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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
黒澤蓮の過去と能力
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二重人格の黒澤蓮

 翌朝六時。美月は起床したと同時に、インターホンの呼び鈴が鳴る。

 ピンポーン~。


 「ん?誰だろう…」

 ベットから出て寝間着のまま、玄関扉へと急ぎ足で向かった。

 

 「はい。どちら様ですか?」

 「あっ。私、綾小路です」


 外の扉に仕掛けられたカメラから綾小路の姿がテレビモニターに映し出され

 る。

 本来なら一般住宅やマンションなどの防犯で多く見かけるこの機能をどうして

 施設内であるにも関わらず設置されているのか。


 それはのちのち分かるとして、美月は綾小路の姿を確認するとすぐにロック

 を解除して扉を開けた。


 「おはよう。星野先生に頼まれて迎えに来たよ」

 「あぁ~そうだったんだ。ちょっと待ってて、すぐに着替えてくる!」

 

 美月は綾小路にそう告げた後、すぐさま部屋に戻って寝間着から制服へと

 着替えた。


 綾小路は少し早目に起きて迎えに来ただけなのに、そんなに急がなくて

 いいのにと思ったが、本人に気を遣って黙っていることにしたのである。


 ちなみに訓練生と正隊員の制服はそんなに変わらない。

 違いがあるとすれば、勲章くんしょうと呼ばれる刺繍が付いているか

 いないかぐらいである。これは特殊部隊の活動により条件に満たした功績を

 成し遂げた者に授けられるもので、美月の知り合いでは今のところ四之宮のみ

 が勲章を持っている。

 

 仮にもこれは特殊部隊での勲章のため、国が認めた偉大なるありがたい

 勲章とはまた別のもの。特殊部隊は言わば自衛隊の仲間のような扱いでは 

 あるが、未だに認められない部分も多いためそこのところは難しいのだ。


 美月は部屋を出て、綾小路と共に教室へと向かって歩いていた。

 「昨日は本当にびっくりした。まさか菊馬さんが入ってくるなんて思わな

 かったから」

 「あぁ、うん。私もびっくりしたよ」

 まさかいきなり教室に入るとは思わなかった。


 「綾小路さんってここに住んでるの?」

 「うん、私は5階の部屋に住んでるよ。あと、私のことは綾でいいよ?」

 「分かった。良かったら、私のことも美月って呼んで。綾ちゃん」

 「うん。美月ちゃん」


 こうして、美月と綾小路は少し距離が縮まった。

 教室に到着すると、何人かの生徒が集まっていて美月のことをじろじろ見て

 ひそひそ話をする。


 「昨日の今日だから。気にしなくていいよ」

 「あぁ…うん」


 保護組ということだから、突然知らない人間が入ってきて困惑しているのだ

 ろう。それは美月も同じであった。訓練生に入ったはいいものの、これからが

 大変だということに、少し不安になっていく美月に一人の女子生徒が声を

 かける。


 「おはようございます。菊馬美月さん…よね?」

 「あっ、はい。そうです」

  

 声をかけてきたのは、綺麗なクリーム色のロングヘアーで切れ長な目が

 特徴の女子。

 

 「初めまして、私は宝正奏ほうしょうかなで。保護組のクラス委員長を

 しています」

 「どうも、菊馬美月です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 この人がクラス委員長…それにしても綺麗な人だな。

 

 「うふふっ」

 「えっ?」

 「あっ、ごめんなさいね。あまりにもストレートに思われるものだから

  つい」

 

 美月は彼女が何を言っているのかが理解できなかった。

 すると隣にいた綾小路が美月に説明する。


 「宝正さんは心が読める能力者なの」

 「えっ!?あっ…ごめんなさい。あまりにも綺麗でっ。でも、初対面なのに

 そんなこと言ったらどうだろって思って…そのっ」

 「落ち着いて落ち着いて。分かってるわよ」


 宝正奏の能力は、テレパシーで正確には超能力者である。

 クラス委員長を任されているのは、しっかりしているということだけでは

 なく、何かあった際に相手の感情を読み取ることが出来て素早く対策する

 ことが可能ということもあるからで本人は最初乗り気ではなかったが

 自分にしか出来ないということで渋々承諾したという。


 「分からないことがあったら、どんな些細なことでも聞いてね?

