実技は別だなんて聞いてない!
桐島と永田が美月に話しかけたことがきっかけで、他の生徒も美月に恐る恐る
ではあるが声をかけて自己紹介をしてきた。
聞いてみると、クラスは決して能力別に分けられているわけではないらしく
ここにいるのは美月が見学した際にいたクラスで、全員が美月のことを知って
いた。だから霜月や瀬楽に綾小路、そして紫野もいる。
これで美月は、どうして桐島が自分のことを知っていたのかが理解出来て
すっきりした。
「授業ってやっぱり、能力についてとかなの?」
「いや、一般授業だよ。能力に関しては実技でたまにやるくらい」
「そうなんだ?ついていけるかな…」
霜月の話を聞いた美月は、少々不安を感じた。
だが、その心配は無駄に終わる。
「大丈夫だよ。たぶん瀬楽よりはいけると思うから」
「隊長、それどういう意味だ?」
「あぁ…そうだね。確かに」
「菊馬、お前まで何納得してるんだよ。傷つくぞ」
美月は霜月の言葉に納得してしまった。
これまでのことを見ている限り、あくまでも想像でしかないが恐らく授業中
は居眠りしてて実技では活発化するタイプだと思われる。
テスト一週間前でも、堂々と遊んでいそうだし…むしろ覚えようとしても
その日のうちに忘れていそうだと、美月は彼がいるなら大丈夫だと少しだけ
不安が取り除かれたのであった。
授業は一般の学校と同じで基本6時間授業。
一般授業というのは、国語・数学・英語・理科・社会の5教科のみで
美術・音楽・家庭科などの授業はない。
一般と実技で3:3に分けられ、月・水・金は午前で火・木は午後から実技
授業が行われる。そのため午前の実技が嫌だという訓練生はたくさんいる。
今日は火曜日なので実技は午後から行われる。
一般授業が終わり、次はいよいよ実技に入る。
だが、美月は瀬楽達と一緒に実技を受けずに別の場所で実技を行うことに
なった。それは朝のHRの際に担任から「菊馬は実技の際、保護棟に戻って
実技の授業を受けてもらう」と言われたからである。
どうして自分のみが保護棟に戻って実技の授業を受けなければならないの
かと…正直、はみ出し者にされた気分になった。
「美月ちゃん、大丈夫だよ。だから落ち込まないで」
「そうだぞ、菊馬。一般では俺達と一緒なんだから」
「…そうだね。じゃあ、行ってきます」
「「「いってらっしゃい」」」
瀬楽達に見送られて、美月は一人保護棟へと走って向かって行ったので
あった。
保護棟に戻ってきた美月は、ある部屋を探していて道に迷っていた。
「あれ?どこだ??」
「あれ、菊馬さん?」
「ん?あっ、星野先生」
「もしかして道に迷ってしまいました?」
「…はい。柊先生のいる場所まで行きたいんですけど、まだ来たばかりで
分からなくて」
「案内しましょう。こちらへどうぞ」
星野先生がたまたま通りかかって助かった美月。
柊先生がいると思われる部屋へと案内された。
そして、ここでも暗証番号が必要で慣れた手つきで入力し解除してようやく
扉が開かれた。
「柊先生。菊馬さんが来ましたよ」
「おおっ、すみませんね。これを完成させたら迎えに行こうと思ってた
ところだったんですよ」
相変わらずのマイペースは変わらないな。と美月は思った。
しかしここをぐっと堪えて、美月は聞きたいことを彼に尋ねた。
「先生、事情を説明してもらえますか?なぜ、私だけここに呼ばれたのか」
「言っただろ?俺の手伝いしてもらうって。そのためだよ」
「本当にそれだけですか?」
美月は分かっていた。彼がそれだけのために自分がここに呼ばれたわけでは
ないと。
「そこはぼちぼちするよ。それより彼を迎えに行こう」
「彼?」
「黒澤蓮だよ。もうすでに会ってるはずだ」
「黒澤…どうして彼が?」
「後で話すよ。星野先生、お時間の方は?」
「大丈夫ですよ。お供します」
「そいつは助かります。美月、行くぞ」
「あっ、待ってください。先生!」
柊先生の後を美月が入って追いかける。その姿を見て星野先生は「本当に
仲が良いのですね」と小さな声で呟いてから、美月達の後に続いて部屋から
出たのであった。




