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明智に狙われる美月

訓練棟の中に入ると黒澤は美月の姿を発見し、すぐに声をかけて走って来た。


「美月、瀬楽ー!!」

「蓮君。霜月達も」

黒澤と一緒にいたのは霜月と綾小路の二人。宝正と小森は二人で先に指導の正隊員に呼ばれて

行ってしまったと霜月から説明を受けていると、そこへ一人の女性から声をかけられる。


「あらあら、モテモテね」

「えっ?…誰?」

「ごめんなさい。あまりにも楽しそうだったからつい声をかけちゃったわ」

「瀬楽、この人が鮎川さんだよ」

「えっ、そうなのか?初めまして」

「貴方が瀬楽君なの?思ってたより可愛い男の子ね?」

「いやいやそれほどでも~」

「瀬楽、そこは多分喜んじゃいけないとこだぞ」


「私は鮎川愛華。鮎川チームの隊長を務めてるわ」

「ふむふむ。よろしくお願いします、鮎川先輩」

「愛華で良いわ。あんまりその苗字で呼ばれたくないのよ」

「じゃあ愛華先輩?」

「OK。それでいいわ」


「鮎さーん!どこ行ったのかと思ったらこんな所にいたんですか?」

「紹介するわ。うちのメンバーの鰆崎十夜さわらざきとおやよ」

「あぁ…どうも、初めまして」

急に紹介されて戸惑う鰆崎はとりあえずお辞儀をして挨拶をする。

そりゃあ、誰だって急に紹介されたら戸惑うし動揺もするだろう。



「宮木君に大庭君、久しぶりね」

「どうも」

「…」


宮木は軽く挨拶するが、育巳に関してはそれどころか鮎川から目を逸らしてしまう。

するとタイミング良くある女子の悲鳴が飛び交う。


「ん?…なにあれ?」

美月は声がする方に振り向くと、そこには大勢の訓練生や正隊員の女子達が一人の男性に群がっていた。


「相変わらずね」

「能力でモテてるだけでしょ?あんなの」

「そうですね」

「まぁまぁ、二人共。鮎さんもそんなこと言っちゃダメですよ」


「あのおっさんのどこがいいんだ?あいつら」

「それは私も同感」

「まぁ、人にはいろいろと好みってものがあるからな」

「でもすごく人気だね?あの男の人」


すると、視線に気が付いたのか男性は美月達の存在に気が付くと女子達から離れて歩いて近づいてきた

のである。


「やぁ、こんにちは。菊馬美月さん」

「こらっ、美月に近づくんじゃねぇよ!」

「別に僕は何もしてないよ?黒澤蓮君」

「っ!?なんで俺の名前知ってんだよ?」


「もちろん知ってるよ。「人間解体」の特殊危険能力なんて素晴らしい力を持ってるんだもの」

「ちょっといきなり失礼じゃないですか!?」

「美月…」


黒澤は恐怖のあまり美月の手を強く掴む。

「これは大変失礼しました。でも、僕は褒めてるつもりなんだけどね?」

「貴方が褒めているつもりでも他人から聞けば、違う意味に聞こえることだってありますよ?

 それに彼はまだ14歳です。対して私と歳は変わらないですけど、そんなストレートに言わなくても

 良いと思います」


美月は完全に男性を敵視していた。

こんなにストレートに物事を言える人間に良い思い出・経験がなかったため、余計に敏感になってしま

っているのだ。


「ごめんね。だからそんな怖い顔しないで?」と美月の顔に手を添えようとすると

 宮木がすぐにその手を掴んだ。


「やめてください。明智あけちさん」

「宮木君痛いっ。本当に痛いって」

「申し訳ないんですが、美月に触れないでもらえますか?彼女は繊細せんさいなんです」

「へぇ~君が女子にそういうなんて、明日の天気は雪かな?」


ぎゅううーー

「いたたたたたたたたたっ!!???ギブッ、ギブギブッ!!」

「とにかくそんな他の女をたくさん触ったか弱い手で美月に触れないでください。美月が腐ります」

「ちょっと腐るってひどいなぁ…」


骨折はしてないとは思うが、相当痛そうだった。


「明智君、諦めなさい。この子は宮木君のお気に入りなんだから」

「あぁ~鮎川さん。すみません、全然気が付かなくて」

「ひどいわね?こんな美女に気が付かないなんて」


「どこが美女だよ…」と小さな声で育巳が呟くと、隣にいた鰆崎が「まぁまぁ」となだめていた。


彼の名前は明智一樹あけちいつき

意識操作体質系能力者いしきそうさたいしつけいのうりょくしゃで、能力は「魅力みりょく」。

名前の通り人を引き付けることが出来るが、正直本人はこの能力をあまり快く思っていない。

彼は小学生の頃に目覚め、実の両親に人払いとして能力を利用され犯罪に協力させられた過去がある。

両親が逮捕された後、彼は親戚に引き取られたが環境に馴染めず中学三年までは一般の能力者施設で

生活し特殊部隊の審査を受け保護組訓練生となった。当時はまだ未成年で親の言いなりによって行った

ということから審査を無事通過。20歳の誕生日を迎え進路を聞かれた際には既に正隊員に昇格してお

り、特殊部隊として残ることを決断する。美月・黒澤・綾小路・宝正・小森から見れば保護組の先輩に

当たる人なのである。


「すみません。彼女の事しか見ていなかったもので」

「あら、それなら仕方ないわね。それだと…次のターゲットは彼女ってことなのかしら?」

「いえ。今は違う女性でして…その方の次に彼女にしようと思ってます」


ターゲットだとか、訳の分からないことに美月達は困惑する。

「明智さん、やめてください。いくら四之宮先輩と同期だからって、彼女に手を出さないで」

「…本当に明日雪じゃないよね?」

「もう!雪でも雷でもこの際どうでもいいでしょ!?」


確かにどうでもいいことだった。

けれど、大庭と同様に宮木がこんなふうになるのは珍しいらしくしつこかった。


「じゃあ僕はこれで失礼するよ。またね、美月ちゃん」

「待て、この女たらし!」

「宮木先輩、落ち着いてください」

「離してよ、霜月」

「まぁまぁ、宮木君。落ち着いて」


霜月と鰆崎が止めたことにより、明智は命を救われた。

美月は明智に「美月ちゃん」と呼ばれて背筋がぞっとし今でも鳥肌が立っていた。











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