 といっても、ここでしか会えないかもだけど」

 「はい。ありがとうございます」

 「席のことは聞いてないわよね?菊馬さんの席はあそこ」

 

 …って、どれ?


 「案内するわ。こっちに来て」

 「あぁ…ごめんなさい。つい」

 「気にしなくていいわ。これは癖だから」


 だとしても、宝正にとってこの能力はかなりストレスの素。

 聞きたくないのに他人の心を読んでしまう彼女にとって、集団行動は地獄の

 ようなものであった。


 「ここが貴方の席よ」

 「ありがとうございます、宝正さん」

 「どういたしまして。じゃあ、またね」

  

 宝正は美月に笑顔で言うとすぐに自分の席へと戻って行った。

 

 「じゃあ、もうすぐしたら先生来るから私も席に着くね」

 「うん。またね」


 そして、数分後に星野先生がやって来た。


 

 「はーい。皆さん、席に着いてくださーい」

 星野先生の合図で、先程まで喋っていた生徒達が慌てて席へと着いた。

 それを見て星野先生は周りを見渡し、美月の隣の席へと目を止める。


 「おや、まだ来てない人がいますね?…ん?」

 星野先生が足音に気が付き、すぐに教室の外を見るとそこには背の低い

 小さな男子生徒が立っていた。


 「おはようございます、黒澤君。さぁ、早く席に着いてください」

 黒澤と呼ばれた男子生徒は、無言のまま星野先生の指示に従い教室の中へと

 入って行く。先生の後ろを通り、美月の隣の空いている席へと近づいていく

 と―――

 ドクン!!


 「危ないっ、逃げてっ!」

 宝正の声が綺麗に教室内で響き渡った瞬間、男子生徒は美月に向かって

 隠し持っていたカッターナイフを首元へと刺そうとした。

 しかし、危機回避能力により美月は席を離れて彼の腕をすぐさま掴み

 机へと思い切り押し込むように抑え込んだ。


 「いきなり物騒な挨拶ですね?どういうつもりですか?」

 美月は彼を悪者の目で彼を見て問いかける。

 こんなことされて普通に対応するわけもなかった。


 「離せっ、痛いっ…痛いって」

 「離す前にそのカッターナイフを捨てなさい。でないと離しませんよ?」

 「分かった。分かったから離せって!」


 彼はカッターナイフを床に落とした。それを確認し美月は彼を解放。

 すぐさま床に落ちたカッターナイフを回収する。


 「いやぁ~お見事。黒澤君、ダメですよ?彼女は今日からクラスメイトな

 んですから」

 「クラスメイト?知らねぇよ、そんなこと」

 「君は知らないかもしれませんけど、昨日の君は知っていますよ?とにかく

 今は仕事じゃないんですから、人に刃物を向けるのはやめなさい」

 「ちぇっ。悪かったな」


 黒澤は納得していないようだった。

 それは美月も同様で。なんなのこいつは…と怒りを覚えていた。


 「菊馬さん、彼は黒澤蓮くろさわれん君。能力は二重人格で、今の彼は

 裏の人格なんですよ」

 「にっ、二重人格?」

 

 どういうこと?と美月が思っていると、それを読み取った宝正が星野先生の

 代わりに説明をする。


 「黒澤君は昼間と夜とで人格が変わってしまうのよ。本来の彼は大人しくて

 引っ込み思案な性格なんだけど、夜に就寝する際には裏の人格が出て今の彼

 のようになってしまうの」

 

 「ありがとう、宝正さん。そういうわけですので、どうか彼を許してあげて

 ください」

 「…はい」

 「では、三人共席に着いてください」

 

 それから美月達は席に着いて、星野先生の話を約一時間ほど聞いたのであっ

 た。

 

 



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