アイドルの話をしたらとんでもない話になった件
美月は会議室を出て訓練棟にある自分の教室へと戻って来ると、瀬楽・霜月・綾小路がすぐさま彼女の
元へとやって来る。
「おかえり、美月ちゃん。四之宮さん達のお話どうだった?」
「あぁ…うん。なんか護衛の仕事頼みたいってお願いされた」
「おぉ~初仕事だな?おめでとう、菊馬」
「ありがとう瀬楽…」
確かに初仕事だがその内容がアイドルの護衛兼おとりだなんて、いくら仕事とはいえ美月は嬉しくなかった。
「初めての仕事だから緊張するかもしれないけど、美月ちゃんなら大丈夫だよ。私応援する」
「綾ちゃん、ありがとう」
「それで誰の護衛をするんだ?」
「こら瀬楽。それは聞いちゃいけないだろ?」
「いや、別に他人には言うなとかそういうこと言われてないから多分大丈夫だと思うけど」
「だってさ。良いよな、隊長?」
「…まぁ、それなら。でも、ここじゃなんだから別の場所で話そう。人が多い場所での口外
は良くない」
「隊長は厳しいな~」
「バカ、これも正隊員になれば当たり前になってくるんだぞ?今の内にきちんとだな…「はいはい。
分かりましたよ~」
瀬楽はまた始まったよ~この話長いんだよな~と言うことで霜月の言葉を軽く流してしまう。
霜月は真面目すぎるので、特に瀬楽には厳しいのだ。
その日の授業を終えた後、美月の部屋にいつものメンバーが集まり皆に仕事内容を説明した。
「「「「「アイドルの護衛!?」」」」」
『あいどるってなに?』
「小森アイドル知らないのか?」
『知らない』
「あれだろ?テレビでよくボケと突っ込みをやる人達だろ?」
「黒澤、それはアイドルじゃなくてお笑い芸人だ」
「じゃあ、CMで瓦を割ってパフォーマンスする女のことか?」
「おぉ~俺もそれ見たことあるぞ。綺麗にバキン!ってやってたよな?」
「黒澤、瀬楽…よく分からないけど、それも違う」
瀬楽はゲームのことしか分からないというし、黒澤はテレビの人間なんかに興味はないと言っていること
からわざと言っているわけではない。
黒澤が言っていたCMの女性は、アイドルではなくアクション女優と呼ばれる人で実家が空手道場をして
おり空手家としても有名らしく美月もそのCMを見ていたのでよく覚えていた。
だが、彼らにとって彼女はカッコいい女の人にしか見えておらず興味はそこまで湧かなかったらしい。
『なんだかすごい』
「その瓦はどうやって割っているのかしら?」
宝正も知らないのか彼の心を読んで二人に尋ねてくる。
「あぁ、確か…頭で割ってなかったか?」
「違うぞ、黒澤。あれは頭突きって言うんだよ」
瀬楽と黒澤の話を聞いて宝正は「えっ…」と顔を青ざめ、小森は『大丈夫だったの?その人?』と
CMに出ていた彼女を心配する。
「大丈夫だったみたいだぞ。血とか出てなかったし」
「むしろ笑顔だったよな?」と瀬楽と黒澤は楽しそうに話をする。
宝正と小森はその女性はいったい何者なのだろうと言う前に、体の構造はどうなっているのかが気になってしまった。けれど体の構造とか言うならば強化系の能力者と思われてもおかしくはないし、それの方が
まだ納得がいくかもしれないが、女性は残念ながら無能力者である。
瀬楽達のおかげで話が逸れてしまったが、ここで霜月がアイドルについて話を戻す。
「とっ、とにかく今はアイドルについての話だろ?アイドルって言うのは歌やダンスを披露し
たりテレビに出たりして活動する人達のことだよ。最近ではアイドルとかアニメとかがきっかけで日本
が好きになったり、観光で訪れる人達もたくさんいるんだよ」
「へぇ~詳しいじゃん霜月。もしかして好きなアイドルとかいんの?」
「いや、そんなんじゃないよ。ただ…妹がアイドルオタクで」
「隊長、妹がいるのか?」
「あぁ…僕とは2つ下で、結構そういう知識が豊富でな」
面倒見がいい人間にはだいたい下に弟か妹がいることが多いと言われている。
霜月に妹がいるということで美月は、瀬楽や黒澤の面倒を見る理由についてなんとなく分かった気が
した。
「それで誰の護衛をするんだ?有名なアイドルなんだろ?」
