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僕は異世界に行かない  作者: 眇田行
僕は『異世界』に行こうと思った。だけど行けなかった。
2/16

異世界転生…もしくは異世界召喚


◆◆

◆◆◆


 マンションの屋上に僕はいる。柵越しの地面を見ながら紫煙をくゆらしていた。15階建てのマンションなのだからその高さ40mはくだらないのではないだろうか。高所恐怖症じゃないはずなのだが、ちょっと怖い。

 そして僕は異世界転生の為の準備に取り掛かる。そう異世界。

 僕は異世界に行きたいのだ。現し世に嫌気がさして、しかし来世でもこの世界で生きていくことに耐えられなくて、だから僕は異世界に行くことに決めた。

 異世界。文字通り異なる世界。僕のための世界。僕はそこに行く。そうすればきっと僕に優しい世界が待ち受けてるに違いないのだ。きっと。

 さて、それでは異世界転生、もとい異世界召喚の儀を始めます。とりあえず煙草を異世界転生させておこうと思い、火も消さず投げ捨てた。投げた煙草は放物線を描き落ちていく。煙草は異世界に行った。

 そして僕は儀式の下準備を始めた。

 まずは祖父の代から家に貯蔵されていた貰い物のスコッチウイスキー、バランタインを舐める。アルコールが臓腑にしみる。そしてデパ地下で買った燻製チーズを齧る。異世界召喚の儀式は始まった。

「満たせ、満たせ、満たせ」

 適当に円を書いて召喚術式なるものを書こうとしてみるが、円というものは存外書きにくいものである。僕が書いた円は楕円よりで、少々角張っている。

 そしてウイスキーを舐める。さすが上物。うまい。

 コンビニで買ってきたビールをあけた。パシュっと良い音がして、そして飲む。うん、燻製チーズにはビールがあう。

 もろもろの準備が仕上がった。

 召喚術式の完成だ。勘違いしてもらっては困るのだが、僕が召喚するのではない。召喚されるのだ。

 そしてウイスキーを一気に煽り、僕は大分できあがっていた。

 よし、異世界への扉はもう少しだ。

 柵を超える。そして飛ぶのだ。

 飛んで僕は落ちるだろう。この世界には重力があるから、僕は自然とこの世界に引き付けられてしまう。しかし、ここまで転生、召喚の儀、もうどっちでもいいんだけど、それを完成させた僕は地面に落ちる1mm前で異世界に行くのである。

 完璧だ。

 ……完璧だけど、今日はやめとこう。

「どうせ死ぬなら、痛くないほうがいいよな……」

 独白して思う。

 こんなんで異世界に行けるわけがないのだ。

 どうせ死ぬ。地面に落ちる1mm先まで生きてたとしても、そこから異世界に行けるわけがない。地面に着地して、死ぬんだ。

 じゃあ僕は何がしたかったのか。ただ死にたかっただけだ。言ってみればあの世も異世界じゃないか。

 はぁ……。

 酒盛りに戻り、僕はこのマンションの14階、1401号に入った。

 母さんが死ぬ前に住んでいた部屋だ。僕もしばらく一緒に住んでいた。

 そこで寝て、また明日もこの世界で起きるのだ。


◆◆◆

◆◆

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