美月の保護者として
「ここから近くにある精神科病院は5件。個人経営が4で総合病院が1。これなら何とか絞り込めそう
ね」
「廃墟病院って検索したけど、なんか幽霊スポットのやつしか出てこなかったぞ?」
「やっぱりそこは自分達の足で地道に調べるしかなさそうだな」
話し込んでから約一時間が経過して現在休憩を取っている。
美月は柊先生と共に台所に立ってホットケーキを作っていた。
「なんで俺までこんなことを…」
「いいからやる。先生、早くひっくり返さないとこげちゃいますよ?」
「おぉ。…よっこらせっと!」
柊先生が美月の指導を受けながらホットケーキを焼いている。
ひっくり返ったホットケーキは少しぐしゃりとなってしまったが色はまぁまぁ綺麗だった。
「難しいな…」
「先生、頑張ってください。まだまだ作らないといけませんから」
「美月、俺泣くぞ?」
ホットケーキを焼くだけなのにどうしてこう悪戦苦闘しているのが理解できない。
どの商品にも消費者が分かりやすいように作り方などが書かれてある。そんなに難しくないはずだ。
「先生」
「ん、どうした?」
「先生はどうして私達に協力するんですか?四之宮さんに言われた時、先生は彼の味方になったはずな
のに…なのに、どうしてですか?」
「なんだ、そんなことか」
美月はずっとそのことが引っかかっていた。
正隊員の彼らに任せようと最終的に説得させたのは柊先生自身だったから。なのに届いた検査結果を
わざわざ報告したりして、いったい何を考えているのだろうか。
「確かに俺は昨日は四之宮君の意見に賛成してお前を説得した。でもそれはあくまでも表向きの話であ
って俺の意思じゃない。俺はどちらかと言うと美月と同じ考えだからな。上からの命令に従うままでや
るのは正直に言うとだるいというかさ。人間ってころころ考え方が変わる生き物だ。ついさっきまで
反対してたのに、途中から賛成派になったりしてめちゃくちゃな所があるだろ?俺はそういうのはご
めんだね」
「私もです。でも、自分もそいつらと同じ人間であることに変わりはありません」
「そうだな。めんどくせぇよな~人間ってさ。まぁ、俺は美月に協力するよ。お前が少年を助けたい気持
ちはさっきので十分に伝わった。俺はお前達がやりやすいように出来るだけのサポートをするさ。
これでも美月の保護者だからな」
「…今更、保護者面しないでくださいよ?というか、ホットケーキ」
「あっ!?しまった…うわぁ~真っ黒だ」
「すみません。それ私が食べます」
「いや、俺が食う…」
おしゃべりしている間に焼いていたホットケーキが焦げてしまったが、美月はそれを見て少し微笑む。
これは失敗したからではなく、柊先生の本心が聞けたことによるもの。
「なんか楽しそうだな。あの二人」
「あぁ。なんか本当の親子みたいだな」
瀬楽と霜月がそう言っている中、宝正のみが柊先生をじっと鋭い目で見ていた。
彼女の能力「テレパシー」を使って柊先生の心を読んでいたのだ。
「…本当の親子、ねっ」
だが、宝正はその真実を公開しようとはしなかった。
なぜならこれは美月にとってあまりに衝撃すぎることから、彼女は柊先生から読み取ったものを自分の
心の中へとしまい込んだのだった。
それから美月と柊先生によってホットケーキを全員で食べて、しばらくしてから
各自の部屋へと就寝のために戻ったのであった。




