突然の恐怖
野菜・肉を炒めてから水を入れて、柔らかくなるまで煮込んでいく。
「おなかすいた…」
「さっきホットケーキ食べたじゃないですか?もうおなかすいたんですか?」
「あんなんじゃやっぱり足りないよ。菊馬がおかわりの分作ってくれないから」
「私のせいにするんですか!?ひどい…もう作ってあげません」
「あぁ、ごめん!ごめんってば!」
宮木はまたしても美月を怒らせてしまい、慌てて彼女に抱きついて謝罪を
する。
「だから、抱きつくのやめてくださいよっ」
だが許すと言わなければ宮木は離してくれないと言うので、美月は渋々ながら
許すことにした。
野菜が柔らかくなったのを確認して、カレールーを入れてる。
「味見させて」
「だめですよ。絶対一回では止まらないでしょ?」
「大丈夫だよ。ねぇ、お願い!」
美月はスプーンと小皿を棚から持ち出し、それにルーを少しだけすくい
宮木に渡す。
「はい。どうぞ」
渡された瞬間、宮木は一気に飲み干した。
美月はそれを見て、まるで酒を飲んでいるみたいだと感じた。
「うん。美味しい」
「そりゃあ美味しくなかったらダメでしょう」
「というか…今まで食べたカレーの中で一番美味しいかも」
それを聞いた美月は思わず彼に、「宮木さん、味覚は大丈夫ですか?」と
心配する。
「大丈夫だって。そんなに僕のこと信用してないの?だったら自分でも
味見しなよ」と宮木は自分の使ったスプーンと小皿を美月に渡す。
美月は一瞬戸惑った。
人が使用したものを、自分が使用するというのは衛生面に問題がある。
しかしまた拒否したりなどしたらまたしても抱きつかれたりすることを
考えて、美月は彼からスプーンと小皿を受け取り自分も味見をすることに
した。
「…普通に美味しいです」
「でしょ?」
「ですが、これといってすごく美味しいとは思えません。至って普通です」
彼が言った「今まで食べた中で一番美味しい」というのに値するには
どうかと思う。美月はますます宮木に関する疑問が膨らんでいった。
「嘘はついてないよ」
「分かってますよ。さて、後は先生の帰りを待つだけですね」
「えぇ~もういいじゃん。食べようよ」
「だめです」
「えぇ~けち」
「けちで結構です」
宮木は美月に従って、柊先生の帰りを待った。
しかし全く帰ってこないため…
「遅いですね。もう食べましょうか?」
「おなかすいた…」
「今温めますから待ってくださいね」と美月は台所へと入って行く。
そして数分後、美月がカレーを持って戻って来た。
「はい。お待たせしました」
「あれ…なんか多くない?」
「先生の分です。宮木さん、遠慮しないで召し上がってください」
「…じゃあ、いただきます」
「はい、どうぞ」
宮木は我慢していたこともあり、大盛りのカレーを5分で完食させた。
「食べるの早いですね」とまだ半分残っている美月は、宮木に対して
少々呆れているような声で言う。
「大食い大会とか出られるんじゃないですか?」
「妹尾と同じこと言ってる~。でも、僕はやらないよ」
「そうなんですか?まぁ、制限時間とかありますからね」と再びカレーに
手を付ける美月。
「ごちそうさまでした。食器洗ってきますね」と美月が宮木の分の皿を
取ろうとした時だった。
ガチャン!
「「っ!?」」
突然、何かが割れる音がした。
「何…今のっ」
「あんたはここにいて。僕が見に行ってくるから」
「だめですっ!」
美月は怖くなり、宮木の右腕をとっさに掴む。
「いかないでくださいっ…」
「大丈夫。すぐ戻ってくるから、ここを絶対離れないでね?もし何かあった
ら逃げるか警察に連絡して」
宮木は美月にそういうと、音がした玄関へと様子を見に行った。
「…宮木さん」
とっさに腕を掴んでしまった…いったい、どうして?
美月は無意識に宮木の腕を掴んでしまった理由が分からなかった。
突然の恐怖に身体が震え、独りになることを恐れた。
これは、美月が経験したあの事件の影響のせいなのかもしれない。
「うわぁああ!?????」
「っ!?」
突然、宮木の悲鳴が聞こえた。
それを聞いて美月は慌てて飛び出した。




