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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
治癒能力を持つ少年
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訓練生が清掃活動をするなんて聞いてない

「ったく、どうして俺達がこんなことしなくちゃいけねぇんだよ?」

「本当だよな。これだったら先生と勝負した方がましだよ」

「蓮君。これも実技なんだから、文句言わずにやるの」

「そうだぞ。瀬楽も口じゃなくて手を動かせ」

「「はーい」」


訓練生達は清掃活動のため、午前中の一時間を草むしりやゴミ拾いに費やしていた。

美月は始めは黒澤と行動していたが、綾小路が霜月と瀬楽を連れて来て一緒にやろうと誘われたのだ。

ちなみに黒澤は霜月と瀬楽に対しては初対面で、綾小路から紹介を受けた後「美月が一緒なら良い」と承諾して現在に至る。だが、性格が似ているためか黒澤は瀬楽と意気投合してあっと言う間に仲良くなっていた。


「それにしても、なんでこんなに散らかってるんだ?」

「ここは不良の溜まり場らしい。だから、お菓子の袋とかタバコの吸い殻とかをそこら辺の道端に捨てて

いるんだよ」

「ふむふむ、なるほど。そういうことか」

瀬楽は霜月の解答に納得した。霜月が瀬楽担当、美月が黒澤担当で指示したこともあり早く片付けること

が出来た。


「よし、ここはだいたい綺麗になったな。次の場所に移動しようか」

「えぇ~まだやるのかよ。俺疲れた…」

「隊長。俺も~」

「蓮君…つべこべ言わずに働いて」

「瀬楽、つべこべ言わずに働け」


「うおぉ、隊長と菊馬が鬼に見えるぞ。しかも同時に同じことを言うなんて…」

「俺も全くお前と同じこと思ったぞ、瀬楽」

「とっ、とりあえず次の場所に移動して皆で掃除しよう!そしたらすぐ終わっちゃうよ!行こう!!」


すると、空気を読んでのことか綾小路が瀬楽と黒澤の手を掴んで前へと歩き出す。

そんな綾小路の姿を見て「やっぱり綾には敵わないな」と霜月は少し笑いながら彼女を見ている。

美月はそんな霜月の様子を見て、「ひょっとして綾ちゃんが好きなの?」と直接本人尋ねてみることに

した。すると彼の顔はたちまち真っ赤に染まってしまい―――。


「えっ、あっ…いや。別にそんなんじゃないよ。確かに綾は真面目だし可愛いけど…決してそんな目で

見てるわけじゃあ」

ただ好きなのかと聞いただけなのに、この動揺ぶりを見ると完全にあれだなと美月は思う。

というか分かりやすかった。誰が見ても「好き」だと丸分かりであったが、美月はそんな彼に対して

次のように話した。


「そうなんだ。ごめんね、変なこと聞いちゃって」と美月はこれ以上彼に追究ついきゅうすることを

やめて綾小路達の後を追うために歩き出す。

霜月は逆に綾小路に対する思いを聞いてこない彼女の姿を、ただぼーっと見つめて動こうとしなかっ

た。それに気づいた美月は足を止めて彼に振り返って、彼に声をかける。


「何してるの?早く次の場所へ移動しないと。三人だけじゃ終わらないよ?」

美月の言葉に霜月は「あっ…ごめん。そうだな、早く移動しよう。綾だけだとあの二人の面倒見るのは大変だからな」と言うと、すぐに綾小路達がいるところまで走って向かっていったのだった。

その姿を見た美月は、彼の背中を見てあることを思ったが、それをあえて口には出さずに心の中にしまい

込む。だが、これだけは口に出さずにはいられず他人には聴こえない小さな声で彼女はこう呟いた。


「…上手くいけば良いけどね」


それは、霜月に対する励ましの言葉なのか…それとも、現実と理想はまた別だというネガティブ思考から

生まれたある意味の「偏見へんけん」なのか、それは美月本人にしか分からない。

だが彼らは美月と同世代。しかも、訓練生という中で知り合い初めて仲良くなった「友達」だ。

事情はともあれ、こうやって一緒に行動してくれる彼らのことを美月はとても嬉しく思っているし、感謝

もしている。けれど、いつまで続くか分からないこの関係を美月は不安にも感じている。


だから、先程みたいに相手が否定しているのであれば、あえて深く聞くことは絶対にしない。

もちろん状況にもよるが、美月はそう心に決めている。


すべては―――

自分を守るためでもあり、友達を守るためでもあるのだから。



「美月ー!!何してるんだ!?」

「菊馬、走ってこーい!」


「今行くよ!」

 

美月は瀬楽と黒澤に呼ばれて、すぐに走り出した。

そして次の清掃場所へと五人で仲良く向かっていったのだった。









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