勝手気ままなチーム編成
そして、休みの日の翌朝のことだった。
出かける準備をしていたところに、宮木が美月の部屋を訪ねてきたのである。
「えっ、出かけるの?」
「はい。ちょっといろいろあって…」
「なんだか知らないけど、僕ずっと除け者扱いされてない?というか…ここ最近、あんたの
ホットケーキ食べてないし」
「あぁ。やっぱり貴方の目的はそれですか…」
彼の「ホットケーキ病」は今でも健在。正隊員四之宮チームは結構忙しいようで、非番と美月の休みが
合ったとしても身体が疲れているため、男子寮から保護棟まで歩いて行くのがしんどいのだとか。
「で、どこ行くの?」
「いや、それはちょっと…「今日は非番だから僕付いてってもいい?」
「えっ!?いやそれはダメです!」
「なんで?まさか、あのくそチビとまた二人きりでどこか出かけるつもりじゃないでしょうね?」
「いやその…「おっさん、美月に何してんだよ」
ちょうどいいタイミングで黒澤達が美月を迎えに来て、宮木に威嚇してきた。
「宮木先輩、おはようございます。黒澤、先輩に失礼だろ?」
「えっ?なんでだよ、霜月」
「先輩だからだよ。それにまだ宮木先輩はそんな歳じゃないし、えっと…僕達と同じぐらいにしか見え
ないぐらいにまだまだ若いんだから、その呼び方はやめなさい!」
「霜月。それ褒めてるつもりなの?それともバカにしてるの?」
霜月はどう言葉にしていいか分からずに思ったことを勢いよく言ってしまったが、それはどちらの意味にも取れるので宮木は霜月を問い詰める。
「えっ!?いや、違うんです。なんというかその…」
「宮木先輩も行く?孤児院巡りに」
「「瀬楽!??」」
霜月と美月が瀬楽に向かって叫ぶ。なんで勝手にばらしているんだよ、とばかりに。
「孤児院?ふーんーなるほどね」
「あっ、あの…」
瀬楽がうっかり話してしまったために、美月は宮木に事情を説明した。
正隊員の彼のことだ。きっと反対するに違いないと思っていたが、「じゃあ、僕も付いていく」と
反対どころか付いていくと言い出して、訓練生一同は驚きを隠せなかった。
「それで、二手に分かれて探すんだよね?その能力者の男子を」
「はい」
「…バランス、悪すぎない?瀬楽以外、全員戦闘タイプじゃないじゃん」
「待てよ、おっさん。俺のこと忘れてないか!?」
「黒澤は仕事以外での使用はダメだから省いたの」
宮木の言う通り、瀬楽以外は戦闘向きではない。
霜月は「物質召喚」、綾小路は「望遠鏡」、宝正は「テレパシー」。
黒澤は「人間解体」だが、仕事以外では絶対に使用不可の特殊危険能力だ。
美月に関しては自分の身しか守れないし、回避できるかどうかは己の運次第で決まる。
もし、孤児院の行き帰りで何か事件にでも巻き込まれたりでもしたら…
瀬楽・美月…霜月は召喚次第でなんとかなりそうだが、他のメンバーはどうなるか分からない。
特殊部隊訓練生とは言えども、決して無敵というわけではないのだ。
そこで宮木は妹尾に連絡して急遽来てもらうことに。
「こいつらだけじゃ、何かあった時に対処できないからさ」と宮木から事情説明してもらい、
少年捜索に協力してほしいと頼む。
「っていうかなんで俺なんだよ。四之宮さんとか」
「先輩がこんなこと認めてくれると思う?絶対…「バカかお前は。すぐにやめさせろ」って怒られるに
決まってるじゃない。ずっと仕事してきてるのにそんなことまで分からないの?」
「お前、頼んでいる相手にその言い方はないだろうが」
「妹尾さん、ごめんなさい。でも、私どうしても彼に聞きたいことがあって…それで」
美月は妹尾を真剣な眼差しで見つめる。これはわざとではない。
それは妹尾もよく分かっていた。だが、「近距離でこの目は反則だろう」とも思っていた。
「…分かったよ。協力する」
妹尾は美月に負けた。
その様子を見ていた宮木が、妹尾に「顔赤いけどどうしたの?」と聞いてくる。
「はっ?何言ってんだよ。赤くなんてねぇーよ」
「えぇ~赤くなってるよ?妹尾、もしかして熱あるの?」
「ねぇよっ!熱測ろうとするなっ!」
宮木が右手を妹尾の額につけようとしたが、阻止される。
「でも、もし熱があったら…「うるさいっ!とにかく赤くなってないし、熱もないからっ!」
妹尾が必死に『顔は赤くない』と否定しても、宮木はわざと妹尾にしつこく聞き続けた。
だが、そんなことなんて気にも止めず、美月は「やったー!」と大喜びしていたのだった。
ある意味、彼女は小悪魔なのかもしれない。
これでメンバーは八人。そこで正隊員の妹尾と宮木をリーダーとしたチームを結成する。
妹尾チーム:霜月・綾小路・黒澤
宮木チーム:菊馬・瀬楽・宝正 という形になった。
ちなみに黒澤と宮木がいると喧嘩になりそうということで妹尾チームに無理やり入れさせ、
美月は絶対に入れるということから宮木チームに入れられたという勝手気ままな編成に、妹尾は
「どうぞご勝手に」と慣れているせいか軽く承諾するのであった。




