完全にホットケーキ目当てなのにかなり迫ってくる件
「その前にいくつか質問をさせてください。回答の合計次第で結論を出し
ますので」
「えぇ~めんどくさいな。まぁ、聞くだけ聞いてあげる」
「今まで付き合った経験は?」
「ないよ。まったく」
「好きな女性のタイプは?」
「美味しい物作れる人」
それを聞いた瞬間に美月の答えが決まった。
「だめですね。全然、話になりません」とはっきり言われてしまい、
宮木はかなりのダメージを食らった。
「なんだ。結局振られるんだったらさっさと言えばいいのに」
「そもそも私を恋愛対象として見てないでしょ?美味しい物作れる女性なら
私じゃなくても探せばいくらでもいます。これじゃあ、いくら好きだと言って
も相手には通じません」
美月は恋愛に対しては過去に苦い思い出を経験している。
薄々勘付いてはいたが、彼は美月ではなく美月が作るホットケーキ目当てで
結婚しようと言い出しているのだと先程の質問で確信したのだ。
「僕は探す気なんてないよ。っていうか前にも言ったでしょ?あんたが
作ったホットケーキ食べてから「ホットケーキ病」になったんだって。
だからあんたが作ったやつじゃないとだめなの。それってもう好きになって
るのと同じことなんじゃないの?」
真剣に言ってるのだろうが、「ホットケーキ」のせいでとてもじゃないけど
良いセリフには聴こえない。むしろ、ダメにしてしまっているような気がす
る。と美月は思った。
「その、ホットケーキから一度離れましょう。そして、ちゃんと考えてみてください。私からホットケーキを抜いたら宮木さんは絶対、見向きも…っていうのはおかしいか?ただの年下の16歳にしか思わないはずです。好きな要素はゼロに等しいんじゃないですか?」
美月は宮木に無意識ではあるが何かを求めていた。
自分には何の要素もなくて、ただ単に普通の16歳であると言いつつも…。
それを聞いた宮木は少し考え込んで美月にこう口を開いた。
「無理。あんたからホットケーキを抜くことなんてできない」
「えっ…」
「あんたの頭がかちこちしすぎなんだよ。それにさ、試しに付き合ってみたら
案外気が合ってそのままゴールインしたっていうのもあるし。あることがきっ
かけで意識して仲良くなってっていうのもあったし、人それぞれなんじゃない
?まぁ、これ全部知り合いのあるリア充の話で僕が経験したことじゃないけどさ」
段々、よく分からなくなってきた。
「っていうか、そういう菊馬はあるの?付き合った経験とか?」
「ありません。一度片想いしていた男子に告白したことがありますが…
ひどい振られ方をしてしまって、それ以来全くです」
「もしかして、あんたが恋愛にうるさいのってそれが原因なの?」
美月はコクリと頷くと宮木は「なんだ~。ばかばかしい」と答える。
「ちょっと、なんですか!?人が真剣に悩んでいるのにばかばかしいはないでしょ!」
「だっていちいち昔の事引きずってるなんて…「あぁ、そうですか!私はバカですよ。もう知りませ
ん!」
「えっ…ちょっと待ってよ」
怒って美月が台所を出ようとした際に宮木がそれを必死になって止めようと
彼女を後ろから抱きしめて阻止する。
「いやっ、離してください!セクハラで訴えますよ!?」
「悪かった、ごめんって。だから怒らないで」
「貴方が怒らせたんでしょ!?いいから離して!」
それから数分後、水を飲んで落ち着いた美月は宮木にこう告げた。
「私は貴方のお嫁さんになんかなりません。断固お断りです」
「結局振るんだね。僕また食欲不振になっちゃうよ?」
「知りませんよ、そんなこと!」
「ひどい…鬼」
「何か言いましたか?言っときますけど、この腕まだ治ってないんですから
ね!」
美月は宮木を脅迫した。言葉にはしていないが、それはまさしく「食欲不振
なんかになったらいったい誰が手伝ってくれるんだ?」という意味が込められ
ていたのだ。
「分かったよ。ちゃんと食べるからその目やめて…怖い」
「そうしてください。妹尾さん達に迷惑でしょ」
「あの…」
「なんですか?」
「またホットケーキ作ってくれる?」
「…まぁ、手伝ってもらっていますから。お金出せない代わりの報酬として
作ってあげなくもないですよ」
「それで十分です」
時計を確認すると、もう5時を回っていたので宮木は男子寮へと帰ること
にした。
「じゃあ、気を付けて帰ってくださいね?」
「何それ?仕事に行く時に夫を送り出す妻みたい」
「通り魔にでも襲われてください」
「ひどいっ!思ったこと言っただけなのに?!」
「冗談ですよ。ではまた」と扉を閉めようとした際に、宮木がとんでも
ないことを言い放つ。
「さよならのキス頂戴よ」
冗談で言ったのか本気で言ったのかは分からないが、美月はそれを聞いて
顔が真っ赤になり必死に拒否した。
「やりませんよ。やっぱり一度通り魔にでも襲われてください!」と
今度こそ開いていた扉を閉めてきっちりと鍵をかけてしまった美月。
宮木は、美月の反応が面白かったのか手で口を押えて笑っていた。
そして笑いが収まってすぐに歩き出し、男子寮へと帰って行ったので
ありました。




