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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
DreamMission(ドリームミッション)
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『DreamMission』レベル100到達の特典報酬、『DreamHunting』


  特殊部隊本部の会議室。

  美月は授業を途中で抜けて、明智に一人の男性を紹介された。

  黒宮龍也くろみやたつやは明智が中学三年まで暮らしていた能力者施設の出身で、今年大学生と

 なり一人暮らしをしているという。そんな花の大学生である黒宮が特殊部隊を訪れたのは、昔仲良くし

 てもらった先輩に大学へ進学した報告でも、たまたま近くまで来たから顔を出しに来たわけでもなく、

 ちゃんとした理由があって明智の元を訪ねて来たらしい。


 「実はこのゲーム機なんですけど…」

 「…これって」

  美月には、黒宮が持っていたゲーム機に見覚えがあった。


 「美月ちゃんが持っていたゲーム機にそっくりでしょ?」

 「どうして…」

 「これはDreamMissionっていうスマホゲームでレベル100に到達したプレイヤーに無償で提供され

 る特典報酬なんだよ。黒宮はゲーム好きで、今話題のDreamMissionも天使Xが出る前からやり込んで

 、ついにレベルが100に達成した。そして翌日にそのゲーム機が届いたんだけど…説明書も何もな

 いから怖くなったってさ。美月ちゃんもゲーム機が届いた際に説明書とか付いてた?」

 「…いえ。そんなものはありませんでした」

  美月は黒いスマホのことを明智には教えなかった。


 「それで美月ちゃんにはこのゲーム機を調べてほしいんだよ。美月ちゃんは柊先生の助手やってたし

 、危機回避能力を持ってるから一番の適任なんだ」

 「…ようするに実験台になれということですね?」

 

  話の流れで、自分がなぜ呼ばれたのかを把握した美月。

  だがこれはまだましな方で、これがもし『怖いから代わりにお願いっ!』と言われてしまえばひど

 い扱われ用で、『人を一体なんだと思っているんだっ!』と怒っても良いぐらいである。

  

 「分かりました。ただし、明智さんには条件があります」

 「ん、何?条件って」

 「…もし私に何か起きたらすぐに自分だけ逃げるなんててこと、しないでくださいね?」

 「いやだなぁ~。可愛い後輩の命の危機に慌てて一人逃げるなんてことしないよ」

 「…そうですか。それを聞いて安心しました」

  

  明智の言葉を聞いてそう返した美月だが、本気でその言葉を信じてはいない。

  一方で明智の方は、美月に万が一の際に自分だけ逃走することを疑われてショックを受けていた。

  しかし、明智は『もしそんなことしたら、僕は四之宮と宮木君に殺される』とも思っていた。

  菊馬美月は四之宮光が今一番目にかけている後輩で、彼と同じチームの宮木・妹尾、そして浦瀬・

 大庭・小山・内山といった21歳組の正隊員とも仲が良いので、もしものことを考えると彼女に依頼

 していいだろうかと真剣に悩んでいたが、危機回避能力を持つ彼女以外に思い当たる人間がいなかっ

 たため、明智は覚悟を決めて美月に呼び出して頼むことにしたのだった。


 「では、このゲーム機少しお借りしますね」

 「あっ、はい」

  黒宮のゲーム機を持ち上げると、「電源のスイッチは…ここか」と電源ボタンの位置を確認する。


 「明智さん。逃げたら一生呪いますよ」

 「大丈夫だって。何かあったらちゃんと助けるから」

  明智のその言葉を聞き、美月はゲーム機を眼鏡を掛けるかのように装着するとすぐに電源を入れた。

  その瞬間、目の前の画面がパッと明るくなり『DreamHuntingの世界へようこそ』という文字が表示

 される。

 

 『このゲームはスマホゲームアプリ『DreamMission』でレベル100に到達された方への特典報酬と

 なっております。レベル100に到達されたプレイヤー様にはこのDreamHuntingの世界を楽しんでい

 ただけたらと思っております。さて、まず最初にプレイヤー様のお名前・叶えたい願いについてです

 が、これはDreamMissionを初期ダウンロードした際に行われる最初の任務で登録したものを設定して

 いるため、プレイヤー名・叶えたい願いの変更は残念ながら受け付けませんのでご了承ください』

 「…叶えたい願いか」

 

