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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
DreamMission(ドリームミッション)
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真実は、時と場合によって残酷な結果を招く


 

  突然姿を現した綾小路小町は、壇上の上にひょいっと腰かけて足を組むと彼らにこう話し始めた。


  「うちの極秘研究所へようこそ。既にご存じかとは思うけど、うちは綾小路小町。この研究所の責

 任者で…そこにいる綾小路小梅の母です。どうぞよろしく」

  自己紹介を済ましたところで、小梅が小町に向かって「お母さんっ!!」と突然怒り出した。

  普段は大人しい彼女だが、二年振りの親子の再会だというのに『久し振り』や『元気にしてた?』

 などという言葉は一切なく話を進めていく母親に小梅の怒りの炎はメラメラと燃え始めたのだ。

  「いったい今までどこで何をしてたの!?突然私を置いていなくなって…私がどれだけ心配した

 と思ってるのよっ!!あと、お父さんはどこ!?」

  

  「…ごめん、小梅。お母さん達にもいろいろ事情があったんや」

  「事情?」

  「今からそれ説明するから、そうかっかせんといて。なっ?」

 

  小町が小梅にそう説得していた直後、部屋の扉が勢いよく開かれた。

  全員が一斉に扉に注目すると、そこにいたのは傷だからの状態の那賀嶋クローンがいた。


  「あれ、あの子達はどないしたん?ここへ連れて来いって言うたはずやろ?」

  「…」

  那賀嶋クローンは何も答えない。

  だがその後、彼女を追いかけて来た瀬楽・富崎が部屋へとやって来たことで小町はクローンから

 瀬楽達に目を向ける。


  「なんや、ちゃんと連れて来てるやん。けど…肝心な子がおらへんな」 

  小町が独り言を呟いていると、遅れて美月・小林・満岡の三人が部屋へとやって来た。

  「おぉ~来た来た。お疲れさん」

  小町は近所のおばちゃんのように美月達に声を掛けるが、三人は小町に返事をすることはなかった。

  


  「久し振りやな、美月。あんたはずいぶん見ないうちに大きくなったなぁ~」

  「…誰?」

  美月は不審者を見るような目で小町を鋭く睨みつける。

  

  「そんな怖い顔で睨みつけんといてぇよ。せっかく可愛いくなったんやから、笑顔でおらんともっ

 たいないで?」

  「ほっといて。可愛いだろうが、可愛くなかろうがあんたには関係ない」

  「いいや。関係はあるで」

  自信満々で主張する小町に、美月は呆れ顔で「はっ?」と首を傾げた。

  

  「うちとあんたは他人であって他人じゃない」

  「…どういうこと?」

  美月がそう尋ねると、小町はにやりと笑みを浮かべた。

  まるでその言葉を待っていたかのように…。

  

