戦略的撤退
「フハハハ。どうだ、苦しかろう。1度も経験したことのない魔法を使わなければ逃れられぬぞ」
「ぐっ……」
身動きが取れないだけでも厄介極まりないってのに。
この植物、締め付けてきやがる。
いや。
これは締め付けているというよりもむしろ、捕食しようとしてる……のか?
「その通り。人を好んで食すよう交配してあるのだから、貴様はもはや養分よ。まぁ、貴様に死なれては我々も困るのだがな」
「なんだと?」
あ、あれだけ無残にも殺しておいて、今度は死なれては困ると?
どこまでも身勝手なヤツらだ。
はぁ……呆れた。
「さて、そろそろ限界なのではないか? 早く落ちてくれると助かるのだかな」
「カ……ハッ……」
ヤバい。
い、息が……でき……
「サーネイル様っ! 『ストーム』! 『ストーム』!」
「フン、無駄な足掻きよ」
「『フルストーム』! 『アイスランス』!」
「おい、しつこいぞ」
「水と風の導きよ、チカラを貸したまえ。ミニハリケーン!」
「いい加減にしろ! 『サンダーハリケーン』!!」
「きゃああああっ!!」
ろ、ロザリア……?
もうダメだ。逃げろ。
「あ、『アイスブレイク』。の、ノーブル……」
「諦めろ。フンっ!」
「ぐ……さ、サーネイルさまぁ……ぅっ」
ロザリアが。
お、俺のロザリアが……死ぬ?
また、失うのか?
うああああああああぁぁぁっ!!!
「ウィンド」
そう呟くように唱えて、地面に突っ伏すしかできなくなったロザリアを風によって引き寄せる。
エマさんの作った特製戦闘服に身を包んでいる為か息はあるようだが、たった二回の攻撃で身体はもうボロボロだ。
「ろ、ロザリア? 無事か」
「………… 」
息のほとんど出来ない俺よりもさらに小さな、まるで蚊の鳴くような声で囁くようにして応えるロザリア。
よくも。
よくも俺の、ロザリアを。
俺はロザリアの手を握りしめ、キッ!とフェルマーを睨みつける。
「お、おい……フェルマー」
「なんだ」
「新しい魔法でないと……逃れられないんだよな?」
「それがどうした」
「ヘッ、へへへっ…………『ワープ』」
「なにっ!?」
俺の唱えるその魔法によって目の前の風景が歪み、光すら通さないような不気味な渦が現れる。
その渦を手繰り寄せ、俺に絡まる植物の一部ごとまとめてワープをした。
去り際に、「やるではないか」という声が聞こえたような気がした。
ーーーーーーー
「っ……くんっ……」
「ん……」
「さっくんっ!」
「うわっ?」
気がつくと、眼前には見慣れた、しかし見慣れない表情の乃愛がいた。
まるで大切なものを失ったかのような、そんな悲壮感漂う物悲しい顔だ。
「乃愛?」
「……はい。さっくんの乃愛です」
「ど、どうしたんだ? 何があった? ロザリアは?」
「……質問はひとつずつにして」
「なんだ、怒ってるのか?」
「……」
ぷいっ。とそっぽをむいて、「知るもんか」とでも言いたげな仕草をする乃愛。
その仕草が、なんだか無性に、堪らなく愛おしくなって……
「ふっ。あははははっ」
「も、もう! なんで笑うのっ!」
「いやさ。可愛くて、つい……」
「ばかぁ」
「ごめん」
「さっくんのバカ」
「……ごめん」
不貞腐れながらも、乃愛は先の俺の質問に順番に答えてくれた。
まず、俺が無我夢中でワープした先は、やはりというか城内だった。
俺達が裏から出て、そこにいた魔物を倒したせいか、倒壊は免れたようだ。
元々魔物は中央目掛けて向かっていたこともあり、討伐によって錯乱してか暴走気味だった残党がエマさん達のところに集中していった、とかなんとか。
んで。
それが終わったと思いきや、城の宝物庫が荒れていたので修繕していた時に俺がフェルマーと出会ったのを認識したエマさんが手当り次第に例の金属塊を投げ飛ばしたようだ。
貴重と言えば貴重らしいのだが、エマさんと乃愛は俺の存在の方がよっぽど貴重だといってお構い無しだったと自慢げに語られた。
そんなわけで、俺が命からがら逃げ延びたことに安堵するとともに、とても心配だったからこそ置いてかれたことに不満を持っていたようだ。
そんな大切に思われてるってのは俺も素直に嬉しいし、ちょっと邪険にし過ぎたと反省した。
一方のロザリアはというと……
ガチャっ。
「ロザリ……あっ、ミネルバか?」
「あら、またお会いしましたね」
「なにしてんの」
「見ての通り、傷と魔力の回復です」
「そうは見えねぇんだなぁ……」
またもやベッドで休んでいるロザリア。
その横で添い寝している(ようにしか見えない)ミネルバが、半裸で傷と魔力の回復だとか抜かしやがった。
ゲフンゲフン……けしからん。
この時間に書くのねんむぃ…




