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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
黒澤蓮の過去と能力
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黒澤蓮は二重人格ではなくなった

星野先生が様子を見に来たのは、妹尾が柊先生の部屋を訪ねてきて彼の代わりに対応した際のこと。


「宮木の制御装置の調子が良くないとのことで、柊先生に直してもらいたいのですが…」

「そうですか、分かりました。ところで…その宮木君はどこに?」

「一緒に来たんですけど、菊馬さんと一緒にいる男子が気に入らないとかで俺に押し付けて追いかけに…」


それを聞いた星野先生は嫌な予感がした。

表の人格の黒澤ならともかく、今は裏の人格。もし喧嘩でもしたら例え正隊員だとしても彼が能力を使え

ばあっという間に仕留められてしまう。


「柊先生!」

「あぁ~はいはい。いってらっしゃーい!」

忙しいのか柊先生は作業しながら星野先生に手を振る。それを聞いた星野先生は妹尾から受け取った制御

装置を柊先生の邪魔にならないような分かりやすい場所へと置いて部屋から出る。


「妹尾君、彼はどっちに行きました?」

「あぁ…あそこの階段を下りたのでたぶん下の階かと」

「分かりました。ありがとう」と妹尾に礼を言うとすぐに近くの階段から下の階へと下りて行った。


一人残された妹尾は黒澤の能力を知らないために、「なんであんなに急いでるんだ?」と彼の取った

行動に理解出来ず立ち尽くしていたのであった。



星野先生は階段を下りるとすぐに美月達を発見することが出来た。

彼の予想通り、黒澤と宮木が睨み合っており美月が止めようとするも全く効果なしでお手上げ状態に

なっている。来て良かったと自分で思った星野先生は彼らの方へと歩み寄る。


「君達、何してるんですか?」

「ん?先生…どうしてここに」

先に星野先生に気づいたのは黒澤だった。


「妹尾君から話を聞いて嫌な予感がしましてね。心配になって様子を見に来ました」

「あいつ、余計なこと言いやがって…」


「宮木君、彼の能力は特殊危険能力とくしゅきけんのうりょくに分類される「人間解体」の超能力者

 なんですよ?刃物を相手に一度触れさせるだけで、あっという間に身体を分解できます」

「はっ!?なにそれ聞いてない!?」


 宮木は星野先生の話を聞いて驚く。

 だが美月は実際にやられそうになっていたため、宮木はまだましな方である。

 

「ですから、彼を怒らせない方が良いですよ?」

「そうだぞ?怒らせない方が身のためだぜ、おっさん」

「だからその呼び方やめろよ!僕、まだそんな歳じゃないんだからっ!」

 

「とにかく喧嘩はやめてくださいね?黒澤君」

「…分かったよ」

「では私はこれで失礼します。宮木君、妹尾君が待ってますからご一緒に戻りましょう」

「はーい」

 

