皆でカラオケへ
部屋へと戻った後、美月は瀬楽・黒澤・霜月でグループを作ってチャットをしていた。
『柊先生、今忙しいから無理って言われた。それで宮木さんに頼んだら「仕事増やさないで」って
怒られた(怒りスタンプ)』
『菊馬上手くなったな?スタンプも使えるようになってるし』
『うん、もう慣れたよ』
『それにしても宮木のおっさん、むかつくな?美月、やってやろうか?』
『蓮君、それは絶対ダメ(NOスタンプ)』
確かにむかついたとは言ったが、殺したいほどむかついているわけではないので美月は文章を送った
後すぐに「NO!」というスタンプを送る。
『夏休みだから、忙しいんだよ。残念だけど遊園地はなしということで』
瀬楽→『(しょんぼりスタンプ)』
黒澤→『(しょんぼりスタンプ)』
『二人共、そんなに行きたかったのか?遊園地』
『たまにはみんなでわいわい遊びたいじゃん。隊長はそうじゃないのか?』
『そうは言わないけど…(困りスタンプ)』
瀬楽と黒澤は同じスタンプを使い、行きたいアピールをして来る。
『今思ったけど、瀬楽と霜月はここら辺の人じゃないの?』
『違うよ』
『僕も違う』
『そうなんだ。じゃあ、蓮君は?』
『忘れた』
黒澤の返事を見て「おいおい忘れたって、そりゃないでしょ?」と思いながらも美月は次のように
文章を送る。
『じゃあここの近くで皆で遊べる場所ってあるかな?』
『ゲーセン!』
『カラオケとゲーセン』
『デパートの中にゲームセンターあったな』と見事に全員同じ。
ここで黒澤が瀬楽にある質問をしてきた。
『カラオケってなんだ?瀬楽』
『カラオケはカラオケだろ?』
『説明になってないぞ。瀬楽』
カラオケというものがなんなのか分からない黒澤に瀬楽は説明することが出来ず、霜月に突っ込まれる。
それを見た美月は次のように文章を打って送信する。
『部屋に一台テレビみたいなのとマイクがあって、メニューの中から自分の好きな歌を選んで
番号を入力すればその曲が流れて、歌えるんだよ』
『なんだそれ?』
『菊馬、メニュー見なくても小さなゲーム機みたいなやつで曲選べるぞ?』
『えっ、そうなの!?』
『昔はそうだったけど、最近のは瀬楽が言うように小さな機械にタッチペンを使って曲や歌手を検索
したり出来るんだよ』
『マジで?(びっくりスタンプ)』
自分が経験したカラオケはもう古い。美月がカラオケに行ったのは両親がまだ生きていた頃の一度だけ。
しかも彼女が小学三年生の頃だ。当時は見ていたアニメの主題歌で一番しか歌えず、カラオケで歌った
のは良いが一番を歌い終わったのに二番が流れて「どうしよう、歌えないよ!?」とばたばたした記憶
が幼きながらも残っていた。
『よし、みんなでカラオケ行こう!』
『ちょっと待て、瀬楽。小森はどうするんだ?』
『ん?』
ここで問題が発覚した。小森は声が出ないので歌を歌うことが出来ないことに――。
『あぁ~声が出ないからな』
『(しょんぼりスタンプ)』
『それに綾ちゃんと宝正さんにも聞かないといけないしね』
『とりあえず、明日三人に聞いてそれから決めよう』
『わかった』
『よし、じゃあもう寝よう。おやすみ』
『おやすみなさい(おやすみスタンプ)』
瀬楽→『(おやすみスタンプ)』
黒澤→『(おやすみスタンプ)』
こうしてやりとりが終わり、全員は就寝したのであった。
そして翌朝。三人にそのことを話すと意外なことに三人一致で「行きたい」と言われ、次の休みの日
に全員でカラオケに行くことになった。
そして次の休みの日。
黒澤が開店時間を調べて、その時間帯に間に合うように霜月が予定を組み10時ぐらいに待ち合わせ
全員でカラオケ店へと向かって行く。霜月が受付を済まして全員で指定された部屋まで階段を使って
行き、中へと入る。
「よーし!歌うぞ~」
「瀬楽は何歌えるんだ?」
「やっぱりアニソンだな。あとはゲームとかの…よし、やるぞ!」
瀬楽が選曲したのは、ある人気の戦隊ヒーローのOP主題歌で霜月と美月はメロディーを聴いて
すぐに分かった。黒澤は曖昧で、他の三人は分かっていなかったが静かに聴くことに徹する。
(歌詞↓)
走り出した鼓動は止まらない
今よりも 強くならなくちゃ
いけないんだ 愛する 君を 守るため
喧嘩よりも
大事な家族や友達よりも
一番は 君だから
「瀬楽、かっけぇ!」
「やっぱり男子が歌うと違うねぇ~」
「えっへん!じゃあ次は隊長だ」
「えっ!?僕も歌うのか?」
「当たり前だろ。歌える歌なら何でも良いぞ?演歌でも民謡でも」
「いや…普通にJ-POPを歌うから」
さすがに美月達のような若者で演歌や民謡を歌うというのは恐らくないと思われる。
だいたいがJ-POPやK-POP、アニメソングなどがほとんどだ。
霜月が選曲したのは、最近テレビのCMなどに使われる人気バンドの曲で瀬楽よりは至って普通だった。
「はぁ…なんとか歌いきった」
「隊長、お疲れさん。じゃあ次は綾」
「あっ…うん。頑張る」
「綾ちゃんは何歌うの?」
「えっとね…昔のドラマの主題歌。その歌が大好きでお母さんにお願いしてCD買って貰ったんだ」
「そうなんだ」
(歌詞↓)
あなたのことを ずっと 見ていたよ
でも こんなことしても あなたの心は
ちっとも 私に向かないこと知っているよ
少しでも ちゃんと 向き合っていたいから
もう少し… 待っててくれるかな?
