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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
黒澤蓮の過去と能力
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二重人格というのは実は仮の能力名だった

美月は柊先生に歩きながら、あることを尋ねてみた。


「先生、まさか黒澤君にもお手伝いとやらをさせるんですか?」

「そうだ。そのためにはお前の能力も必要になってくるから、お前の協力も必要なんだ」

「二重人格だと星野先生と宝正さんから聞きましたけど、それって…本当に能力に入るんですか?」

 

 それを聞いた柊先生がふと足を止めた。そして美月に振り向いてこう話し始めたのだ。

「いや。『二重人格』っていうのは、本来一般的には隔離性障害かくりせいしょうがいと呼ばれるもので、これらは幼少の頃からのいじめ・虐待などによる精神的ストレスによることが原因だと挙げられている。その隔離性障害の中で重いのが隔離性同一性障害かくりせいどういつせいしょうがい。黒澤蓮は、幼少期から12歳にかけて両親から虐待を受け、学校では引っ込み思案で弱虫だということでいじめも受けていた。だが、その頃はまだ二重人格ではなかったらしい。いや…まだ姿を現してなかっただけなのかもしれないがな」


「当時、小学六年生の彼にはずっと片想いしていたクラスメイトがいた。卒業間近の際に思い切って告白

 をしたら…あっさり振られてしまったそうだ」

「えっ?ちょっと待ってください。まさか…それが原因で?」


美月は自分の過去を思い出していた。そして、あることを想像したがまさかそんなことはしないだろうと

考えてあえて口には出さず、振られたことがきっかけで裏の人格が目覚めたのかと柊先生に尋ねたのだ。


そして帰って来た答えは…

「そうだ。それがきっかけとなって、裏の人格が目覚めちまったと考えられる。それに…告白した当日に

 相手は黒澤に告白されたことをばらしていたと当時のクラスメイトが証言している。相当大きな爆弾

 だ」


爆弾と言うのは大げさかもしれないが、でも、ある意味では「爆弾」と言っても間違いではないかもしれ

ない。


「そして、その日の翌朝に黒澤蓮の両親とその告白した相手・その両親が刃物でバラバラ死体となって

 発見された」

「っ!?そんなっ…」


美月が予想していた通りのことを彼はしていた。

今朝の彼によるカッターナイフの攻撃は、傷つけるというよりも息の根を止めようとする…殺人鬼のよう

な目をしていた。それに美月の危機回避能力が発動したことがなによりの証拠。


「事情聴取と近隣の監視カメラの映像で、彼がやった犯行であると断言できたが…彼にはその記憶がなかったんだ。どうやら記憶の共有はしていないらしい。でも、それだと彼がどうして殺人に及んだのかが

分からなかった。これはあくまで推測だが…もしかしたら、不安や恐怖のストレスには敏感に反応して

その記憶のみが裏と共有できたとしたら、裏の彼は気に入らない相手に手を出そうとするのは十分に有り

得る話だと。とまぁ~とりあえず彼は一度、一般の施設に引き取られたが…夜中に目を覚ました途端に暴れ出して、お手上げ状態ということでここの保護施設に引き取られた。それから詳しく彼の生体に関して

の調査を行った結果…」


「黒澤蓮は二重人格者で、裏の人格は自分の手に所持する物により人を一瞬で分解することが出来る「人間解体」の能力者だと判明した」

「それって、例えば…カッターナイフとか?」

「そうだな。刃物を所持して相手に一度でも触れることが出来れば、あっと言う間に身体はばらばらに

 なるだろう」


背筋がぞっとした。

彼は自分にそんな恐ろしいことをしようとしていたとなると…怖い。ものすごく怖い。


「菊馬さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫…です」


「だがその能力をそのまま公開したら、今のお前のように怖がって近寄りもしないだろう。だから、皆の

 前では「二重人格」ということにしているってわけだ。これなら、ただ人格が変わるだけで済まされる

 からな」

「先生…それを私に話して良かったんですか?」

「お前は大丈夫だよ。危機回避能力があるんだし、お前はそんなことしないって知ってるからな」


 なんだろう?嬉しいような…そうでないような。


 「さて。とりあえず迎えに行くとしよう。やることがたくさんあるからな」

 「はい…先生」

 「まぁまぁ。そう深く考えるなよ?気楽に行こうぜ!」

 「そんなこと出来たらとっくにしてますよ。先生は気楽しすぎです」

 

 「おい、美月…そんな言い方はないだろう?」

 「すみません、先生。とにかく案内してください。私、彼の部屋分かりませんから」

 「おっ、おう…そうだな」


 こうして黒澤蓮の過去と能力を知ったことで、美月達は彼の部屋へと向かうのであった。





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