宮木は仕方なく星野先生と共に妹尾が待つ柊先生の部屋へと戻ることにした。

それを聞いた黒澤は宮木に分からないように右目下瞼を人差し指で引っ張り「べー」とした後、美月に

振り返る。


「よし。邪魔者はいなくなったし、行こうぜ!」

「えぇ…でも」

「すぐ帰ってくるから良いだろ?」

「…まぁ、それだったら「よし、じゃあ早速行こう!」


黒澤はテンションが上がって、美月の腕を引っ張り走って行く。

美月は完全に黒澤の裏人格に振り回されっぱなしで、まるで子守りしている気分だなと思いながらも

彼に着いていくことにしたのであった。


外へと出た後、美月は黒澤に尋ねてみる。

「ところで、これからどこへ行くの?」

「ゲーセンだよ。ゲーセン!俺、行ったことないんだ」


「行ったことがない」と言っても、本来この時間帯では裏人格の彼は活動停止し表の人格で活動してい

 る。話を聞くところによればお互いの記憶は共有していないらしいので、ゲーセンに行ったことがない

と言うのは決しておかしなことではないのである。


「そっか。私は小学生の頃以来行ってないな…昔はよくお母さんと行ってたんだけど」

「美月、ゲーセン行こう!俺とゲーセン!」

「あっ…うん。でも、場所分かるの?行ったことないんでしょ?」

「大丈夫。これで検索したらパッとでてくっから!」


黒澤が取り出したのは黒いスマートフォン。

美月は小学生の頃に防犯のため持たされていたことがあったが、柊家に引き取られた後は家にいることが

ほとんどだったために携帯電話を所持して使用することはほとんどない。

現代の携帯電話と言えば、黒澤が持っているスマートフォン。略してスマホが当たり前。

共働きの家庭が多い中、小学生の頃から連絡手段のために持たす親が増えていると言われているが、

ゲームや無料通信といった便利機能に子供から大人まで夢中となる「スマホ依存」が発生したりと問題が

いくつか多いらしい。


このスマホについて、テレビのニュースで何度も聞いていた美月は黒澤が持つスマホを見て、

「これがスマホ…」と恐る恐ると彼の慣れた手つきで触るスマホに目が釘付けとなっていたのであった。


「よし、見つけたぞ。ちょっと遠いけど…って、どうした?」

「あっ。いや、なんでもないよ」

「ん?まぁ、いいや。行くぞ、美月」


黒澤はそういうと美月の腕ではなく、手を握って歩き出す。

「蓮君…手」

「邪魔がいないうちにこういうことしとかないと後悔するからなっ。それに、一度でいいからこうして

 手を繋いでみたかったんだ」


それは恐らく表の彼が関係しているのだろう。記憶のほとんどでなかったにしても、それは表の彼が

夢見ていた…成し遂げられなかったことを今の彼は実現させようとしているのかもしれない。

美月は勝手ながらもそう解釈した。なぜなら、今まで生きてきた中で初めて同じような苦い経験をした人間だからこそ考えられることだから。美月は彼に繋がれた手を振り切ろうとはしなかった。


