前々日 その五
今ってGWなんですか?
九連休ってマ?
いいなぁ〜。
「サニー様、準備は宜しいですか?」
「うん。どこら辺に飛べば良いかな?」
「国外から入れよ? 常識と言えばそうだし、あそこの魔法技術凄いから一瞬でバレるぞ」
「マジですか……」
いや、まぁそうだよな。
砂漠のド真ん中なのに、魔法で気温を永続的に変えてるんだから普通に有り得る事だ。
よし、国から二百メートルくらい離れた場所に座標を指定して……っと。
「それでは、行ってきまーす」
「おう、気楽にやれ。失敗しても、防衛が厳しくなるだけだしなー」
言葉の矛盾によって必要以上にプレッシャーをかけていくスタイル、キライじゃないよ。
元々これは俺が決めて言い出したことだし、やり直しをしている時点で反則のボーナスゲームみたいなものだからな。
何回も繰り返せる気力も確証もないよ。
一発で決めるし。
そして久々のワープを決め込んだ。
試し撃ちとかしなかったから少し不安だったけど、得意魔法だし問題は無かった。
「ここがトルフィヤ王国ですか……」
「あれ? エマさん来たことないの?」
「えぇ。あのジルヴェスターの本拠地ですしね」
むぅ。
エマさんとジルさんって結構距離が近いというか、呼び捨て出来るくらいの間柄だよな。
「前々から思ってたんだけど、エマさんとジルさんってどういう関係なの?」
「…………それは事件が解決してからにしませんか? 必ず話をするとお約束致しますから」
「んー、分かった。じゃあ急ごうか」
「ええ。申し訳ございません」
うん、聞かない方がいい事もあるよね。
元こいび……いや、何でもない。
それから国の入り口へと向かった。
砂漠のド真ん中に竜車も何もなしで来たので、前回クーちゃんを預かってもらった入り口近くのオジサンに怪しまれたけど、咄嗟にお散歩しに出かけた姉弟を演じて誤魔化した。
エマさんが何やら魔法を使おうとしていたけど、王様にバレそうだったから止めた。
そして、例の城門。
「待たれよ。お前達は何者だ?」
「我等はエルグランド王国から使いに参った者にございます。トルフィヤ王に合わせてはいただけませんでしょうか?」
エマさんが、例の少し偉そうな門番に説明してくれている。
だが、兵士は少し顔持ちが悪い。
「使者ということか。そのような連絡は受けておらぬが……証拠はあるのか?」
あー、まだ早すぎたかな。
もしかして、まだ準備中ですか?
仕方ないので、俺は挨拶をしてから書状を取り出した。
「私はエルグランド王国第一王子のサーネイル・アルファ・エルグランドと申します。本日は急遽こちらに伺わせて頂くことになり大変失礼とは思いますが、謁見をさせて頂きたく存じます。こちらは、父である現国王から託された書状です」
「な……ぇ。こ、これは大変失礼致しました!! すぐに確認して参りますので、こちらで少々お待ち頂けますでしょうか?」
「あ、はい」
「で、では……すぐに戻って参りますので! 失礼します!」
その兵士さんは、物凄い速さで城内へ駆け込んでいった。
そもそもこの門兵さんは魔物襲撃の際に一部隊の指揮官を務めていた訳で、偉そうというか本当にそこそこ偉いのだ。
なら尚更門番なのがおかしいけど、それは国の方針なのだし、その分の信頼が置ける人物であるという見方も出来る。
疑り深くて、自分の能力で得た情報しかロクに信用しようとせずにリーちゃんを牢にぶち込んだ王様的にはある意味妥当な配置だとも思えるし。
何気に、以前ここら辺でミリィを誘拐しようとしていた悪党の後処理もちゃんとしてくれたし、事情も理解してくれるくらいには常識のある人なのだ。
そうこうしていたら、鎧装備で全力ダッシュにも関わらず息切れをしていない門兵さんが帰ってきた。
「お待たせして申し訳ございません! ただ今謁見の準備が整いましたので、ご案内致します」
「ありがとう。助かります」
「い、いえ! 王族の方とあっては、無礼な真似など出来ませんから。先程の無礼はどうか御容赦を……」
「うん? ん、分かったから早く」
「はい。こちらです」
渡した書状に俺が王族だとでも書いてたのかな?
