前々日 その四
今更だから変更とかはしないけど、前々日としてサブタイトルを括ったのは間違いだったと思う。
このままだとあと二、三話続くし。
サブタイトルにはそれなりにこだわりを持ってたんだけどなー。
忙しいという安易な理由で付けてしまった当時の私に詫び石を要求したいよ。
「どうして……サーネイルがこれを持っているんだ? これは俺がトルフィヤ王にあげたはずだぞ?」
「ですから……まぁ、そういうことです。これが証拠ですよ」
父上は俺が取り出した腕時計を色んな角度から見て確認し、「型番まで合ってる……」と言っていた。
この状況、そしてその腕時計が、何よりの証拠となって今ここに存在している。
しかし、なぜこれだけが異空間収納に?
あの事件以来、俺が唯一使えた幻魔法である異空間収納。
父上の形見にとトルフィヤ王から譲り受けたは良いが、保存に困って異空間収納に仕舞い込んでいた。
異空間収納には以前山で暮らしていた時にぶち込んだ木やらなんやらが当時のまま残されているが、時空を超えて腕時計だけが引き継がれている。
乃愛が作った魔道具も幾つかは入れていたはずだけど、それらが紛れ込んだ様子はない。
本当に、腕時計だけがついてきたのだ。
「……これは確かに俺の持ち物だ。十二分に信用に値する物だな。信じるしかあるまい」
「では……」
「あぁ、この国の命運はお前に掛かっている。俺は国の総力を上げてお前を全力で支援するぞ」
「はい!」
や、やった!
父上を説得出来たぞ!
正直に言うと、成功するかは半々だったんだ。
幾ら父上が聞き分けの良い国王と言っても、何らアテのない幼い息子の戯言だと取られてもおかしくは無かったのだ。
というのも、俺がエマさんと初めて街へ遊びに行った時の事があったからだ。
あれ以来、父上は物事を判断する際に、相手が誰であろうと必ず根拠を示すように迫っていた。
王宮中が俺の失踪に騒ぎ立て、あらぬ噂も立ち、果ては幾人かの貴族らが国家反逆罪で処罰を受けるところだったからだ。
もちろん、その全てが父上の命令なわけでは断じて異なるけど、それによって一部の貴族からは反感を買っていたのだ。
そして、それに続くドラゴンの襲来。
表向きは無事に解決したような雰囲気だったし、当時の俺もそうだとばかり思っていたのだが、どうも事件の真相を辿っていくうちにそういった裏事情的な話が見え隠れしていたことを知った。
ソース、というか情報源はエマさんだ。
以前は俺に変な気負いをさせまいと隠していたらしいのだが、こういった事態も相まってからか、ついさっき知らされた。
まぁ、そういう訳だから、良くも悪くも今はそいいう話にとても敏感な時期だったのだ。
人払いをしなければならないくらいに来客がひっきりなしだったのも、実を言えばそのせいなのである。
「エミリア、大臣を読んで来い。至急、簡潔ではあるが国の正式な使者としての任命式を執り行う」
「はい、承りました」
父上の指示を受けて、エマさんが部屋を飛び出していった。
この非常事態にも式を欠かせないのは、王族としてのやむを得ないしきたりなのだろう。
「それからサーネイル。今から書状を書くから、正装に着替えて来い。今から出発して、その日までに間に合うか?」
「僕の幻魔法、ワープならトルフィヤ王国までは目と鼻の先です。交渉や援軍の準備などがあったとしても、今日中には帰れると思います」
「よし、分かった。急いで支度しろ。メイドには4910と言えば伝わるはずだ」
「分かりました」
4910?
あ、至急至急トルフィヤってことか?
それとも、五千通り以上の緊急マニュアルでもあるのかな。
まぁ俺の風邪とかの都合は二の次で、とにかく俺の指示に従えと普段から緊急の合図として教えられているのだろう。
俺は大臣を引っ張っていくエマさんを横目に見ながら部屋を跨ぎ、青を基調としたエルグランド王国に伝わる伝統的な滅多なことでは表にならない秘蔵の特注衣装に身を包み、手土産なんかも用意してもらった。
4910を聞いたメイド達はネズミ方式で事情を伝えていき、あるものは俺の着付けを、またあるものは魔道具で先方にアポを取っていた。
アポって国王直々ではなく、従者同士が連絡を取り合い、それを報告するからここでは当たり前の事なのだ。
何この一体感……と思いながら髪型やらを整えられ、一瞬ではあるが慌てながらも慎重に行動するミリィの姿も確認出来た。
様子から察するに、ミリィも覚えていないと推測される。
まぁ、全ては事件が終わってからだな。
一通り支度を終えた俺は、慣れない服に違和感を感じながらもシワとかつけないように歩いて謁見の間へ戻った。
ワープは何千人兵士を運ぶか分からないし、ヘタに魔素切れでも起こしたら、ジルさんの二の舞になるから使用は極力控えることにしている。
ルナにも、魔力の燃費が悪いとかって怒られたしな。
それにしても、父上の指揮力は凄いよな。
あれこそ本来のエルグランド王としての姿なのかもしれないな。
「父上、準備完了です」
「よし。では大臣、早速」
「畏まりました。それではこれより、使者激励の儀式を……」
長いからカッツ!!
簡潔っったの誰じゃい!
無駄に厳かな雰囲気のあるその式でウダウダする訳にもいかず、ただ耐えていたから余計に長く感じたのかもしれない。
エマさんはというと、式の合間に着替えて俺の付き添いとして一緒に向かう準備を整えていた。
エマさんってば身長の割に、すっげぇ色気があるの。
色仕掛けで落とす気ですか?
そして、いよいよ出発直前……
「サーネイル、お前が出ている間に兵士達の寝床や食料は俺の方で確保しておく。それから、国中に混乱を招かない程度に御触れも出しておく。もし断られた時は、この赤い書状を投げつけろ。だけど最初は丁寧にこの青い書状を手渡すんだぞ?」
「投げつけろって……」
「お前が疑問に思うのも分からないでもないが、これは脅しの一環だと思ってくれて構わない。互いの国特有の、いわば最終手段だ。出来れば使うな」
「んな無茶な……」
「無茶とかもうしてるって。当日急に押しかけるとか、連絡したとしても有り得ないぞ? 最低限の体裁を整えるのと、向こうの準備時間を設ける為にわざわざ式を長引かせたんだから」
「さいですか……」
だからあんなにも無意味な時間が続いたんですね。
渋々ですが納得してあげますよ。
なんか最後の方はネタ切れみたいで、あるはずのない国歌を斉唱させられていたからな。
エッルグランドォー!エッルグランドォー!の繰り返しとか馬鹿かよ。
それで誰も吹笑したりせず厳かなままの雰囲気保てるんだから、エルグランド王国ってヤベェな。




