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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋の危険性『独白』

作者: 毎日居留守


 自身の過去作品[とある作家の短編集]からのリメイク。



 恋、それは大人も子どもも狂わせる、甘い甘い劇薬。


 無限の可能性を秘めているが故に、人を艶やかな香りで誘惑し、勘違いさせ、そのすべてを狂わせる。

 しかも質が悪いことに、そんな負の可能性を潜り抜けて勝ち取った恋は、愛という名の奇跡の霊薬へと姿を変えて燦然と輝き、その光で人々を魅了して新たな犠牲者たちを増やしていく。


 少女漫画なんかは分かりやすいかもしれない。ドロッドロな物語も多いが、同じくらいキラキラした夢しか詰まっていないような物語がそこに存在している。

 これこそが、初めの一歩になりやすい、よくできた毒物である。



 もっとひどいのは、意外というかやっぱりというか、現実である。「現実は、小説より奇なり」ってやつだ。例に挙げたのは小説ではなくて漫画だったけど。

 見渡せば、あちこちで創作をはるかに超える出来事が起こっている。



 例えば、うちのクラスにはそこそこモテ男くんがいる。○×っていうのだけれど、知っているかな?

 そして、そいつの周りにはいつも三人の女がいるが、この三人は全員その男に恋をしてしまっているのだ。しかも困ったことに、三人ともそのことに気が付いている。


 この事実が発覚した当初は、そりゃあ可愛いものだった。他の二人を気にして一生懸命アピールをするものの、罪悪感で胸がいっぱいになってしまい、後から他の二人に謝りに行く。謝られた二人は少し怒ったふりをしながら、その時にどんなことをしたのか根掘り葉掘り聞きだして、最後にはキャッキャッと黄色い声を上げながら喜び合うのだ。

 どこか小動物染みたこの仲良し三人のやり取りに、周りは癒されていたものだ。


 歪ながらも四人の輪は崩れなかった。奇妙なバランスで和を維持し、大きな幸せを得ることは出来ないが、小さな幸せを分け合う穏やかな関係。

 僕も内心で、こんな形もあるのかと感心していたものだ。持論も考え直さなくてはいけないかな?なんて思い始めていたほどに。


 事態が急変したのは、モテ男が後輩に告白されたという噂が流れた時だった。


 僕はそれが真実なのかどうかは知らないが、あの三人の目の色の変わりようを見ると、たぶん本当だったんだと思う。そこから、彼女たちは変わってしまった。

 まず、笑顔が減った。作り笑いはするが、本当の笑顔は減ってしまった。互いに話している時もぎこちない。話している時にチラチラとモテ男の方を見るのは変わりないが、その視線の意味が変わってしまった。そして、最近はいい雰囲気で話している時に露骨に遮ったり、遠回しに他の二人を邪魔者扱いしたりと、足の引っ張り合いまで始まった。

 そう、彼女たちは気づいてしまったのだ。このままでは大きな幸せを得られないどころか、その小さな幸せまでもが、誰かに取られてしまう可能性を。


 すっかり仲良し三人娘はどこへやら。すっかり見る影もなくなってしまった。

 しかも救われないことに、男には他に好きな人がいるのだ。そうこの男、三人の気持ちに薄々気づいていながらも「今の関係を壊したくないんだ。」とか言って、はっきり口に出すことを避けているんだ。


 男がまだその子に対して大胆なアクションを起こしていないから件の三人にはバレていないものの、それも時間の問題だろう。

 その時、彼女たちはどのような行動に出るのだろうね?ちょっと怖いもの見たさの好奇心なんだけどね。



 逆バージョンもある、男二人に女一人だ。男二人は一人の女を巡って常に何かしら張り合いを見せている。貢ぎあい合戦と言ってもいい。

 男のプライドっていうやつだろう。残念ながら、これはよくわかってしまう。男は好きな子の前ではかっこつけたいのだ。


 そして女も、そのことをよく分かっているらしい。

 取り合いの当事者である彼女は、この状況がいたく気に入っているらしく、男二人の気持ちに気づかない振りをしながら、時には相手のことを手放しに褒め、時に相手が買ってくれた貢物を自慢する。そうすることで男二人の対立心を煽り、ずっとこの関係をキープし続けている。