  「うちと小次郎はな。あんたのお父さん…星野君とおんなじ施設で育った元孤児なんや。そんで

 …三人一緒にあるお方に仲良く引き取られてそれぞれ仮の名前を与えられた」

  「えっ…?」

  「そんなっ!?私、二人からそんな話聞いたことないよ!?」

  小梅は美月と話している小町に叫ぶ。

  「そりゃあ知らんわ。あんたには教えんかったし、小次郎にも『いらんこと吹き込むなよ』って

 口止めしとったからな」

  「どうして…。どうして私に教えてくれなかったの!?」

  「えっ?めんどくさかったから?」

  「そんな理由で!?」

  小梅は母親の回答に落胆した。

  しかし、小町の話にはまだ続きがあった。


  「仮にうちらが元孤児やったってことをあんたに話したとして…あんたはそれを受け入れられる

 か?自分の両親は他の人間と違って、生みの親の顔や名前も知らへんのやで?そんな話聞かされて

 …あんたは耐えられるか?」

  「そっ、それは…」

  小梅は先程とは違い、弱々しくなった。

  その様子を見た小町は、深くため息をつく。

  「無理やろ?あと…そのことを話したら、いろいろと説明せんといけんことがあったしな。だか

 ら、黙ってた」

  どうやら娘のことを想って、あえて話していなかったらしい。

  だが、『いろいろと説明しないといけないこと』の部分が引っかかる。


  「そんで…こっからが本題なんやけどな。美月」

  小町は小梅に向けていた視線を再び美月に戻す。

  「うちがあんたのことを他人じゃないって言ったのは…あんたと陽子を誕生させるきっかけを

 作ったんが、うちら…謎家やからや」

  「…謎家っ?」

  「でたらめなことを言うなっ!」

  美月達が驚いている中、小林が小町に怒鳴り声を上げる。

  「謎家はあの男だけのはずだ。お前が謎家であるはずがない!」

  「あの男って名無しさんのことやろ?名無しさんが謎家って名乗ってるんは、名乗れる名前を与

 えられてへんからで、あの人のほんまの名前とちゃう。謎家はその名の通り『謎が多い、謎に包ま

 れた人物』を表すものなんや」

  この場にいる瀬楽は完全に忘れていたが、彼は霜月達と一緒に芦達からその話を聞いていた。

  霜月がいれば、思い出せていたかもしれないが、肝心な時に彼の相方はこの場にいない。


  「うちら三人は名を与えられた後、それぞれの生活を送ってた。あるお方の命令に従って別々の

 道に進み、そして…計画を順調に進めていった。その計画こそが…あんたら姉妹を作ることやった

 んよ」

  「…私達を作ることが、計画?なんのために?」

  美月は訳が分からなくなってしまった。

  それは他のメンバーも同様に。

  「あれ?陽子から聞いてへんの?」

  「…覚えてない」

  思い出そうとするのだが、全く思い出せない。

  美月はなんとか思い出そうと顔をしかめる。

  

  「一卵性の双子でも、違うもんやなぁ~。まぁ、ええやろ。思い出せんのなら、仕方ないわ」

  言い方にもよるだろうが、小町は何だか美月をバカにしているように見えた。

  兄弟姉妹を比べて、『どうして兄(姉)は、頭良いのに、どうして弟(妹)は悪いのか不思議

 でならない』と言われているかのように…。


  「星野君と青葉との間に新しい命が生まれ、最初に出てきた子を『陽子』。そして後から出てき

 た子を『美月』と名付けた。そして二人は物心つく前に、片方の親に引き取られて生き別れになっ

 た。けど、これも計画のうちに入っててなぁ~…」

  小町は目線を部屋中に貼られてある写真へと向ける。


  「この部屋に置いてあるもんは全部、子供ん頃のあんたの写真や。知ってると思うけど、全部

 名無しさんが盗撮したやつで、几帳面に年齢順に貼ってある」

  「えっ!?これ全部!??」

  瀬楽がそう叫ぶと、隣にいた富崎も驚いていた。

  「なんや、今頃気づいたんか?おっそいなぁ~」

  「そんなこと、今はどうだっていい!それより…いったい何のために私達を作ったんだ!?」

 

  「…それはな」


  「小町ちゃんっ!」

  すると、扉の外から知らない男性の声が響いた。

  振り返るとそこにいたのは白衣を着た男性一人と、後ろに小森と志倉の二人の姿があった。

  

