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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
それぞれのクリスマス・イヴとその後…
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育巳と実凛のクリスマス・イヴ


  

  同日、12月24日の午後8時。

  特殊部隊正隊員女子寮のある人物の部屋に、大庭育巳はいた。


  「育巳ちゃん、メリークリスマスっ!!」

  「あぁ…はいはい。メリークリスマス」

  その人物とは、小山守の妹・実凛。彼女は仕事終わりの育巳を捕まえて、自分の部屋へと連れ込ん

 だのである。


  『あぁ…早く帰りたい』

  

  「育巳ちゃん、何から食べる?チキン?それともポテト?」

  「チキンから食べる」

  早く帰りたいとは思うものの、食欲には敵わなかった育巳である。


  「よっしゃっ!じゃあ、あーん…「自分で食べます」

  実凛が食べさせようとチキンを手に取るが、育巳に拒否される。

  「えぇー!?あーんしたいよっ!あーんがしたいっ!」

  だが拒否されたところで、素直に聞き入れる彼女ではない。

  子供のように駄々をこね始めた。

  「そんなにしたいなら兄貴とやれよ」

  兄貴というのは、実凛の兄・守のことである。

  

  「えぇ~なんで兄ちゃんとやらなきゃいけないのさ」

  さすがにこの歳になり、兄と妹のラブラブカップル的なことは卒業済み。だがそれは、本人の頭

 の中だけであり、肝心の兄は妹達が自分に対し恋人のように接してきても『お兄ちゃんだから許さ

 れること』と割り切っている。


  「もしかして、育巳ちゃん達はしてるの?」

  ここで実凛からの逆質問タイム。

  育巳はそれを聞いた瞬間、「はっ!?そっ…そんなわけないだろっ!」とすぐに否定する。

  あまり大声を出すと苦情が来てしまうので声は抑えていたが、それでも良く分かるほどの動揺ぶ

 りだった。

  「だよねぇ~。私達もう子供じゃないし、そんなことしないよね」

  だが、実凛は育巳の言葉を全く疑わなかった。

  それを聞いて育巳は少しだけほっとする。

  

  「はいはい、この話は忘れよう。育巳ちゃんってお酒飲めるよね?」

  「まぁ…一応」

  「そっか~。私も早くお酒飲みたいんだけど…誕生日まだ先だからダメなんだよねぇ~」

  話題がお酒の話になったのは、彼らが今年で成人となるから。

  育巳は誕生日を迎えて20歳になったが、実凛は早生まれのためまだ19歳。お酒を飲むことが

 出来ないのだ。


  「育巳ちゃんは、成人式出るの?私は実花ちゃんと一緒に出る予定だけど」

  実花というのは、同じチームの白山実花のことである。

  「僕は行かない。兄上も成人式出なかったし」

  成人式というのは強制的ではないため、出席するしないは本人の意思である。

  「そうなんだ。残念だなぁ~…あっ、そうだっ!」

  突然実凛が大声を上げた。

  ちょうどポテトを食べていた育巳はびっくりして、喉を詰まらせる。

  

  「あぁ~ごめん、育巳ちゃん!」

  「……ちょっと」

  「育巳ちゃん、本当にごめん。マジでごめん。マジのマジでごめんなさいっ。すみませんでした」

  育巳がものすごい目つきで実凛を睨んでいる。

  その後、実凛は何度も彼に謝罪した。


  「で、何?」

  少しだけ機嫌が直った育巳が実凛に尋ねる。

  ショートケーキをもぐもぐ食べながら…。

  

  「えっとですね…成人式出ないなら、私とお祝いしない?今やってるみたいにさ、二人だけの

 成人式をするんだよ」

  「めんどくさい。却下」

  「えぇ~いいじゃんかっ。やろうよ、二人だけの成人式!」

  「ごめん。なんか成人式の部分が結婚式に聞こえるんだけど…気のせいだよね?」

  合っているのは『式』だけなのに、どうしてそう聞こえてしまうのかが不思議でならない育巳で  

 あった。


  「あっ、結婚といえば…」

  育巳の話を聞いて実凛が何かを思い出した。

  もしや、自分と結婚しようだなんてことを言いだすのでは?と思っていたが…。

   

  「隼士兄ちゃん、菊馬さんと付き合ってるらしいよ」

  育巳の予想は大きく外れた。

  「…えっと、知ってるよ」

  「えっ、そうなの!?」

  育巳が知っていると聞いて、実凛は驚く。

  「小山さん、二人が付き合ったって話聞いてなかったの?」

  「えっ、えっと…」

  実凛の反応を見て、『こりゃだめだ』と思った育巳。しかし…。

  

  「私、今日のお昼休みに隼士兄ちゃんと達己兄ちゃんが結婚の話してるの聞いちゃって…」

  「…」

  育巳は驚きのあまり最初言葉が出なかった。

  「その中に菊馬さんの話が出てきたから、二人は付き合ってるんだって初めて知って……って、

 育巳ちゃん?」

  心配になった実凛が育巳に声を掛けるが、応答がない。

  これは完全停止か?と思った次の瞬間、育巳は実凛に急接近してきた。


  「はぁっ!?何それっ、どういうこと?!」

  育巳が暴走モードに入ってしまった。

  「宮木先輩と兄上が結婚話?何かの間違いなんじゃないの?」

  「いや…私、目は良い方だから見間違いなんてしてないぞ」

  「視力が良い悪いの問題じゃない。問題なのは二人の会話!ほらっ、『結婚』を血液を意味する

 『血痕』と聞き間違えたってことは…「いや、それはないよ。絶対に」

   いくら実凛でも、『結婚けっこん血痕けっこん』と聞き間違えることはない。

   仮にもし血痕の話だったら、なんて物騒な話を昼休みにしてるんだと言う話になってくる。


  「そんなに信じられないなら、直接本人達に聞いてみたら?」

  「…そうだね。じゃあ、僕はここで」

   育巳は早速男子寮に戻って達己に話を聞こうと考えた。しかし…。


  「だめっ!今日は私とクリスマスパーティーなんだから、帰っちゃだめっ!」

   実凛は帰ろうとした育巳の右手を強く掴む。

  「育巳ちゃん、明日非番でしょ?それだったら明日聞いても問題はないよね?」

  「そっ、そうだけど…」

  「だったら、急いで帰る必要なしっ!私も明日非番だから、朝まで楽しもう~!」

  「…マジかよ」

   

   こうして、育巳は実凛と一緒にクリスマス・イヴを過ごしたのだった。

   …強制的だったけど。

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