  黒宮が登録していた叶えたい願いは、『強くなりたい』とのこと。

  これは身体を強くすると言うことだけではなく、精神的にも強くなりたいことではないかと美月は

 勝手に推測する。

  それから数分後、DreamHuntingのナビゲーションの説明を一通り終えた。


 『以上でDreamHuntingの説明を終了します。お疲れ様でした』

 「…一通り終えましたが、やはりどうも胡散臭い感じがします。DreamHuntingの開催はまだ未定とさ

 れていて、決まり次第プレイヤーの所有するスマホにメッセージでお知らせするということですが…

 これは私のゲーム機も調べる必要がありますね」

 「そうだね。そう思って…」


  明智が美月に話している途中、会議室の扉にコンコンとノックの音が響いた。

 「どうぞ」

  明智が大きな声を出して叫ぶと、扉がガチャンと開いた。


 「失礼しまーす」

 『失礼します』

 「先生っ!?それに親機も…なんで?」

 「僕が呼んだんだ。美月ちゃんが説明を受けてる間にメールでね」

 「えっ…」

 

  明智は美月の知らぬ間に柊先生と連絡先を交換していたようで、メールを使って本部の会議室へ

 と呼んだのだった。


 「同じゲーム機持ってる人がいたんだって?明智君」

 「そうなんですよ。僕が15の時までお世話になっていた施設の後輩がゲームをしていて、その特典

 報酬で送られた物らしいんですよ」

 「ほぉほぉ~ってことは美月もそのゲームやってんのか?」

  明智の話を聞き、柊先生が美月にそう尋ねると「いいえ。私はDreamMissionなんてしてませんよ」

 と、美月はすぐさま返事をする。


 『スキャンしてみましたが、見た目や形も全て美月さんの物と同じですね』

 「すごい…ロボットだ」

 『どうも、初めまして。ロボです』

  

  黒宮は人型ロボット親機00を見て驚いていたが、今はそれどころではない。


 「とりあえず、DreamMissionの特典報酬だというなら私のも試してみる必要がありますね。私はゲー

 ムしてませんから、プレイヤー名や願い事などの設定は何もないはずですし…」

  

  美月は柊先生達に言いながら、自分用のゲーム機を装着するとすぐに電源を入れた。 

  ここまでは先程と同じだったが、画面が明るくなった瞬間に『ようこそ、DreamHuntingの世界へ』

 と、明るい男性のような声が美月の両耳へと響いた。

 

 『初めまして、僕の名前はルディング・チディアーミ。このDreamHuntingのナビゲーションを務めさ

 せていただく、人工知能プログラムです。以後お見知りおきを』

 「さっきのゲームと全然違う…どうして?」

  美月は驚くことしか出来なかった。

  その様子にルディングはこう話し始める。


 『驚くのも無理はありません。このゲーム機はマスターの完全オリジナルで、僕は貴女のためだけに

 作られた存在ですから、他のプレイヤー様に送られる物とはまた別物になります』

 「私のため?…なんでそんな必要があるの?」

 『もちろん、貴女を守るためです。貴女にDreamHuntingという名のデスゲームを完全にクリアさせる

 ためのね』

 「…デスゲーム?」

 

  美月の口からその言葉を聞き、大人三人とロボット一台は驚愕する。

  まさかデスゲームに使用されるゲーム機を持っていたなどと、考えただけで震えるだろう。

  漫画・アニメ・ドラマ・映画でもデスゲームのジャンルのものは多いが、それが現実世界で起こる

 となれば話はまた別となる。


 『このゲームは今大人気流行中のスマホゲームアプリ『DreamMission』をレベル100に到達された

 プレイヤーに無償で送られるものです。レベル100となったプレイヤーはDreamHuntingプレイヤー

 となり、デスゲームに参加することになります。しかし、参加はあくまでもプレイヤーの意思で決め

 られるため強制ではありません。ですが、プレイヤーの皆様は願いを叶えるためならデスゲームの一

 回や二回などどぉ~ってことないと思われるでしょう。ゲームのレベルを100まで上げられるんで

 すからそれぐらいの度胸はお持ちであると、ルディングは推測します』

 「いやぁ~それはどうかなぁ~」

 『もちろんこれは僕の推測ですので、確実ではありませんよ?』

  