歩いて約20分ほどして、目的地のゲームセンターに到着する。

「うわぁ~すげぇ!でかいぬいぐるみとかあるじゃん!」

黒澤は到着してすぐにはしゃいでいた。


「美月、これとかどうだ?」

「えっ?これ…」

黒澤が美月に尋ねたのは、茶色で目がぐるぐると渦巻うずまき状でお化けのような姿をした奇妙な

ぬいぐるみだった。美月は「こんな怖いぬいぐるみ、誰が取るの?」と疑問に思ったのであった。


「なぁ、美月。これどう思う?欲しいか?」

「いや…これはちょっと。怖くない?」

「そうか?俺はむしろ可愛いと思うけどなぁ~美月がいうならしゃーないか」


黒澤の口から初めて「可愛い」と言う言葉が出てきた。

美月はそれを聞くと「えっ、これのどこが!?」と本人に言いそうになりかけたが、それを慌てて両手

で口を塞いで阻止する。間一髪かんいっぱつである。


「じゃあ、美月。どれか好きなの選べよ?俺が取ってやる」

「えっ、いいの?じゃあ…あっ、あれとかどうかな?」


美月が悩んだ末に見つけたのは、昔から今現在にかけても大人気キャラクターのぬいぐるみ。

ちなみに手のひらサイズの小さいもの。


「へぇ~あんなのが良いのか?」

黒澤は大きい方が良かったのか少々不満げだったが、美月が選んだぬいぐるみのある場所へと移動し

財布から100円を一枚取り出してやり始める。


「…よし。ここだ」

ターゲットのぬいぐるみへと慎重にボタンを操作する。

すると、見事にぬいぐるみを掴みとるこに成功。だが、一つだけでなく二つも取れてしまった。


「蓮君、すごい。二つも取れたよ!?」

「こんなの簡単だから取れただけだよ。…なんか色違いだけど、どれがいい?」

二つは同じキャラクターだが、服の色がピンクと紫とで違っていたのだ。


「じゃあ、ピンクで。二つ取れたからお揃いだね」

「…お揃い」


たまたま二つ取れただけであって自分は欲しいというわけじゃなかった黒澤。

だが、美月が「お揃いだね」と言われた際はよく分からないものの少し嬉しいという気持ちになり、

彼女に「次は何を取ってほしい?」と何度も尋ねたのであった。


だが、暗くならないうちに美月が帰ろうということで約二時間ほど滞在し保護棟へと戻ることに。

もちろん帰りも彼女の手を繋いで。


「今日はありがとう。久しぶりに遊んで楽しかった」

「あぁ」

「ん?どうしたの?」


美月は黒澤の様子がおかしいことに気づき、本人に問いかけると―――。


「俺、もう消えちまうんだ」

「えっ?消えるって…どういうこと?」

突然彼が言い出した言葉に理解出来ない美月は混乱していた。


「俺は黒澤蓮の苦しみから生まれたもう一つの人格で、本当の黒澤蓮は引っ込み思案の弱虫な人間。

 二年前のあることがきっかけで俺は、実の両親とクラスメイトの女子、そしてそいつの両親を殺した。

 すべては長年積み重ねたストレスと、俺の初告白を思い切り振って周りに言いふらし笑い者にされた

 恨みからの復讐。俺は表の黒澤蓮のストレスを解消するため…いや、自分の身を守るために出来た存在

 で、いつか消えなきゃいけない時が来るって薄々思ってたんだ」

 

「そんなぁ…それじゃあ蓮君、死んじゃうの?」

「まぁ、そういうことになるかな」

「なんとかならないの!?どうすることもできないの?」


「たぶん無理だと思う。でも、表の人格が残るから」

「表でも裏でも蓮君に変わりはないよ!そうだ、柊先生になんとかしてもらえるか聞いてみる」


「美月っ、うっ…」

美月が黒澤の手を引っ張り急いで保護棟にいる柊先生の元へ向かおうとすると、突然黒澤がその場に

座り込んでしまう。

「ちょっ、どうしたの、蓮君?大丈夫?」


「わりぃ…眠気が出てきた。ずっと保ってきたけど、もう限界が来たみたいだ」

黒澤は人格を保つために表の人格を出ないようにしていた。そのため彼は一切睡眠を取っていないのだ。


「だめだよ、今寝ちゃったらもう…」

「Zzz」


美月の声は彼には届かず、黒澤は眠りについた。

それから柊先生を呼んで黒澤を部屋へと運び込み、彼をそっとベッドへと寝かせるのを見守ってから

美月は自分の部屋へと戻ったのであった。



翌朝六時、いつものように綾小路と一緒に教室へと向かった美月。

教室へ入り自分の席に着くと、彼女は隣の席をじっと見つめる。


もう裏の人格の彼には会えない。

これからは表の…いや、本来の彼と仲良くしていこう。と、心の中で決意した直後だった。


「おっ、おはよう」

「ん?」

そんな美月に、恐る恐る声をかける一人の男子生徒。美月は彼の方を向いて「あぁ…おはよう」と言いか

けた時、美月は彼を見て驚いた。


「美月」

そこにいたのは、黒澤蓮だった。

だがそれで驚いたのではなく、彼が美月のことを「菊馬さん」ではなく「美月」と呼んだことに驚いた

のだ。


「蓮君?貴方…死んだんじゃなかったの?」

「えっと、なんか起きたらこうなってた。俺にもよくわかんねぇけど」

「それじゃあ、表の蓮君が死んじゃったの?」

「いいや。生きてるよ?まぁ、裏表も黒澤蓮だからな」


ややこしい話だと思うだろうが、彼の言っていることは間違っていない。

美月は頭が混乱しながらも黙って彼の話を聞いていた。


「そういうわけだから、これからもよろしくな。美月」

「…うん。よろしく」


こうして、黒澤蓮は二重人格者ではなくなった。

しかし特殊危険能力「人間解体」の能力がなくなったわけではないので、彼はこれからも保護組訓練生と

して美月と共に訓練生活を送るのである。



 





 



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