放送後 ep1
「お疲れ様でしたー」
「おつかれー。いやぁ久し振りとはいえ相変わらず面白いねぇ!」
「いえ、全て真田さんのおかげッスよ」
ここはラジオ放送局渋谷スタジオ。
僕、真島隆一はラジオのサブパーソナリティをやっている。
ちなみに僕の本業はシナリオライターである。
言ってももっぱらゲームのキャラのシナリオを作るような物書きというより、文章を打ち込むだけの機械というのが、最近の僕の仕事なのだが。
たまたま僕は3作目となるSFコミカルアドベンチャーゲームのシナリオを打ち込んだだけで、何故か僕が原作者と表記されて、発表。そのまま流れ流れで大ヒットした。
僕は原作者ではなくただ単に筋書きを書いただけなのだ。
そもそもゲームにおいて、物語やらを組むのはライターだけではなくプランナーの方々との共同作品である。
僕一人を火だるまにする気が満々なスタッフの思惑だったのだが僕が荒削りな部分を手直ししまくったおかげで多少はマシになった。
そして矢面に立たされた僕はさらに流れに流れていき、真田早苗と再会した。
「真島さんおつかれさまでした。今日もありがとうございましたぁ!」
「あぁ真田さん。別にお礼を言われるほどでもないッスから…」
「いえいえ、真島さんほど話を面白く盛ってくださるから楽しいでぇす」
「こちらこそ」
朗らかな表情で微笑する早苗にこちらは会釈で返す。
「この後は何処か行くんですかぁ?」
そう言って首を傾ける彼女。
男の落とし方を完全に熟知してると思う。
「いえ、これからまた打ち合わせなので」
「そうですか。ではお疲れ様でしたぁ」
「お疲れ様でした」
そう言って僕は足早にスタジオを出て廊下を半ば早歩きのテンポで走る。
後ろでスタッフが彼女を囲んで談笑してるのを尻目にしながら。
「やっば、急がないと…!」
今日は帰り道のスーパーの特売日だ。
ドーナツ地帯のさらに外側に住んでいる超貧乏人の僕には命綱のようなところで、今日の鶏肉100gが110円なんて渡りに船である。
今日も税金を払ったらすぐに手持ちが無くなってしまうだろうから、こういうところで買いだめをしておいて帰ったらまたゲーム情報サイトのコラムを書くためにVitaを起動することになる。
仕事が詰まっているだけマシ。
それが出版社お抱えとはいえ字を書くことしか能のない僕の現実である。
電車に飛び乗り、夕方だったため多少は空いている中でスマホを取り出して音楽を聴いて27分。
目的の駅で降りて、人通りの少ない駅前を歩くこと3分で、目的地のスーパー。
今日も顔なじみのおばさん達の中に混じってタイムセールの列に並ぶ。
なかなかに加齢の効いた匂いと香水の匂いが鼻に付く、おばさま方特有の匂いで、気分は多少よくない。
嗅覚が人より優れていることが特徴っちゃ特徴というなんとも言えないこの没個性は生活に全て影響される。
故に僕は潔癖症とも言えるほど綺麗好きであることを自負している。けど他人に話したことはない。
やろうと思えば隣を横切る美人が身につけた香水の匂いまで嗅ぎ分けられるだろう。
実際に匂いを頼りに人探ししたこともある。
横でラベンダーのキツイ香水をつけてるおばさまなんか特に、数メーター離れてても存在がわかってしまうから難儀なものだ。
ーーーっと、そんな特殊な個性を持つわけだが、タイムセールという特殊な戦争環境をなんとかするだけの有効性はないわけで。
「結果は1パック…おばさん達強すぎっすよ」
店員からひったくるように取った1パックの鶏肉を手にレジへ向かう。
そして買い物カゴを取らずに行列のできるレジへと並ぼうと体を滑らせる。
ーーどんっ!
「あっ…すみません」
慌てて体を行列に入れてきたのか、影が横からぶつかってきた。ぶつかってきた人は俺に突き飛ばされた形になった。
俺の足元に今回のタイムセールの目玉になった鶏肉が転がってきて、慌てて俺はその鶏肉に手を伸ばす。
すると今度は慌てて鶏肉を拾い上げようとする髪の長い女性と手が触れあう。
その瞬間。
ふわっと俺の鼻腔にとても心地の良い香りが迷い込んできた。
心臓が跳ね上がる。
「あっ、すみません!」
慌てて触れ合った手を引っ込める。
「いえ、こちらこそすみませ……」
不意に。
女性の動きが止まる。
「どうしましっ…!?」
女性の顔を見て、俺の筋肉の動きが止まった。
それは絶対にこんなスーパーの一角で鉢合わせることはないだろう相手。
そもそもスーパーなどという極庶民の生活基点ごときに用事がないだろうと思っていた相手。
「真島さん……?」
「真田早苗……?」
その女性は、大企業の社長令嬢であるスーパーセレブリティブルジョワインブルジョワである、正真正銘お嬢様。
その人が、タイムセールの格安鶏肉を抱えていた。
ーージャージ姿で。