  親機の時もそうだったが、このルディングも人間顔負けである。

  最近のロボットや人工知能はすごいなと驚かされるばかりで、もう人間など必要ないのではないか

 と思われるぐらいだ。


 『ではここで、プレイヤー名と願いの登録をお願いします。本来ならDreamMissionのゲームアプリを

 ダウンロードした際に発生する最初の任務で設定を行うのですが、貴女は特別なのでこのDreamHunti

 ngで登録してもらいます。一度登録してしまうと変更できないので、間違えないように気をつけてく

 ださいね』

 「…分かった。でもどうすればいいの?」

 

  スマホのように指でタッチすることが出来ないのに、どうやればいいのかさっぱり分からない状態

 だが…それを今からルディングが説明する。


 『はい。音声入力で登録しますので、もし間違いがありましたら訂正をお願いします』

 「了解」

 『では、プレイヤー名をお願いします。本名は個人情報流出の可能性がありますので、ニックネーム

 などが良いかとルディングは思います』

 「…」

  

  そう言われても、16年間生きてきて『これ良いな』と思ったニックネーム(もしくはあだ名)は

 存在しない。むしろ本人の許可なく勝手に付けられたものが多く、どれもこれも今思えば最低最悪で

 一人の人間を侮辱していたのだから、それはニックネームと言うよりもレッテルと言う方が正しい。

  『嫌われ者で、みにくくて、偽物で、嘘つきで、正直困った問題児』という名のレッテルを

 彼女はいつの間にか周りの人間達に貼られていたのだから。


 「…苗字だったり下の名前はダメなんだよね?」

 『ダメです。先程も言った通りそれは個人情報ですから』

 

  苗字・下の名前がダメだとすると、困ったことになった。

  かといって昔付けられた名前をプレイヤー名にすると気分が悪くなる。

 『こうなれば、あれを使うしかないか…』と美月は覚悟を決めて、「プレイヤー名を片仮名でクマキ

 にして」とルディングに告げた。


  クマキとは、未来からやって来た5年後の美月が使用した名前の『熊木』から取っている。

  それに富崎にも『クマ』と呼ばれているので、これなら気分悪くはならないし本名ではないから

 問題はないだろうと考えたのである。


 『はい。クマキですね?変更はできませんけど、よろしいですか?』

 「大丈夫、それでお願い」

 『分かりました』

 

  ルディングがそう言うと、プレイヤー名の欄に『クマキ』と表示された。


 『プレイヤー名、登録完了です。次は、クマキさんが叶えたい願い事ですね』

 「…願い?」

 『自分が今一番に叶えたい。これは絶対生きているうちに叶えたいという願い事です。ちなみにこれ

 も一度登録したら変更は出来ません』

 「そう言われてもなぁ…」

 「美月」

  すると柊先生が美月に声を掛けてきた。


 「なんですか?まさか自分の願いを叶えてほしいだなんて言うつもりじゃないですよね?」

 「いっ、いやぁ…そんなことは」

  どうやら図星のようである。

  美月は『分かりやすい』と思うのと同時にこの保護者に失望した。


 「美月ちゃん」

 「なんですか、明智さん。先生と同じなら却下ですよ?」

 「いや、そうじゃないけど…美月ちゃんってさ、あんまり欲とかないよね?」

 

  突然、本人に向かって『欲がない』と言われてしまうと『なんだこいつ?喧嘩売ってんのか?』と

 思うが、明智の言っていることは正しかったので美月は否定はしなかった。


 「人間って言うのは皆、欲を持って生きてるんだよ。金持ちになりたいだとか、幸せに暮らしたいだ

 とか、一生遊んで暮らしたいだとか…それぞれ欲望を持ってる。けど美月ちゃんにはそんな欲望がな

 いんじゃない?育った環境のこともあるだろうけど、なんか人生諦めてるっていうか…自分に冷めて

 る感じがするんだけど…違うかな?」

 

