四之宮光は仕事やら後輩の件で頭を抱える
土・日・祝日でも仕事はあるところはある。
特殊部隊本部では、四之宮光が朝早くから大量に抱えた仕事を少しずつ確実にこなしていた。
明智が仕事から戻って来た際は、残りの仕事分を押しつけようとしたが『ちょっとそれひどくないっ
!?さすがにこれ全部なんて無理だよ!』と文句を言うものだから、仕方なく半分に減らした。
本日は土曜日。
ここにいるのは、警察への要請がある際に待機している正隊員も含めて二十名ほどが勤務している。
だが今日は一度も要請が入っておらず、本部としては珍しく平和な日常だった。
「先輩」
仕事をしている彼の元に現れたのは、宮木だった。
「どうした、宮木?どこか分からないところがあったのか?」
宮木の側には妹尾がいるので、ここにいる時はあまり四之宮には声を掛けない。
だが稀に妹尾でも対応出来ないことがあるので、四之宮は『何かあったのか?』ではなく『分から
ないところがあったのか?』と聞いたのである。
「あっ、いえ…そうじゃないんです。実は菊馬のことなんですけど」
「…また何かやらかしたのか?」
宮木から『菊馬』の名前が出て、四之宮は『やらかしたのか?』と言ったのは、今週の水曜日に
起きた鬼丸の件でのことがあったからだ。
仕事が忙しかったこともあり、説教は補習授業が終わってからにすると宮木に伝えたが…今度は
いったい何をしたんだと、四之宮は宮木が話すのを待った。
「いえ、今回は菊馬じゃなくて…芦達と柏学院の柏木理事長の方です」
「何?」
その後、四之宮は宮木から説明を受けた。
本来なら本人が直接話すべきなのだが、今日の補習授業が実技のためお昼休憩を使って本部へと
伺うのはきついらしい。連絡先をもらってはいるが、仕事が忙しいと聞いていたので機嫌を悪くさせ
るわけにもいかないし…とのことで、美月は朝早くに宮木に電話で相談することにしたのである。
「事情は理解した。まったく…どいつもこいつも勝手な真似を…」
四之宮は頭を抱えた。
「菊馬は先輩に相談して決めた方が良いと考えて、理事長には上司に相談して改めて電話するって
伝えたらしいですけど…どうしますか?」と宮木は四之宮に尋ねる。
宮木は個人的には美月を柏木理事長に会わせたくないと考えていた。
だが、美月は芦達や小森の件でお世話になったので会わないわけにはいかないと思っているため、
あまり強気で反対することが出来なかった。けれど、その前に上司である四之宮の許可が取れるか
どうかにもよる。
「会わせない…わけにはいかないだろうな」
少し考え込んだ後、四之宮はそう呟いた。
柏木理事長には小森の転入、そして…岸本の件を含めていろいろとお世話になっている。
なので四之宮は、『仕事が忙しいから』という理由で美月を柏木理事長に会わせないわけには
いかないと考えたのであった。
…その日の夜、午後8時30分。
保護棟にある柊先生の部屋で、美月は親機00を使って柏井理事長とビデオ通話で会話をしていた。
『来週の日曜日だね』
「はい。補習授業を午前中に変更して、午後からご自宅に伺いたいと思っております」
四之宮から説教を受けた後、美月は柏木理事長の件について彼から正式に許可を貰った。
来週の日曜日に行われる補習授業を午前授業にして、午後からの予定を無理やり空けたのである。
ちなみに午後の授業は再来週に変更されることとなった。
『私はそれでも構わないよ。日曜なら学校も休みだし、真一郎にも会えるからね』
「…そうですね」
真一郎の名が出てきて、少し反応が遅れてしまう美月。
『それで、お友達は何人ぐらい呼ぶつもりでいるのかな?』
柏木理事長は美月に尋ねる。
「保護組から四人。一般から三人…私を含めて八人で伺う予定にはしております」
彼の予想では二人かなと思っていたが、八人と聞いて理事長は『多いな』と思ってしまった。
だがあくまでも予定なので、当日がどうなるかはまだ分からない。
『一応確認しておきたいんだが…全員女の子なのかな?』
普通女の子が友達を連れて行くとなれば、同性だと考えるはず。
だが、美月の交友関係を知らない理事長は念のために聞かざるを得なかった。
「いえ。男四人に女四人です。その中には小森夜月も含まれています」
『…そうか。小森君も来るんだね』
だが、柏木理事長は彼の女体化した姿しか知らない。
芦達から事情は聞いているものの、やはり彼の記憶には『小森夜月(才川愛)は女の子』として
認識されてしまっているらしい。
「はい。いつも一緒にいるお友達なので、理事長先生にぜひ紹介したいなと思いまして」
美月はカメラに向かって笑顔を見せた。
『…なっ、なるほど。それは楽しみだね』
柏木理事長は明らかに嬉しそうだった。
友達を自分に紹介したいと言われると、なんだか父親のような気分になってしまう。
やはり美月には小悪魔的才能があるようだ。
それから柏木理事長との電話のやり取りを終えた後、美月は自分の部屋へと戻り、風呂に入って
すぐに就寝したのであった。