「綾ちゃん可愛い」
「本当。お上手ですわ」
「えへへっ。二人共ありがとう」
「隊長も何か言ったらどうだ?」
「いや、僕はいいよ…」
「じゃあ、次は宝正!」
「えぇ。聖歌でもいいかしら?」
「…あぁ、いいぞ。よく分からないけど」
「入ってるかしらね?…良かった、あったわ」
「宝正さん、何を歌うの?」
「アヴェマリアよ」
宝正はカラオケで選曲したのは、聖歌の「アヴェ・マリア」でキリスト教で聖母マリアを
たたえる祈りの言葉でラテン語では「こんにちは、マリア」「おめでとう、マリア」を意味する言葉
らしい。宝正はキリスト教の学校に通っていたためにこの曲を音楽の授業で習ったという。
「綺麗な歌声ですなぁ~」
「宝正さん、私よりすごく綺麗な声だね」
「ありがとう」
「じゃあ次は…「はいはいはーい、俺が歌う!」
「じゃあ次黒澤な。何を歌うんだ?」
「美月の歌」
「えっ!?」
「黒澤、あの曲は売られてないからたぶん…「あったぞ?」
「「えっ!?」」
「東雲のソロになってるけど」
あれから東雲は「友達と恋の違い」でソロデビューし、益々人気になっているという。
しかし美月が作ったものは彼女のソロ曲としてそのまま収録されたらしい。作詞者は彼女の下の名前
「美月」と表記されていた。
「おっ、デュエットもあるぞ?」
「なんだそれ?」
「二人で歌うってことだ」
「よし、美月歌おうぜ!」
「えぇ…恥ずかしいよ」
「あんな大勢で歌ってたのにそれはないだろ?」
『美月、歌って』
ここで小森がノートとペンを取り出して美月に見せる。
「ほら、小森も言ってるしさ」
「声なし…」
「はい。転送っと」
「って瀬楽!??」
「よし、歌うぞ美月」
「はぁ…まぁ、いっか」
(歌詞↓)
笑い合ったり 泣いたり
悩んだり 怒ったり
昔の自分なら 想定できないことばかり
出会いがあるなら 別れも必ず来るけど
恐れてばかりじゃ なにも始まらないよね?
たくさんの友達と たくさんの人と出会えて
本当に 良かったと心から思うよ
感謝しきれないぐらい 大好きなの
言葉にできないほどだよ?
辛いことも
時には押し潰されそうな時も
今の自分には大切な人達がいるから
大丈夫だよ
もう逃げない
だから その日が来るまでは…
「おぉ~…最後の続きは?」
「それは内緒」
「えぇ~ケチ」
「ケチで結構です」
「さて、小森は声が出ないから歌えないので次は俺…」
すると小森が立ち上がり、美月に近づく。
「ん?どうしたの?」
するといきなり美月の首元をガブッ!と思い切り噛む。
「ぎゃあ!????」
「おぉ~かじったぞ?」
「小森、いったいなにを!?」
事情を知らない美月以外のメンバーは驚いた。
「いっ…いたい…」
「ごめんね、美月」
「えっ?小森君、貴方…声が」
「ちょっと声なし。いきなり首にかじりつかないでよ!こっちにも心の準備ってもんが…」
「ごめんね。でも、皆の歌聴いて僕も歌いたくなったから」
「ほぉほぉ。それで小森、何歌うのか決めてるのか?」
驚いたものの、すぐに通常に戻り瀬楽は小森に次のように尋ねる。
「うん。美月と東雲さんが歌ってた曲を全部歌おうと思う」
「えっ、まさか…CDに入ってた5曲を?」
「うん。全部覚えちゃったから」
瀬楽達にあげたCDには東雲と美月が作詞した2曲の他にカバーソングとしてスズリンの曲や
アニメソングの曲を入れ合計5曲入っていたのだ。
「それより、説明してくれ。どうして声が出るようになったのかさっぱり分からないんだが」
「見て分からないのか?小森は吸血鬼なんだよ」
「いや確かにそうだけど、吸血鬼じゃないよ。ただ血を吸わないと声が出ないだけで…」
「ふむふむ。なるほど、だから菊馬の血を吸ってたんだな」
「黙っててごめんね。血を吸う能力とか気持ち悪いって思われるのが怖くて」
「いや、気持ちは分からなくもないよ。誰だってそういうことはあるんだから」
「そうだぞ。気にするな」
「びっくりはしたけど、もう大丈夫」
「ですが、これからは菊馬さんだけじゃなくて私達の前でもそうしてくださいね?」
「…ありがとう」
「その場合、美月には頑張ってもらわないとな」
「えっ…私補給係なの?」
「頑張ってね。美月」
「声なし、他人事だと思ってぇ…」
それから小森はCDに入っていた曲をすべて歌いきってみせる。
彼の歌声は人を魅了させる力があるようで、歌い終わるまで全員は静かに聴いていた。
容姿に頭の良さと良い、この綺麗な歌声ならアイドル・モデル・俳優でもイケるレベルだ。
「小森、お前アイドルになったらどうだ?」
「えっ?僕が?」
「小森君なら絶対なれるよ。歌もきれいだし」
「うーんー興味ないかな」
だが、彼はそういうのに全く興味がないらしく瀬楽や綾小路の言葉に少し戸惑っていた。
興味がないならやっても仕方ないし、美月は実際にアイドルの世界を経験しているので瀬楽達のよう
に「アイドルになったら?」とは言わなかった。
それから時間が来るまで皆で歌いまくり、また皆でカラオケに行こうと約束して
特殊部隊へと帰ったのであった。