  「お父さんっ!?」

  小梅は白衣の男性を見てそう叫ぶ。

  どうやら彼が綾小路小次郎のようだ。


  「小町ちゃん、もうやめよう。これ以上この子達を苦しめるのは…」

  「今更怖くなったんか、小次郎?そんなんやから、あんたはええ歳になってもあのお方からも

 名無しさんからも子供扱いされるんよ」

  「…くっ」

  「ええ加減男になって、腹をくくらんとあかんで。うちらはあのお方に引き取られた時点で…

 既に運命は決められた。今更過去にはもう戻られへんし、違う道にも行かれへんことぐらいあんた

 も知ってるやろ?」

  「…うん」

  「だったら、やることをさっさと片付けて…全て、終わりにしよう。もう、うち…この世界で生き

 るのに疲れてもたわ」

  それはまるで子供が生きることに希望を失ったかのようなセリフだった。 

  元孤児である彼女は、心の奥底に『弱い自分』を閉じ込めて常に『強い自分』を維持してきた。

  しかし、それは24時間ずっと続くわけではなく、一人きりになると『弱い自分』が出てきてしま

 う。そんな『弱い自分』を現在の夫である小次郎がほとんど受け止めていた。だが、それは…他の

 人間から見れば『ただの憂さ晴らしで八つ当たり』でしかないのかもしれないが、小次郎はそんな

 小町のことを心の底から愛していた。


  「小町ちゃん…」

  小次郎は弱々しくなった小町を見て『可愛い』と思った。

  彼は自分でも変わっているとは思っているが、小町が落ち込んでいたり、お酒を飲んで泣き上戸

 になっている姿を見るとなぜか可愛いと感じ、興奮してしまう。(時には鼻血が出ることも…。)

  強い小町も好きだが、弱い小町はもっと好きというかなり危ない変態なのだが…小町は『ドМ』

 としか見ておらず、あまり気にしていない。

  そんな小町と小次郎が結婚することになったのは、小町のお腹に新しい命が宿ったからである。

  結婚するどころか付き合ってすらもいない二人の間に子供が出来てしまった。望んでいない妊娠

 に小町は最初中絶しようと考えたが、小次郎が必死に説得したことで新しい命は救われ、そして無事

 に誕生したのが、綾小路小梅なのである。


  

  「分かったよ、小町ちゃん」

  小次郎は覚悟を決めた。

  「全てを終わらせよう。それが僕達が今まで生かされてきた目的なんだから…」

  「…何でもいいから、さっさと教えなさいよっ!!」

  美月の怒りは既に頂点を超えていた。

  いつの間にか宝正が美月の近くにおり、「美月、落ち着いて」と励ましている。

  テレパシーを持つ彼女にこの場は地獄のような苦痛だろうが、自分のことよりも今は美月の心が

 心配でならなかった。


  「…ごめんね、美月。君をそんなふうにしてしまったのは、全て僕達が原因だ。君達双子を産み出

 し…世界の支配者と破壊者にするために、僕達はいろいろと準備をしていたのだから」

  「「「なんだってっ!??」」」

  瀬楽・富崎・國吉は声を綺麗に揃えて叫ぶ。

  他のメンバーは叫ぶことはなかったが、全員驚きを隠せておらず絶句していた。

  

  「僕達はあるお方の命令で、陽子と美月を世界の支配者と破壊者にするべく計画を進めてきた。

 二人を物心つく前に片親に引き取らせて育てたのは、一人である環境を作って常に自分は『孤独』

 であることを植え付けさせるためだったんだ。謎家に君達を監視させるように命じたけど、陽子に

 は未来予知があったからすぐに気づかれた。そこで陽子の監視をやめて、美月の監視を徹底的にし

 た結果、たくさんの写真が出来上がって…この部屋にたくさん貼られるようになった」

  「…いらねぇよ。こんな部屋」

  本人は今すぐにでもこの部屋に貼られてある写真に火を点けて燃やしたいと思っている。

  霜月がいればライターかマッチを物質召喚で出してもらいたいところだが、肝心な時に彼はこの場

 にいない。

  

  「そして、14歳になった君はあの事件で両親を亡くし…君は独りぼっちになった。けど、君は

 柊瑞生に引き取られて今の身体を手に入れ、新たな人生を歩み始めた。両親を殺した柊美鶴に復讐

 するためにね」

  「けど…そこから計画が狂い始めた。そのおかげで…いろいろ準備してたもんが使えんくなった

 りしたから、急遽予定を変更することにしたんや」

  小町はそう言い終えると、視線を小森へと向けてニヤリと笑った。


  「美月を破壊者にするために…声なしを使って計画を進ませようっていう作戦に。なっ?」

  

  またしても…衝撃的な事実が、綾小路小町によって明かされた。

  小森夜月が謎家側の人間であるという信じられない事実が…。


  

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