って手を出しなさいヘタレ眼鏡」


 諦めて胸の前に手を差し出すと、柚季が小指同士を絡めてくる。不意に瞼を閉じた柚季の長い睫毛と、綺麗な薄紅色の唇に釘付けになった。


 「来年も一緒にここへ来れますように」

 「え……」

 「嘘吐いたら毛根刈り取る」

 「おぃぃぃぃ!!」


 突っ込むと同時に「指切った!」と悪戯っぽく笑う柚季。ハゲの危機だが、俺が取った安物のぬいぐるみをとても大事そうに抱える彼女の姿にすっかり毒気を抜かれてしまった。自然と笑顔が零れる。


 「さっき会長に言ったこと、ひとつ訂正する。お前は俺にとって幼馴染で家族のような存在だ。それと、今みたいな笑顔が曇らないよう守りたいと思ってる」

 「……っ!! ~~~~~な、なによそれ! 己惚れないでよ!」

 

 照れた柚季のパンチがくる気配がしてギュッと目を閉じると、衝撃の代わりに頬に柔らかいものが触れた。あまりに一瞬で、何が起きたか理解するのに数秒かかった。


 「い、いいいい今お前ほっぺにキ、キ」

 「口に出さないでよバカ! 隙がある方が悪いんだからね! じゃなくて! 今のはノンデリ男への天誅よ! 勘違いしないでよねっ!」


 バカを連呼しつつぷんと顔を背ける柚季は茹でタコ状態だ。金魚みたいに口をパクパクさせる俺は唇の触れた場所に手をやった。微かに熱が灯ったようだった。    


 『今年こそ涼太に想いが伝わりますように!』


――――短冊に書かれた柚季の願い事を俺が知るのは、もう少しだけ先の話である。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何年生か忘れたけど続きでるかな?
[良い点] 昔書いた感想見てここにたどり着いて見れば主人公死ねボケカス!クリスマス前にこんな話読んでしまったじゃないかちきしょー!!(´;ω;`) (;_;) ヒロイン可愛いやんけ! ある意味一…
[一言] すごく面白かったです!続きが見たい!
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