  明智には美月の心を読む能力などないが、元保護組である彼は自分とは違う境遇ではあるものの、

 そう言った生徒達を何人も見てきた。人間観察も仕事上では必要なスキルのため、明智には保護組と

 いう場所は練習台のようなものだったのかもしれない。


 「明智さんはだらしがないようでよく見ているんですね」

 「だらしがないって…僕は君の…元保護組の先輩だよ。それは失礼なんじゃない?」

 「…失礼しました。では、私からも一言…言ってもよろしいでしょうか?」

 「うん。いいよ」

 「…私に欲があろうとなかろうと、明智さんには関係ないことですのでほっといてもらえませんか?

 そもそも願い事や夢は必ず叶うとは限らないのだし、仮に自分に叶えたい願いや夢があったとしても

 …他人に押され踏まれ崩されてしまうのがオチなんですよ。それでも負けずと這い上がり努力を積み

 重ねればいいだとか、簡単に夢を諦めるなとか、やられたらやられた分だけそいつらを見返してやれ

 ば良いだとか言うなら自分自身の身体で実践して見せていただきたいものです」

 「みっ、美月ちゃん…」

 『美月さん、落ち着いてください』

 「えっ、落ち着いてるけど?」

 

  親機に言われてそう答える美月だが、目が完全に相手を『敵』として見ているものだった。

  見ただけでは分からないが、彼女は明智に怒っていた。

  相手が先輩・上司・教師と自分より立場が上の人間だろうと、自分の意思や自分の存在を否定する

 ものならば、美月はその人間を『敵』とみなし、信頼も信用もせず、宮木と喧嘩別れした時のような

 態度を取り、最悪の場合は相手の命を奪う行動も取りかねない。


  どんなに良い環境で良い親に恵まれて育てられたとしても、人間は損得を抜きにその時の感情で人

 を殺すことがある。

  けなされた・バカにされた・侮辱されたなどといった単純な理由などから罪を犯すこともある。

  これは誰しにも起こり得ることで、決して他人事で済まされる問題ではない。

  『自分は大丈夫。そんなことはしない』と思っていても、どこで感情が爆発するか分からないの

 だから。

 

 

 「感情をコントロール出来ない人間はバカなのか…それともストレートに物事をほいほい言う人間の

 方が賢くて良いのか…正解は、感情をコントロールし、的確に物事を進める人間こそがこの世界での

 賢い生き方で賢い人間だ。だけど、賢い生き方を全人類が行えば、世の中は上手くいきすぎてつまら

 ない世界なってしまう。だから人間はそれぞれ自分の感情…個性というものを持っている。それなの

 にその個性を潰し合って、最悪の場合その個性を嫌い自ら死を望み命を絶つ人間も多くいる。同じ人

 間なのに…どうして私達は潰し合いをしなければならないのか…今でもそれが理解出来ない」

  

  もはや自問自答に切り替わっていた。

  完全に大人三人とロボット一台を放置し、彼女は自分の世界へと入っていった。

  

 『あの~…願い事決まりましたか?』

  空気が重くなる中、ルディングが恐る恐る美月に声を掛けてきた。

  まだまだ言い足りなかったが、美月は仕方なく『自分が一番に叶えたい願い事』について語ること

 にした。


 「まだ信じられないけど、もし…本当に願いが叶うなら、私は…生まれてからこの命が尽きるまでの

 悲しくて辛い…今でも鮮明に思い出される過去の記憶の抹消を願う。それが…菊馬美月が一番に望む

 願いで…死ぬまでに一番叶えたい望みだ」

 『…分かりました』


  ルディングがそういうと、願い事の欄に『悲しい過去の記憶末梢』と表示された。

  短く省略されてしまったが、美月は『悲しい記憶が消えるならそれでいい』と特にルディングに

 文句を言うことはなく、その後もルディングの説明を受けた。

  

  

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