「えっと…東雲晴さんって言ってたかな「東雲晴!?」
「おぉ~隊長」
「いきなり大声出すなよ霜月!」
「あぁ、すまん。実は妹がその人のファンなんだ」
「えっ、でも彼女まだ一年も経っていない新人だって…」
「最近になって知ったらしいんだが、可愛い可愛いって今女子中学生を中心に大人気なんだよ」
「へぇ~」
『どんな子?』
「あぁ、妹が送って来た写真があるから見てみるか?ちょっと待ってろ」と霜月がポケットからスマホ
を取り出して写真を見せる。
「はい。これが東雲晴だよ」
霜月は皆に見えるようにテーブルの中心にスマホを置く。
話を聞く限りでは妹との仲は良好らしい。
「おぉ~美人ですなぁ~」
「そうか?俺はそうは見えねぇけど」
「でも、同い年には見えないね?」
「そうだね。確かに…この人の護衛をするのかぁ」
「菊馬さんなら大丈夫よ。自信を持って」
『美月なら大丈夫』
「ありがとう…あっ、そうだ」とここで美月は自分のケータイと妹尾にもらったメモ用紙を取り出して
皆に尋ねる。
「あの…メールアドレスの登録ってどうしたらいいのかな?」
「「「「「えっ?」」」」」
連絡先をもらったものの、美月は登録の仕方を知らなかった。
いや、最近していなかったこともあってやり方を忘れていたと言った方が正しいかもしれない。
「妹尾さんから連絡先を教えてもらったんだけど、登録の仕方分からなくて」
「ほぉほぉ、妹尾先輩やりますなぁ?」
「美月、そんなの登録しなくていいって」
「いや蓮君。仕事に必要な時だけだから、それに登録しないと誰からかかってきたのか分からないし」
正直それだけでもなかったような気がするが、仕事の際もしものことがあれば対応に困るため登録して
いた方が良い。宮木にこのことが知れたらどういうか分からないが、それは後々考えるとしてとりあえず
妹尾の連絡先を自分のケータイに入れたいとケータイ画面をじっと見ていたら瀬楽がこう尋ねてきた。
「菊馬のケータイはガラケーなのか?」
「えっ?がっ、ガラケー?」
「そう。スマホじゃないなってこと」
「瀬楽、ガラケーってなんだ?」と黒澤が瀬楽に尋ねる。
「えっ、ガラケーはガラケーだろ?」
肝心の本人でさえも「ガラケー」がなんなのか分かっていなかった。
ガラケーというのは美月の持っている「ガラパゴス・ケータイ」の略称でガラパゴスというのは実際に
存在する島の名前。独自の進化を遂げた動植物が存在することで有名なことからその名前が付いたらし
いのだ。
「あぁ~もう話をややこしくするなよ。お前達」
「はいはい。えっと登録の仕方はだな…えっと…」
「あぁ、もう僕が教える!」
どうやら瀬楽も登録の仕方を忘れてしまったらしく、言葉に詰まったところを見てられないと
結果霜月が美月に教えることになった。
「…最後に決定を押せば登録完了だ」
「うん。…できた。一度メールしたいんだけど、教えてくれるかな?」
「分かった。まずはメールのところを押して…」
そこまで分からないのかと思うだろうが、あくまでも間違っていないかどうかの確認で教えてもらって
いるだけである。霜月に教えてもらって、妹尾に一度メールを送り返事を待つ事にした。
「霜月、ありがとう。おかげで助かった」
「いや、僕はたいしたことしてないよ」
「…あっ、返事来た。あっ、あれ?」
「どうした?」
「いや…なんか二件来た」
メール内容を確認すると、一件は妹尾でもう一件は宮木からで内容に目を通す美月。
妹尾のメール文→『メールありがとう。登録しておきます』
宮木のメール文→『妹尾からアドレス教えてもらって送った。登録よろしく』
「おぉ~宮木先輩のメアドと電話番号。いいなぁ~」
「って瀬楽、勝手に見ないでよ」
「なんで?いいじゃんか。せっかくだし宮木先輩のも登録しておきなよ」
「言われなくても登録するわよ。えっと…確か」と先程霜月に教えてもらったことを思い出しながら
宮木のメールアドレスと電話番号を入力して登録する。
それから瀬楽、黒澤とも連絡先を交換して一日を終えたのであった。