見た感じ俺のこと覚えてなさそうだし、そうなのだろう。
それから少し長めの道を歩かされる。
実は謁見の間までの道のりを覚えていたりするので、なんとなく遠回りさせられているのが分かった。
部屋の前で待たせればいいのに、回りくどいことするなぁ。
「……着きました。扉の前にて少々お待ち下さいませ」
「分かりました」
それだけを言い残すと、兵士さんは元の定位置へと戻っていった。
偉そうでなければ、仕事人っぽくてかっこいいと思うんだけどなー。
兵士さんが見えなくなったのとほぼ同時に、正面の大きな扉が開かれた。
俺は衣服を少し整えて、謁見へ望む準備をした。
開かれた扉からは、執事と思われる人が一礼してから奥まで案内してくれた。
俺とエマさんは、その後に続いて歩く。
最奥には例の初老の王様が座っているが、途中の通路の両脇にはズラーーっと並んだ兵士やらメイドやらが深々と腰を曲げて歓迎の姿勢を表していた。
ここまで王族として扱われるのは久しぶりだったので、それだけで緊張した。
そして王様の所まで進み、俺は社交場とかでよくある右手をお腹の辺りに添えるタイプのお辞儀を、エマさんは優雅にスカートを摘んで身体全体を下げるカーテシーと呼ばれる最上級の挨拶を、それぞれ行った。
前回謁見した時は身分を偽っていた為に片膝をついた挨拶だったが、国の使者、特に王族ともなると、こういった挨拶でないと属国の証だとかで国交が対等でなくなるのだという。
まぁ王族に限らず、貴族社会はめんどくさいものなんだよ。
「エルグランド王国第一王子、サーネイル・アルファ・エルグランドと申します。本日は急な訪問にも関わらず謁見をさせて頂きたくことに感謝申し上げます」
「付き人のエミリーと申します。このような国賓級の対応、深く感謝致します」
俺とエマさんがお辞儀のポーズをしたまま礼を述べ、終わると同時に元の姿勢に戻す。
豪華な出迎えだとは思っていたけど、これって国賓対応だったのか。
「遥々遠いエルグランドの地より良くぞ参った。我はルークス・グレイ・ベータ・トルフィヤ十五世である。このような急用ということは、さぞ大きな問題を抱えてのことなのであろう?」
「はい。国家存亡の危機にございます」
俺の発言に、周囲はザワザワとし始める。
……なんか、前もここで同じことを言った気がするぞ?
「詳しくはこの書状に書かれておった。要は援軍を要請したいと、そういうことじゃな?」
「はい」
「よかろう。我が軍の精鋭をエルグランドに遣わす。希望兵力はどれほどであるか」
「は……?」
即決過ぎません?
もう怖いよ。
「実を言うとな、最初は謁見などするつもりは無かったのだ。じゃが、我が孫がどうしてもと言うでな。つい先日までは愚孫だったのじゃが、ここ数日になってからというもの、人が変わったように善人になってしもうたのじゃ」
「は、はぁ……」
「これは何かの前触れだと、そう思っての。孫の願いを聞いて見ることにした。危険な場に立ち会う兵士達には悪いがの」
ふと周囲を見渡すと、フルフルと首を横に高速で振る兵士達がいた。
なんとも奇妙な光景だが、王様の言う孫って……
「む。ちょうど孫が来たようじゃ。詳しくは本人から聞くと良い」
そう言われてさらに奥の扉を見る。
「先生、お久しぶりです! ……いえ、初めまして、ですか?」
その声と共に現れたのは、やっぱりあのバカ王子であった。
日曜までは毎日投稿しまーす。