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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
治癒能力を持つ少年
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美月に立ちはだかる大きな壁

「まったく、お前達はいったい何をやってるんだ」

「「すみませんでした」」


特殊部隊本部に呼び出された宮木と妹尾は待ち構えていた四之宮に怒られてしまう。

承知の上だったとはいえ、まさか本当に怒られることになるなど二人は思っても見なかった。


「まぁまぁ、四之宮君。そのぐらいで許してあげなよ」

「しかし…」

「構わん。それより、お前達には詳しく聞きたいことが山ほどある。まず、なぜあの孤児院に行ったのか

理由を教えてくれ」



宮木達が本部にいる一方、美月達は星野先生に詳しい事情を話していた。


「なるほど。君達はその少年が能力者ということから、あの孤児院に行ったのですね?」

「はい。でも、まさかあんなことになるなんて思っても見なくて」

「私達の方はまた獣に襲われて…宝正さんの能力でなんとかなりましたけど」


美月の話を聞いて、星野先生は宝生へと目を向き彼女に質問をする。

「そうですか。では宝正さんに尋ねます。貴方は…その方とテレパシーを使ってどのような話をしたの

 ですか?」

「まず、私達が孤児院に来た理由などを説明しました。その後に、貴方を傷つけるつもりはないと」

「それで、他にはどんな話を?」

「どうしてこんなことになったのか、と聞くと…薬を飲んですぐに胸が苦しくなったと。それで気が付いたらあんな姿になっていたと言っていました」

「薬ですか。何か毒物を入れられていたのかもしれませんね?それで、目的であるその少年については

どうでしたか?」

「それが、分からないと言っていました」

「…そうですか。分かりました」


「先生。あの方は元の人間のお姿に戻れるんでしょうか?」

「…今、専門の病院で詳しく診てもらっているところです。正直今の段階では分からない」

「そう、ですか」

「テレパシーが通じるなら、宝正さんの力がいづれ必要になってきます。先のことは分かりませんが…

覚悟はしておいてくださいね」

「…はい」


それは、医者に「貴方は余命三か月の命です」と宣告されたような感じだった。

能力によって獣となってしまった人間を現代医学で元に戻せるのかというのは、残念ながらゼロ。

それでも可能性があるなら信じたいということだってあるだろう。でも奇跡などそう簡単に降ってくる

ものではない。


宝正は、自分の能力が役に立てたことは嬉しく思ったが…所詮は心が読めるだけの能力だ。

治せるわけじゃない。どうして自分はこんないらない能力を持ってしまったのだろうと心を痛んでいた。

それを見た美月が「宝正さん、大丈夫?」と声をかけた。


「えぇ…大丈夫よ。ありがとう」と宝正は美月にそう答えるが、美月は彼女が嘘をついているという

ことが分かってしまう。


「これで振り出しに戻っちまったな…」と瀬楽が言うと、星野先生が次のように話す。

「いえ。まだ諦めるのは早いですよ」

「「「「「「えっ?」」」」」」


「話を聞いたところ、孤児院は三件ありそのうちの二件を皆さんは調べた。残りの一件にその少年が

いるという可能性も低くないと思いますよ?」

「でも、そこの孤児院はここから遠い場所にあります。とてもではありませんが、彼がここの孤児院から

私達の住む地域まで来るという理由が分かりません」

「確かに。でも、何か目的があって来たとしたらどうでしょう?例えば学校に通うために電車やバスを

利用してきたとか、もしかしたら…菊馬さんみたいに手伝い、あるいはお使いを誰かから頼まれてやって

来たのかもしれません。それなら、その少年がわざわざ遠くからここまで来るという理由に繋がります。

あくまでも私の推測ですけどね」


星野先生の話を聞いた全員が納得する。

それだったら残りの孤児院Cに少年がいる可能性も高くなる。


「おっ、やっぱりここにいたか」

「先生…と、四之宮さん達も」

柊先生一人だけかと思った美月だったが、彼に続いて四之宮・宮木・妹尾と続いて部屋の中へと

入って来た。


「話はすべて宮木達から聞いた。だが、お前達はもう関わるな。ここからは正隊員である俺達の仕事だ」

「まさか…わざわざそれを言うためにここへ訪ねてきたんですか?」

「そうだ。特にお前はまだ訓練生に入ったばかりだから、きちんと言っておいた方が良いと思ってな」

四之宮は美月に冷たい目で見ていた。美月は彼の言葉に怒りが込み上げてきて今にも爆発しそうだった。


「訓練生になったからといって、自分勝手に行動するのはそこら辺の無能力者連中と変わりない。

 特殊部隊はただの能力者の集団ではなく、いわば第二の警察とも言って良い。なり立ての警察官が

単独行動で事件に立ち向かっても、逆に被害を悪化させればそれだけ世間から非難を浴びることになる。

本気で正隊員を目指しているのなら上の命令、そして正隊員の指示に従え。これはここだけでなく人間社会で生き残るための唯一の手段だ」


「…なにそれ。意味分かんない」

「美月」

四之宮の言っていることに納得がいかない美月は低く小さな声でそう呟く。

それは四之宮の耳にも届いていた。美月を心配して柊先生が声をかけるも、彼女は四之宮に向かって

こう口を開いたのだ。


「言っていることが理解できないって意味じゃない。上の人や正隊員の指示に従えって言うのも分かって

る。だけど…別に訓練生になったからといって自惚うぬぼれているわけじゃない。ここに来る前、学校の先生が全然友達が出来なかった私にこう言ったんです。「自分の殻に閉じこもってないで、声をかけてみなさい。自分から行動することも大切よ」って…。それで私は勇気を出してクラスの一人に声をかけて見ました。でも、断られました」


「何が言いたい?」

「一人で行動しても何も変わらないってことですよ。結局は能力が高い人に人間は寄ってたかって集ま

るんです。能力の低い私になんて人は全然集まらない。むしろ近寄られることを嫌がるんです。「近づくな」「お前といると虫唾むしずが走る」って!」

「美月、落ち着け。四之宮君はお前のためを思って…「私のため?違うでしょ?この人は…いや、私を含めてのすべての人間は…自分のことしか頭にないんだよ」


「待て待て。お前が彼に言いたい気持ちは分かるぞ?少年を助けたい。でも訓練生の自分はこれ以上の

捜査することが認められない。そこが不満なんだろ?」

「…そうよ。私が逃がしてしまったから…私が彼を止めていれば…」

「そうだな。でも、二件の孤児院で女性の遺体や獣が発見された以上は訓練生のお前には危険すぎる。

 もしお前達に何かあったら、誰がとがめられると思う?お前もテレビやニュースを良く見ているから、そこのところは良く知っているはずだ」

「それは…」


美月は柊先生の言葉を聞いて思い出していた。

生まれて物心が付いてから現在までに見てきた数々のニュース、そのニュースで芸能人が語り合う番組

のことを。テレビというものは素晴らしいものだが、時によってはそれにより人の人生をくるわせる。美月は感情的になりやすく暴走しがちなので、他のことに頭が回らなくなってしまうのだ。


「美月、ここは四之宮君達に任せよう。なっ?」

「…はい」

「よし。というわけだから…後は任せるよ」


美月は下を向いて涙を浮かべていた。

悔しかったのだ。自分は結局、誰かにすがって生きているのだと。

結局は四之宮の言った通り、人間社会で生きていくには…上の指示に従わなくてはならないのだと。


自分は、どんなに頑張っても彼らのようにはなれないと、そう感じたのだった。



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