 彼らはそのことに気づくことが出来ない。「恋は盲目」というやつだ。本当に相手が好きであるほど、周りのことが見えなくなっていく。都合のいい解釈を始める。それだけに、行動が支配されてしまう。


 こうなると、もう抜け出せない。


 この関係はいったいいつ頃からなのかは知らない。周りが気づいたのは、女がブランド物の財布やバックを持ち始め、男の二人の目が血走り始めてからだ。それまではうまく隠していたらしい。

 別に、この二人の男が特別に裕福という訳ではない。いったいどうやって費用を捻出しているのか…。



 ああ、恋とは実に恐ろしい。人を化け物へと変えてしまうのだ。

 最初は単に「気になる」から始まり、「ドキドキする」「こっち見てくれると嬉しい」「仲良くなりたい、お喋りしたい」「好き」「違う異性と話しているとなんとなく嫌だ」「こっちだけを見て欲しい」「ずっとそばに居たい」「あの人と××××をしてみたい」「自分だけのものにしたい」と、際限のない欲望に捕らえられる。


 どこかで相手が振り向いてくれるならそれでいい。そこで一度沈むのが止まるのだから。ハッキリと拒絶を示してくれるといい。例外もあるが、大抵はそれで諦める。

 一番やってはいけないこと、それはハッキリしない態度を取ることである。キープのつもりかどうか分からないが、これをやってしまうと惚れた方は沈むのが止まらない。

 どこまでも、どこまでもどこまでも、堕ちていく。


 そして、囚われた者が、どこかで狂った牙を剥く。



「と、言うのが僕の恋に対する持論なんだけど、君はどう思うかな?」


 一度、話を切って隣にいる彼女に話しかけてみる。しかし返事はない。僕は無視されたのだと思い不機嫌になるが、そのぐらいのことはこれからのことを考えれば些細なことだと思い直し、顔を向ける。


「…ああ、なんだ寝ていたのか。通りで返事がないわけだよ。」


 どうやら僕の長ったらしい話で寝てしまったらしい。少し残念だが仕方がない。僕は話し始めると止まらないと有名なのだから。

 自覚しているので、中学生になったあたりから気を付けているのだが、嬉しいことがあると、どうしても我慢できずにおしゃべりになってしまう。


 なんとなく、眠ってしまった彼女の青白い頬をそっと撫でる。唇の紅がよく映えて、実に蠱惑的だ。


「全く、今日は特別な日なんだからもうちょっと頑張ってくれてもいいのに…。

 さて、こんなところに放り出してたら風邪引いちゃうな。世話が焼けるよまったく。」


 仕方がないのでベッドまで運ぶことにした。僕は彼女の顔を抱きかかえる。

 ふと窓の外を見てみれば、雪が外の世界を銀色に染め上げている。まるで僕たちが永遠に結ばれたことを祝福してくれているようだ。

 しかし、いつから降っていたのだろうか?どうりで冷えるわけだ。


「けど勿体ないな。こんなにキレイなのに、今寝ているなんて本当に勿体ないよ。」


 彼女と一緒にベッドに潜り込む。雪のせいだろうか?彼女はすっかりぬくもりを感じられないほど冷え切っている。

 このままだと彼女が本当に風邪を引いてしまいそうなので、しっかりと抱きしめてあげる。そう、温めてあげるのが目的だ。他意はないのだ。決して、彼女のサラサラな髪から良い匂いがするから顔を近づけているとか、そういうのではないのだ。

 自分にそう言い聞かせながら彼女の目を閉じて、自分も瞳を閉じる。


「おやすみなさい、よい夢を。」





 さて、どうでしたでしょうか?皆さんが隠れた意味に気づいて貰えたら幸いです。というか、この作者の文章力で理解していただけるのでしょうか?ドキドキしてます。


 それにしても昔の作品を見直すと、本当に酷いですね。ちょっと心が折れかけました。

 え?今も酷いって?お前さん、大の男がマジ泣きするところ見たいの?(豆腐メンタル)


 それでは、また機会があればお会いしましょう。サラダバー。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませていただきました。 文章が丁寧で、とても読みやすかったです。恋愛描写もしっとりと素敵でした。 ラストの語り部の男が、冷えきった彼女を抱くところは、作者様の意図した正解を想像で…
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